楠木side
楠木side
月島が学校へ来たと聞いて居てもたっても居られなくて2年の教室に
来ていた。
水戸の顔が歪んだがすぐに月島に向き直ると優しげに手を貸す。
「蛍、荷物持つから待ってろ」
「別にリュックにしたから平気だよ?」
「いや、危ないから、待ってろ。勝手に帰るなよ!それと、楠
木お前もさっさと帰れ」
「別に水戸先輩に言われる事じゃないですよね?俺は月島先輩
に会いに来たんで…待ってる間暇でしょ?話相手になります
よ?」
どうしても二人きりで話したかったからだ。
だが、すぐにそれをも拒絶されてしまう。
「たかちゃん。部活見学してもいいかな?」
「あぁ。構わないよ。なら一緒に行くか!」
「うん」
連れて行かないでくれ…
言葉が喉の奥まで出かかったが、言えなかった。
「お前は邪魔だからついてくんなよ?ほらっ、女子が待ってる
ぞ?色男くん!」
俺の欲しいのはたった一人なのに…それが一番難しかったのだ
った。
女子に囲まれ、そのままカラオケに向かった。
今は何も歌う気にもなれない。
ただつまらなそうに画面を眺めるだけだった。
すると、横に座った女子は嬉しそうにこっちを見てくる。
一曲終わるごとに女子の席が変わった。
どうせ、置物とでも思っているのだろうか?
顔がいいだけの置物。
そんな風に思われ続けてきた毎日を思うと、月島と一緒に入られ
た日々がどんなに充実していただろう。
「本当につまらない顔をするのね…」
「…」
「そんなに嫌なら抜けちゃいなさいよ。まだ、月島先輩なら学校
にいるでしょ?」
「…なんで?」
「だって…見てればわよ。トイレって言えばいけるんじゃない?」
「…行っても俺は……」
「しつこい男は嫌われるでしょうね…でも、好きならアタックす
るしかないじゃない?相手は同性なら尚更よ!」
カラオケ中だった為にこの会話が聞かれる事はなかった。
初めてその子の顔を見た気がする。
おさげのどこにでもいる普通の女子だった。
「そのままじっとしてる気?」
「そうじゃないけど………君はそれでいいのか?」
「いいわよ、だって私、腐女子だもん。付き合えたら色々聞かせてよ」
「うん…そうだな…」
楠木は立ち上がると『ちょっとトイレ』というと部屋を出た。
後から出て来た彼女は楠木の鞄を持って来てくれた。
「早く行きなさいよ」
「あぁ、ありがとう」
「本当に…手のかかる王子様ね…」
送り出してくれた彼女の事は多分覚えていられる気がした。
いつも女子は皆同じに見えたが、今日だけは少し感謝していた。
体育館へと足を早めた。
早く会いたい。
月島に話したい事がいっぱいあるんだ。
でも…まずは一つだけ言いたい。
あの時どうして………?
その言葉が彼に突きつける意味を知りたくて。
答えがなんであれ、月島の口から聞きたかったのだった。




