第三十六話
それでも、何もせずにずっと幼馴染みの立場に甘んじていた人間に
言われたくはなかった。
「それが悪いのか?そのおかげで、先輩は俺の事を一度は受け入れ
たんですよ。それの何が悪いんですか!」
「あいつを抱いたからってすぐに捨てたやつなんかに……」
「捨ててない!俺だってなんであんな事言われたか……俺だって入学
前から好きだったんだ!」
「だったら………だったら一途になれよ……」
水戸には親友という立場がある。
どう頑張っても、月島にはそれ以上に見てもらえないのだ。
いっそ実力行使という手もなくもないが、その後のリスクの方が高す
ぎて先に進めない。
最初こそ、楠木との恋愛を応援していた。
でも、途中から嫉妬心が混ざりつつあるのに気づいた。
「俺は蛍が好きだ。ずっと一緒にいるからこそ、恋愛対象には見られ
もしない。分かってるけど、1番の理解者である事があいつの心を
支える事になるって信じてたから………だから………」
無理にでも犯してしまう事ができないのだと。
いや、多分水戸に向ける月島の視線が変わるのを恐れているのかも
しれない。
嫌われたら…もう笑いかけてくれなくなったら?
そんな事だけは、絶対に避けたかったのだった。
「あいつを…これ以上泣かせるのなら容赦しない。何度もで殴って
止めてやるからな…」
「…」
水戸の覚悟は決まっているらしい。
月島が信頼するわけだ。
「俺だって…先輩を傷つけるつもりなんか……」
口に出して見ても結局はそれ以上出てこなかった。
『傷つけるつもりなんかない』そうはっきりと言いたかった。
実際は女性tp腕を組んでいたのを見られたのなら、言い逃れはでき
なかった。
あれは姉で、家族だからと言いたかったが、月島にはまだ言えてい
ない。
水戸には言ったが、多分伝わっている気がしない。
弁明したくても、今の月島は前と少し状況が違う。
何も覚えていないというのはどこまでなのか?
いっそ、全部忘れてしまっていたら…。
そうしたら、初めからやり直せるのに。
気を取り直すと家に帰った。
明日も行こう。
何度でも会いに行こう。
嫌がられても、こんなところで諦めてちゃダメだ。
呆れるくらいに、変に駆け引きなんてしないで、正面から何度でも
行こう。
そうじゃなきゃ、きっと届かない気がしたのだった。
楠木は、今までの月島の好きそうなもののリストを眺めながら明日
に買っていく物を探した。
学校終わりに寄って行こう。
今度はちゃんと食べてもらいたい。
「先輩………」
寝る前に机の上に飾ってある写真を眺めた。
そこには自分向けたであろう笑顔の月島が写っていたのだった。




