変える未来
全くサインがない状態で捕球を迫られる凛。
一方柳川は『運命視』を外角に外れるボール球に決定した。
多分未来はそうなるであろう。
柳川ほどの選手であれば『運命視』のポテンシャルは極めて高い。自分の望む未来を容易に作れるはずだ。ましてや相手が初マウンドの中学生であれば。
しかし、未来は柳川を裏切った。
外角にボールが変化する。
しかし縦の変化はない――スライダー?いやスィーパーか?瞬時に判断した凛はミットを構える。
柳川の『運命視』を裏切るコース。サインを出さなかったのはそのせいだったのか。
(小細工を!その程度の変化であれば『運命視』は十分対応可能だ!やや高めにミーティングポイントを設定してやれば......』
さすがはオルカスの主砲。瞬時に『運命視』を調整し、スィーパーの変化に対応する。『バルドル量子演算プロトコル』へのアクセス。そして、命令パケットの変更。瞬時の間に対応できる能力の持ち主――それが選ばれたヴァルキュリアの証である。
先ほどは流し打ちであったが、強引に引っ張る方向に変更。結果として変化球を捉えた打球は、外野の壁に直撃するタイムリーという未来が再構築される――はずであった。
どーんと耳をつんざく音。それはミットに青き球が収まった音である。
柳川はフルスイングの態勢を崩して、バッターボックスに膝をつく。バットは空を切っていた。
トウ華は帽子を飛ばしながら、同じようにマウンドに膝をつく。にやり、と笑みを浮かべて。銀色の髪が流れ出る。それはまるで勝利の舞を舞うように、大きく溢れ出す。
AI審判の判定が響き渡る。
『ストライク!バッターアウト!』
しんと静まる世界。
少しの沈黙ののち、歓声が上がる。
『すごい!主砲柳川を三球三振!どうやら『運命視』の競り合いだったようですがルーキーの天城がその競り合いを勝利したようです』
「ちがう」
凛は小さくつぶやく。
そうではない。
明らかに柳川は『運命視』において勝利していた。スライダーからスィーパーに球種を変更したのは意外だったが、それすら柳川は対応していた。
しかし――柳川のバットは空を切ったのである。
柳川自身がしきりに首をひねる。
おかしい、完ぺきにとらえたはずだったのに。
それをベンチから見つめる美濃川。彼女はあることに気づいていた。柳川がトウ華のボールを完ぺきにとらえていたことに。
それならなぜ、バットは空を切ったのか?
その理由はまだ定かではない。
このあとトウ華は続くバッターをゴロフライの凡打でさばく。
先ほどとは異なり、ごくごく普通の投球によって。




