チャンス
トウ華は好投を続ける。
安打を打たれこそすれ、大事なところはきちんと抑えるピッチング。三振を取ることに拘泥せず、状況に応じて打たせて取る判断はまるでベテランのようであった。凛の方ではあまりサインのイニシアティブをとっていない。もっぱらトウ華の決めたサインを了承するのみである。
なぜなら、それが一番の最適解と感じたからだ。
小さい体。細い手足。それに不似合いな豊かな銀髪が踊るたび、0点の表示が増えていく。
レイブンズの投手コーチは目を見張る。確かに逸材とは思っていたものの、ここまで好投するとは夢にも思わなかったからだ。
1-0の投手戦。オルカスは5回から、すでに継投策に出ている。
一方、トウ華も3回をすでに投げきっていた。
そろそろ、交代のピッチャーをブルペンに......と連絡端末を立ち上げようとするが、それを瀬木監督が目で咎める。
「......何回まで投げさせますか」
投手コーチが小さな声でそう相談する。
「そうだね。打たれるまでかな。いや、本人が嫌になったらでもいい。でも多分、そんなときはこないと思うよ」
はあ、と投手コーチはわかった風を装う。
そうこうしているうちに6回裏も2安打されつつも、失点ゼロでトウ華は切り抜ける。
『9番バッター、九条』
アナウンスの声が響き渡る。レイヴンズの応援歌がチャンステーマに変わる。
7回表、フォアボールから内野安打でランナー23塁のチャンスを迎えるレイヴンズ。ワンアウトながらチャンスで凛の打席である。
ここまで3打数ノーヒット。そもそも打撃を期待されていない選手とはいえ、ここは期待が高まる。
代打は――ない。どうやらトウ華とセットが前提であるため、ここで凛を外す選択はないようだ。無論、そのことを知らないファンからは不満の声も上がる。
「代打使わんか!九条じゃ無理や!代打ださんかい!」
幸いスタメンを外れている外国人選手ソルテリーノが控えていた。最近不振なためスタメンを外れていたが、ミート力はぴか一である。
しかし瀬木監督は動かない。
腕を組んで目を閉じサインも出さない。
『おまかせ』するスタンスである。
まいったな、と凛はバットを構えながらボールを見極める。
ボール。これで2ボール1ストライク。
相手のピッチャーはオルカスのセットアッパー永山である。150kmを超える速球とよく落ちるフォークボールを武器に活躍中の新人である。今季ももう15試合目の登板。安定感も半端ではない。
そして、凛が苦手なタイプのピッチャーでもあった。
高めの速球そして低めの変化球。いずれもタイミングが合わない。せめて『運命視』により、そのコースを決定できれば勝負になるのだが、いかんせん永山の『運命視』の能力が常に上回っていたのである。
2ストライクと追い込まれる凛。
ファールで粘っては見るもののどうしても、タイミングが合わない。
完全に凛は八方塞がりになっていた。
その時――彼女の脳裏に声が響き渡る。それはトウ華の声が。




