遊園地の投球
地下鉄に乗る二人。動物園と遊園地は山の上に仲良く並んでいる。遊園地のCMの音楽はレイヴンズのチャンステーマになっているくらい、地元では身近なスポットだ。
まずは遊園地。
「あれ!あれ!バッティングセンターがあるよ!しかも旧野球時代の。凛、やってみてよ!」
ヴァルキュリアボールではなく、現実のボールを打つ方式のバッティングマシンであった。
「けがしたらまずいだろ、お遊びで」
「大丈夫!一番遅い速度なら!こんなんで怪我したら本物の野球できないよ」
しぶしぶ打席に立つ凛。時速は100kmを選択。
ゆっくりと旧式のマシンが動き出す。
初球。ボールにチップする。
二球目。心をとらえ、打球は痛烈に天井の網に突き刺さる。
とはいえ、普段のようなプロ級の弾道というわけでもない。『バルドル量子演算プロトコル』による補正によっていかに恩恵を受けているかを実感する。
(『昔の野球』だったら、外野フライも難しいかもな......)
少し手が痺れたあたりでバッターボックスを外す凛。
「ねえねえ、ピッチングマシンもあるよ!やるやる!」
1から9のボードが向こう正面に配置されている。投げたボールでこれをすべて当てるといったゲームらしい。マウンドから距離的にはヴァルキュリアリーグのレギュレーションとさほど変わらないようだった。
ボールを握るトウ華。それをハラハラしながら見つめる凛。こんなことで肩を痛めたら、コーチや監督から何を言われるかわかったもんじゃない。
そんなことはお構い無しに、トウ華は軽く白球を放る。
(......?!)
驚く凛。時速120kmは超える球速。投球は右下の『7』をぶちぬく。
「つぎは内角低め」
トウ華はそう宣言し投球する。ばあん、と大きな音。『9』のボードが粉砕される。
順々にボードは破られていく。トウ華の予告通りに。
残ったのは真ん中の『5』と『8』のボード。
「面倒だから二枚抜きいくね。現実世界の『シュレジンガー・カッツェ』発動だ!」
そういいながら振りかぶってトウ華は思いっきり投げ込む。一番の速球。そのボールは唸りを上げて、『5』『8』のボードを一度に粉砕した。
言葉が出ない凛。
確かに、ヴァルキュリアベースボールはヴァーチャルなスポーツとはいえ、強力なフィジカルが要求される。しかし、現実世界のボールを用いてここまでの投球を女子中学生ができるというのはにわかに信じがたかった。
スタッフが驚きながらも景品のぬいぐるみをトウ華にわたす。
あっと驚いた声を挙げるスタッフ。
トウ華の顔を見て、いま話題のレイヴンズの救世主であることに気がついたらしい。
「いや~さすがはプロですね。勘弁してくださいよ~」
そう言いながらサインの色紙をねだるスタッフ。景品のうさぎのぬいぐるみを抱えながらニコニコとサインに応じるトウ華。
その姿を凛は複雑な面持ちで見つめていた――




