第三十二話
あれから1週間が過ぎようとしていた。
水戸は毎日のように学校が終わると病室へと訪れていた。
やっと声が出るようになると、少しづつだけど話す時間が増えて
いった。
「今日の授業のやつと、こっちが……ちゃんと聞いてるか?」
「うん……たかちゃん、ありがと」
「感謝するくらいだったらちゃんと勉強しとけよ」
「うん…そうだね」
吹っ切れたのか、から元気なのか。
ただ今はそれでもいいと思っていた。
普通に笑えるようになったのなら、それでいい。
何も覚えてなくても…逆に忘れてしまっていた方がいいのかもしれ
なかった。
水戸が帰る頃を見計らうように、見知らぬ青年が病室を訪ねるよう
になっていた。
「先輩、今日の差し入れはこれです!どうですか?」
「えーっと、毎日くるけど……君は……」
「いえ、先輩にお世話になったので、少しでも気に入ってもらえた
らいいなって…ほら、食べてくださいよ〜」
「ううん……」
月島が食べるのが好きなのは知っている。
いつもなんでも美味しそうに食べるのを毎回見ていてからだ。
でも、最近の月島は少し違っていた気がする。
何がとはわからないが、楠木の事を覚えてないというし、事故の前の
記憶さえ曖昧だと聞いた。
水戸とは普通に接していても、楠木との距離はどうにも遠い。
今も手渡ししようにも、触れる前に手を離してしまうのでどうにも接
触はできない。
手を握る事さえも難しい。
病人に乱暴なことはできないし、本当の事もわからない。
ただ、楠木の事を歓迎していないのは態度で分かっていた。
分かっていたけど、弁解したくて、まだこうやって訪ねているのだ
った。
「そういえば、もうすぐ先輩も3年なんですね〜」
「そっか〜、そうだね…」
「俺には姉が一人いるんですけど、それがスッゲー顔はいいんです。
そのせいでストーカーとかいて〜」
「…」
「あ、疲れちゃいました?」
「うん、ごめんね…少し横になっていい?」
「いえ、俺帰りますね…」
「うん…」
聞きたくない。
そう言われた気がした。
それでも、また明日にこよう。
何度だっていい、彼が思い出すまで来よう。
どんなに嫌がってても、楠木を受け入れた時は、きっとまだ好きな
気持ちがあったからだと信じたかった。
だから、まだ諦められなれなかったのだった。
「思い出してくださいよ……先輩…」
あんなに痕を残した身体も、もう薄くなっれ消えかけている。
警察の事情聴取も何度行われても、結果は同じだった。
覚えていないものを答えようがない…と。
その為、楠木の方に及ぶ事はなかったのだった。
よかったと思うべきか、それとも記憶がないせいで弁解さえも聞き
入れてもらえない嘆くべきか。
どちらにしろ、最初から素直に言うべきだったのかもしれない。
策略をめぐらせて手にしたものは、呆気なくなくなってしまったの
だから……。




