プレイボール
いよいよ試合が始まる。
ファルコンズとレイブンズのスタメンメンバーが一列に並ぶ。ダイヤモンドに向かい、一礼。
大きな歓声とともに、レイブンズのメンバーが守備に散らばっていく。
『1番 センター西沢――』
バーチャルフィジカルマッピング画面に選手の顔と名前が投影される。
そして実際に守備に就く選手の姿も。
『8番 キャッチャー九条』
内野にボールを回す姿がアップで映し出される。
『9番 ピッチャー――『ダイヤモンド・プリンス』天城トウ華!』
さらに大きな歓声。『ダイヤモンド・プリンス』は最近トウ華につけられたあだ名である。
画面に向かってVサインをかました後、トウ華は投球練習を始める。
まったく荒らされていないマウンドに気を取られることもなく、100マイル越えの速球を連発する。
『本日が初めての先発。ここ最近負けなしの天城です』
実況のアナウンサーがマイクに向かって話し始める。
『とはいえ、相手は現在首位を独走するファルコンズ。さらには今シーズン絶好調の4番スカディ相手にどこまで投げられるか。本日のマテリアル・パークドームは満入御礼、地元ファンの期待もうかがわれます』
『他球団の強力打線もしっかり押さえきっていますからね。とはいえ、スカディは異次元。プロの洗礼を受けることになるのか、いずれにしても見逃せない一戦ですね』
解説が上機嫌にそう感想を述べる。
現在レイヴンズは勝率5割ちょうど。ここで首位を下して勢いをつけたいところでもある。
『しかし、いままで天城を先発ではなく二番手として使ってきたのはなぜでしょうか?』
『確かに天才的なピッチャーですが、フィジカルには中学生女子のそれです。瞬発力はともかくスタミナという点で言うと、やはり不安がありますからね』
『今回あえて先発に起用した理由は何でしょうか?』
『いままでは中継ぎ抑えで期待できる選手がいなかったということがあり、このような起用になっていたかもしれません。レイヴンズの台所事情も改善して、信用できるリリーフ陣がそろい始めた――ということなのか』
いいながら、解説の元ヴァルキュリア選手は言葉に詰まる。
正直、いまだレイブンズのリリーフ事情は改善されていない。トウ華以上の実力を持つピッチャーがそうそう用意できるとは思えないのだ。蓮子がいるとはいえ、それすらトウ華の足元にも及ばない。
解説はベンチの中の瀬木監督を遠目に見る。
瀬木監督は現役時代セカンドを守っていた。生涯成績2割3分、ホームランは10本に満たない。
しかし、その成績に上回る印象を当時の選手たちに与えていた。
何を企んでいるかわからない、という不気味な印象を。
プレイボールの宣言がドームに響き渡る。
どちらのチームにとっても、落とすことのできない戦いが今始まる――




