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たとえ今、好かれなくても…  作者: 秋元智也
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楠木side

楠木side


何度も病室へと訪れた。

それでも、先輩の態度に変化はなかった。


待合室で時間を潰すと水戸が帰っていくのを待った。

今は、顔を合わせたかないからだった。


どう見ても水戸も月島先輩の事を友人としてではなく、一人の

人間として愛してしまっている気がしたからだった。


それは自分もそうだから分かる事だった。

視線があきらかに友人ではないと判断できたのだ。


「こんなところで諦めてたまるかよっ……本気で好きになった人

 なんだよ」


誰もが顔しか見ていない中で、唯一優しくしてくれた人なのだ。

打算なんてない。

純粋な優しさに触れたのは初めてだったのだった。


「月島先輩〜……?」


病室に入ると丁度さっききたであろう水戸が持ってきたプリンを

見かけた。

食べ終わったのを片付けている最中だったらしい。


「プリン食べれたんですね…」

「…まぁ……そうだね」

「俺もプリン持ってきたんです。ここのお美味しいですよね?」

「あぁ………」

「今、食べてくれますか?」

「今はちょっと……」


さっき食べたばかりだからとは言わなかったが、見れば分かる。


「どうしたら、先輩は食べてくれるんですか?」

「もう…こなくていいよ…」

「それは…本心ですか?」

「あぁ…そうだよ…君も無理してるだろ?だから…」

「分かりました。今日は帰ります。俺は諦めませんから…」


決して諦める気にはなれない。

もし、本当に記憶がないなら、これは絶好のチャンスなのだ。

水戸に何か吹き込まれていたとしても、これ以上のチャンスはな

い。


数日が経ち、毎日行くが月島は楠木のものには一切手をつけなか

った。


残されたものは冷蔵庫の中で期限が過ぎていく。

そして、今日の差し入れを冷蔵庫の入れる時に、期限切れのもの

を取り出したのだった。


今はちょうど月島はリハビリに行っている時間だった。


「本当に一口もつけてくれないんだな………」


付き合っていた時にはこんな事はなかった。

どう見ても拒絶しているとしか思えない。


重い足取りでリハビリ室へと向かった。

今、まさに休憩しているのか長椅子に座っている。

そこへ水戸が飲み物を持って帰ってきていた。


「いや……いいよ。それよりも聞きたい事があるんだ。蛍…お前

 記憶無いって言ってたのさぁ〜あれ、嘘だろ?」

「……なんで?たかちゃん…何が言いたいの?」


一瞬ドキリとした。

水戸の言葉に、視線が彷徨う。

もし、記憶がないと言ったのが嘘だとしたら…。


「もしさ…楠木を思い出したくなくて忘れたって事にしたのな

 らさ……」

「…」

「いっそ、しっかり振って来いよ」

「もう、付き合ってないよ?あの日、別れを告げたんだ。だか

 ら………もう僕とは関係ないんだ」

「そっか……」

「うん…」


もし、覚えていて警察の前でも言わなかったとしたら?

言えば、確実に楠木を追い詰められるだろう。

でも…それもしなかった。


どうしてだろう。

それは、きっとあの時抱かれた理由にもつながるのではないか?

だったら聞けるのではないか?


今なら、あの時の疑問を聞く事ができる。

彼は何も変わっていない。


あの日、別れを告げる覚悟で抱かれた理由を知りたい。

どうしても、それを聞かなければならない気がしたのだった。


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