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宇宙航路は遥かにて  作者: 星川わたる
第1章 航路のはじまり
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第27話 後に回した問題

 システムは復旧し本船は航行可能となったが、確認すべき点が残っているため出航を遅らせることにした。


 気になったのは「TSL2198」の両舷を前後にぶち抜いた、ビーム砲撃の痕跡。

 ぼくの見立てでは、それは口径20センチ程のエネルギー砲によるもの。義勇団でそのクラスの砲を搭載するのは、2級戦闘船という大きな船。

 しかし、それほど大きくない民間貨物船に対しては、あまりにも過剰な戦力だ。「TSL2198」を破壊するだけなら、小さい5級戦闘船で事足りる。


 その点を確かめるため、その場にいた彼女に話を聞くことにした。


「襲われたとき、相手は何隻だった? 船のおおまかな大きさは?」


「2隻だった。大きさは……軍隊でいう巡洋艦、くらい?」


 巡洋艦……軽巡か重巡かでだいぶ大きさが違うが、大きな船であることに間違いはない。

 5級戦闘船を巡洋艦クラスと見間違うことは、まずないはず。となると、やはり2級戦闘船だ。


「やっぱり過剰戦力だ、しかも2隻……常軌を逸してる」


「それはどうして?」


「今回使われた船……だぶん2級戦闘船というやつだけど、こいつは強力な戦闘船だ。戦艦なんかとも撃ちあうこともある。非武装の貨物船1隻に使うものじゃない、過剰戦力だ。すごい砲撃だったろう」


 2級戦闘船の主砲の射撃は、直撃すれば戦艦の装甲を撃ち破る。もしまともに当たっていたら、このひとはもう跡形もなかったはず。


「うん、ものすごかった。なんとか避けてたけど、すこしかすって、船体に主星の熱が入りはじめて……船体が熱で崩壊する前にこの星の陰に入れたのは、すごく運がよかった。それと、あなたが助けにきてくれたのも」


 船に関しては、きみの操船がよかったからだと思うけどなあ。


「通信機も壊れちゃってたのに、あなたは……あ、ごめん、話それちゃった。あいての戦力が過剰だって、言ってたよね」


 そうだった。

 襲ってきたのは2級戦闘船、明らかな過剰戦力。


「そうなんだよ。本来は、小さな5級戦闘船で十分なんだ。あれは攻撃力が低いけどスピードが出るし、きみの船を破壊するだけなら……あれ?」


 まてよ、ここで2級戦闘船は――


 とんでもない点に気付いた。

 彼女はあえて発言せず、ぼくの言葉を待っている。


「この星系、高速船以上の船じゃないと航行できないはずだ。普通船だと推力が足らなくて、すこしずつ主星に引かれて出られなくなる。単独テレポートも――それだって機関出力が足らない」


 ここはそういう場所だ。そして――


「2級戦闘船は普通船だから、いちどここに進入したら戻れない。主星に沈むしかない」


 そうなる。


 貴重な大型戦力である2級戦闘船を、それも2隻、喪失確定の状態で投入してきたんだ。


 なんだ、なにが狙いだ――?

 義勇団に目的意識はないが、作戦を考える能力はある。こんなこと、普通はしない。


「2級戦闘船を2隻、わざと失うほどの強行作戦をやったんだ。さすがになにか重大な目的があったはず……きみのほうに、心当たりは?」


「ない。お客さんが……あの2人が乗っていたのは違法だったけど、わたしの船ではよくあったこと」


 よくあった、か。

 このひとは、その「乗客」の詳しいことを把握しているだろうか。


「2人について知っていることは?」


「ううん、全く知らない。あの人達は……」


 そこで彼女は少し言い淀んだ。


「……あの人達は、出港時から船に乗っていたんじゃないから」


「――?」


 港から乗ったんじゃない、という意味か?

 いや、それじゃあどこから船に乗れるんだ。


「あの人達は、わたしの船の船長たちが無理やり乗り込んで、物を盗ろうとした船に乗っていた――別の船のお客さん」


 は――?


「……銃を持ってたでしょ、あれはそういうこと」


 銃を持ってた……「TSL2198」の乗員のことか。


「物を盗るって、何を」


「お金になりそうなもの。そういうこと、わたしの船は時々やってた……」


 うわ……


 いや、確かにぼくも思っていた。あいつらを船に乗せて、許可なしに銃を持ち込んでいるのを見たときに。「ちょっとした海賊並みだな」って。

 マジかよ……本物の海賊だったのか、あいつら。


 あの全く好感を持てない船長、海賊の親玉だったんだ。「海賊船長」というと、なんだか強そうに聞こえてくるな。

 あいつらの中に、銃をちらつかせず隠していた奴がひとりいた。しかも戦闘用ナイフまで持っていた。考えてみれば、あれは異常だ。護身用とか、そういう言葉では片付けられない。あいつ、斬り込み要員か。

 「時々やってた」ってことは、完全な海賊稼業ではなかったのだろう。いつもは普通に貨物輸送をしていて、たまに他船を襲ってた、ってところか。


「……」


 彼女は下を向いてしまった。


「いやでも、きみがやってたわけじゃないんだろ?」


「うん。でも……」


「じゃあ、あんまりそのことは考えなくていいと思う」


 しっかりしたこのひとが海賊行為をするとは、正直思えないし。


「それで……あの2人の『乗客』は、襲った相手の船に乗ってたってこと?」


「うん。その船にもお客さんとして乗り込んだみたい。かなりお金を持っていたみたいで、いくらか分からないけどうちの船長に払って、乗り換えた。この星系を航行していたのも、船が少なくてあまり人の目がなかったから」


 海賊行為をはたらいた後で、できるだけ人目にふれずに移動したかった、ってことか。それでこの海域にいたんだ。


 で、彼女が話した情報から考えるとその2人は――


「報酬をたっぷり払って非合法に貨物船に乗った、か。しかも、それだけ金があるのに客船の特別室に乗らない――プライベート用の高速客船もチャーターしない」


「そう。いつも乗せるお客さんは、何かの理由で客船に乗れない――客船に乗って移動の痕跡をたどられるとまずい、なんて人」


 やっぱりそうなるよな。


 彼女自身は、義勇団に狙われる心当たりはないと言っていた。

 だから――


「そいつらが、きみの船が義勇団に狙われた原因っぽいな。具体的なところは分からないけど、2級戦闘船を出してくるくらいの事情があるんだ。女のほうは護衛役っぽい――たぶん男だな、問題は」


「義勇団は――過剰な戦力を使ってでも、その人を消したいということ?」


「『消したい』――そうだ、文字通り消したかったんだろう。船まるごと」


 2級戦闘船の主砲での射撃……直撃すれば、船は完全に消滅していた。「破壊」だけじゃ満足できない、「消滅」させなければならないものがあるんだ。


 となれば――


「あいつ、調べよう。おそらくあいつの所持品か、頭の中になにかある。義勇団が『消滅』させたいなにかが」


 すこし強硬でもかまわない。その「なにか」をはっきりさせておきたい。


「おれが行ってくる。きみはここで探知装置を使って外部の監視を。敵がいつ来るかわからないから。なにかあったら放送で知らせて。それと……」


 行ってから帰ってくるまでに、多少時間がかかるはずだ。その間に、別のことを同時に進行させられると都合がいい。

 このひとは航海士。「それ」ができる技能を持っているはず。


 聞いてみて、大丈夫そうだったら――


「もし2級戦闘船が――武装した普通船がいるとした場合、それを避けてこの星系から出る航路、どう考える?」


 何気なさを装って、聞いてみた。


「それは――」


 彼女は少し顎に指を当て、考え始めた。


「普通船くらいの推力だとすると……機関を回していればまだ沈んではいないけど、ここからはだいぶ離れているはず。推力は足らない……戻ってくる心配は、ない」


 前を向いた彼女の口から、次々に言葉が出てくる。


「とるべき航路は……この不安定な海域で、船単独でのテレポートは危険すぎる……2つある転移クリスタルの、どちらかへ……所要時間からみて、このGSL209が出てきた側がいい」


 ――引き返す、という判断か。

 積み荷が届けられなくなるな。


 そして……そうするのが正しいだろう。


 ……このひと、きっちりした見た目の通り優秀そうだ。

 いまも、頭のなかではさまざまな要素と数字が飛び交っているのだろう。わりと適当に処理するぼくより、信頼性は高いかもしれない。


「星を出た後の針路は――」


「オッケー、もういい」


 ぼくは彼女の言葉を遮った。


「あ……ごめんなさい、わたし自分ばっかりずっと――」


「その航路算定――」


 ……ぼくの船、他人にいじらせるのは我慢ならない。


 でも――


「――きみに頼みたい。きみがいちばんいいと思う航路でいい。各システムの操作はすべて許可するから」


 このひとになら、委ねてしまっても大丈夫に思えた。


「え、あの、でもわたしは――」


「もうその操舵席に座ってるでしょ。はじめてそこに座った名誉ある航海士なんだ。航路算定、丸投げしても大丈夫だろう。……いけそう?」


 ぼくがそう言うと、彼女はちからのある笑顔をみせて、うなづいた。


・・・・・・


 白い照明が並ぶ通路を、歩いていく。ぼくの足は、怨霊に掴まれていると錯覚するほど重い。


 あのひとと話していて、途中で気付いたことが、ひとつ。

 ぼくはそのことに触れずに、彼女と会話を続けた。

 そしてその解決法が全く浮かばないまま、操舵室を出てきた。


 問題は……


 脱走員――このぼくを追い詰めにかかるであろう義勇団から、どう逃れるか。


 一度、脱出には成功している。

 しかしそれは、死の淵に足の半分をはみ出させたような状態で歩いた道だった。


 二度目は、あるのか――


 ……。


 頭を振って、その考えを振り払った。


 ぼくはその問題を先送りにして、いま通路を歩いている。

 それを考えると、本当に頭が狂ってしまうだろうから。


 彼女に差し出すことができる「生き延びる道」を、ぼくは手にしていない……

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