『運命視』
『165......165Km!!すごい!初球で160を超えました!バッターの柳川も手を出せず!』
空中に浮かび上がる時速103マイルの表示。『バルドル量子演算プロトコル』により女性でも150Km台の剛速球を投げることは可能とはいえ、160を超える選手は数少ない。それも中学生が。
手にびりびりとしびれが走る。二度目の感覚。それはあの通り魔の現場で受けた三球目のボールの感覚と一致していた。
座ったまま、返投する凛。踊るように小さな体のトウ華がそれを受け止める。
再び振りかぶってボールを投じるトウ華。
『もう少しギア上げてくね!受け止めて、私の愛を!』
これは野球のサインなのか?というメッセージが『バルドル量子演算プロトコル』を通じて凜の頭の中に広がる。
再び真ん中にミットを構える凛。その瞬間に再び青い矢がずどんとミットに納まった。
バッターの柳川はど真ん中の直球に手を出すも振り遅れる。単なる速さだけではない。伸びも感じさせる投球に完全に圧倒されていた。
ヘルメットの鍔に指をかけ、バッターボックスをはずす柳川。今季四番を任されている中堅の選手である。打点王を獲得したこともある、オルカスの主力選手であった。ちっ、と舌打ちをする。今まで見たことのないようなストレート。先ほどより球威が増しているようにも感じられた。
しかし
柳川は気を取り直す。
このヴァルキュリアベースボールでもっとも大事な要素。それは『運命視』の能力である。
『運命視』をピッチャーが使用することで、望んだコースにボールを投げ込み三振を狙う。
一方、バッターはそれを読み自らの『運命視』により、バックスタンドへボールをはじき返す。
最終的につまるところは、『運命視』の能力がどれほど大きいのかの勝負に収れんするのだった。
ならば、柳川は有利なはずである。相手は中学生そして初マウンド。『バルドル量子演算プロトコル』にもまだ慣れているとも思えない。
意識を集中する柳川。『運命視』が構築される。
『次の球。外角に外す変化球スライダー。それで空振りを誘う。それを流し打ち。右方向二塁打。二者生還』
これで3点先取。プロの洗礼を受けるべきだろう、と柳川は納得する。
当然凜もそれを察していた。
外すなら、大きく。相手の挑発に乗る必要はない。ここは立ち上がっても――と思った瞬間、トウ華が振りかぶる。
サインがない。サインを出すことも受け取ることもなく、いきなりトウ華は投球を開始したのだった。
先ほどよりは速度は遅い。多分、変化球。とっさに外角に構える凛。
まずい!このままでは――
静かなフォロースルーのままトウ華はただうつむいていた。




