第三十八話
教室では周りの視線が痛いので、これ以上騒ぎを大きくして
欲しくはなかった。
「たかちゃん、僕も部活見学行っていい?」
「あぁ、いいぞ。なら荷物も持っていくか!」
「…うん、そうしてもらえる?」
「もちろん構わない。立てるか?」
「平気だって…」
楠木と一緒いるよりは一人で見学していた方がましだった。
部活も入っていない月島には水戸が終わるまで暇だったからだ。
それでも後をついてこようとするのを水戸がきっぱり断ったの
だった。
「お前は邪魔だからついてくんなよ?ほらっ、女子が待ってる
ぞ?色男くん!」
わざと大きな声で言ってやると見ていた女子達が、ここぞとば
かりに入って来た。
いつもそうだ。
好きでもない女の子にちやほやされたって嬉しくない。
本当に好きな人に振り向いて貰えなければ何の意味もないのだ
から…。
自分の失態ということはわかっている。
最初からちゃんと言っておけばこんな誤解を招く事も、あのま
まちゃんと付き合っていられたかもしれない事も、わかってい
る。
それでも、家族を見られたくなかった。
あんな優柔不断な顔だけの姉を知られたくなかった。
「あ……先輩っ……」
楠木の言葉に振り向きもしない。
見えなくなってから、余計に虚しく感じた。
「楠木くん、今から暇なら一緒にどうかな。」
「ダメよ、私が先よ?」
「いいじゃない!じゃ〜みんなでどこか行こっか?」
「いいわね、抜け駆け禁止よ!」
「どう?カラオケなんかどうかな?」
女子達が盛り上がっていく中、楠木だけは冷めていく。
この中に好みの子なんかいるわけはないのだから…。
どうでもいいと思いながらぞろぞろと女子と一緒に帰途につい
た。
もちろん、大部屋でカラオケといっても、今は歌う気持ちにも
なれなかった。
変わる代わり隣の女子が変わっていく。
一曲歌うごとに変わるというように決めたらしかった。
楠木には誰が来ても同じだ。
嬉しくもないし、何も思わない。
そして、話かけられてもつまらなかった。
「本当につまらない顔するのね…」
「…」
「そんなに嫌なら抜けちゃいなさいよ。まだ、月島先輩なら学校
にいるでしょ?」
「…なんで?」
「だって…見てればわよ。トイレって言えばいけるんじゃない?」
「…行っても俺は……」
「しつこい男は嫌われるでしょうね…でも、好きならアタックす
るしかないじゃない?相手は同性なら尚更よ!」
カラオケ中だった為にこの会話が聞かれる事はなかった。
初めてその子の顔を見た気がする。
おさげのどこにでもいる普通の女子だった。
「そのままじっとしてる気?」
「そうじゃないけど………君はそれでいいの?」
「いいわよ、だって私、腐女子だもん。付き合えたら色々聞かせてよ」
「うん…そうだな…」
楠木は立ち上がると『ちょっとトイレ』というと部屋を出た。
後から出て来た彼女は楠木の鞄を持って来てくれた。
「早く行きなさいよ」
「あぁ、ありがとう」
「本当に…王子様はお姫様を攫いにいくものって決まってんだから」
女子は何食わぬ顔顔で部屋に戻っていく。
しばらくは、気づかれないまま時間が過ぎて行った。
『トイレ遅くない?』
と気づくまでに30分以上かかった事に、彼女達は気づけなかったの
だった。




