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ダイヤモンド=ヴァルキリア~青白き球の女神たち  作者: 八島唯
第1章 ダイヤモンドの原石

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17/25

2つの未来

 バッターボックスに入る美濃川。

 一塁ランナーには目もくれず、集中する。

 彼女が狙うのは本塁打のみ。

 ここはそれで試合が終わるのだ。ならば、そうするのが最適解なのである。

 ヴァルキュリアベースボールにおいて『運命視』は魔法のようなものである。

 使うたびに、マジックポイントのようなものが消耗されていく。

 五感が衰退し、肉体的疲労が蓄積していく。

 最悪、立っていられなくなることもあるのだ。

 美濃川は決心していた。相手が渾身の『運命視』を用いたボールに対して自分の『運命視』のすべてをぶつけてやろうと。

 初球。セットポジションからの投球。

 速い球。しかし高めに外れる。

 二球目。スライダー。外角低めに落ちる。ギリギリストライク。

 引き締まった体を、震わせる美濃川。じっとトウ華を睨みつける。

 三球目。

 なんとワインドアップからの投球。

 ひさしぶりの160Km超えのストレートは内角をえぐる――はずであった。

 思いっきりそれを引っ張る美濃川。かなり無理な態勢ではあったが、完全にボールの芯をとらえていた。 

 ドームが静まり返る。

 急角度に弾道を伸ばしながら、左翼スタンドに伸びていく青い球。まるで彗星のようにゆっくりと尾を引きながら、弧を描く。

 キャッチャーマスクを外して、凛は立ち上がる。

 トウ華は一瞥もくれずにじっと立ち尽くしていた。

 ゆっくりと――そして青いたまはぎりぎり左翼のポールの外側を通る。

『ファール!!』

 AI線審によるコール。

『いやぁギリギリでした。もう少しでホームランでしたね』

『ドームなので風がない分、伸びませんでした。これは投げにくくなりますよ。天城投手』

 バッターボックスを外し切り替える美濃川。

 凛はゆっくりと腰を下ろす。

『予定通り。これで2ストライク。次で仕留めるよ』

『バルドル量子演算プロトコル』を経由しないトウ華からのメッセージ。

『さっきと同じ球。シュレディンガー・カッツェを発動させる』

 シュレジンガー・カッツェ。それはまさに先程、柳川に投じた決め球である。

 2つの状態を持つ球。横の変化と縦の変化の両方を同時に満たす魔球である。

 シュレジンガー・カッツェ。日本語では『シュレジンガーの猫』。打者が打つ瞬間までそれは2つの状態がそれぞれ確率として存在する。打者が当てようとした瞬間にその状態は確定し、そして新しい状態を生み出すのだ。

『その時、『運命視』の力が勝っている方が勝利する。大丈夫。ボクは勝利する』

 トウ華はサインを送る。

『高速スィーパー』

『高速スライダー』

 の2つのサインを。

「うちとったら、明日はデートね。約束だよ!」

 そう口に出して大きく振りかぶるトウ華。『運命視』が発動し、これが決め球であることが示される。

 一方、美濃川の方もそれを読んでいた。同様に『運命視』を発動する。

 彼女の作る未来は、変化球をホームラン。どちらに変化球が来ても、それを引き寄せる剛腕。逆転サヨナラの未来である。

 ゆっくりと変化しはじめる青い球。縦に変化しはじめるその球筋はまさにトウ華の決め手のスィーパー。いかに切れが良くても『運命視』により未来を構築されればひとたまりもない。

 目を見開く凛。

 彼女の眼の前に新しい『未来』が構成されようとしていた――

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