第三十四話
水戸が帰ってからリハビリ科の方でやっかいになった。
看護師さんが迎えに来ると、一緒に併設されているリハビリ
ステーションの方へと向かった。
折れていた足もだいぶ動かせるようになったおかげかトイレ
も部屋の中にあるせいか自力で行けるようになって来た。
家に帰ったら一階にしかないので大変だろう。
その分、ここで動けるようにしなければならなかった。
勉強は毎日水戸がノートを持ってくるし、教えて行ってくれる。
最近ではちょっと気まずいけど、しっかり教えて行ってくれるの
で助かっている。
多分、水戸は気づいているだろう。
あの日何があったのか…事故の時、どうして逃げられなかったの
かとか……。
恥ずかしくて言えなかった。
初めてであんなにシタとか、そのせいで足腰が痛くてフラフラして
いたなんて、警察にだって言ってない。
そして、怪しまれていた身体につけられた痕の事も。
言えるはずもなかった。
別れたばかりだったし、それに彼は男の自分より可愛いくて綺麗な
女性を選んでいたなんて情けなさすぎる。
こんな卑屈になってちゃ、選んでもらえるはずもない。
まだ、未練がないとは言い難いけど、もう振り返らないと決めたの
だ。
だから全て忘れて、一から始めようと思う。
『事故の事?すいません……あの時の事が全く思い出せなくて……』
警察にはそう言った。
もちろん両親にもだ。
全部なかった事にすればいい。
なのに…。なのに、毎日のように夕方に来る楠木に少し動揺しそうに
なるのはなぜだろう。
忘れるって決めたのに……。
もう、過去を振り返りたくない。
もう、同じ失敗は繰り返したくないのに…。
「先輩〜。今日はこれ、好きでしたよね?」
買って来てくれるスイーツはどれも月島の好みのものばかりだった。
「えーっと、君誰だっけ?」
「楠木です、楠木祐介。祐介って呼んでください」
「えーっと、祐介くん?なんで毎回ここに来るの?僕と仲良かったの?
学年も違うようだし、接点ないよね?」
「やだな〜、そんな細かいことはどうでもいいじゃないですかぁ〜。そ
うだ、これ見てくださいよ〜、ここに来る途中で見つけたんです」
全く諦める様子もなかった。
スマホの写真を見せると嬉しそうに笑いかけてくる。
あの日、怒ったように自分にしたことを忘れたのだろうか?
お互い、二度と顔を顔を合わせないと言ったはずなのに……。
彼の事が全く理解できなかった。
そう言われてみれば、彼は最初から月島の事を知っていた気がする。
一度も聞いた事はなかったけど、どうしてなのだろうか?
今更ながら気になったのだった。




