第三十一話
どんな顔してあえばいいのだろう。
昨日散々酷い事をしておいて、しかも置き去りにしておいたの
だから、何を言われても、非難されても弁明できない。
ただ、言えるのはあの日、腕を組んでいた相手は恋人ではなく
姉で、全く付き合ってもいないし、好きでもない。
それだけは信じて欲しいと伝える事だけだった。
病室を聞いて行くと中から母親らしき人が出て来た。
病室の前でため息を吐き出すと帰っていく。
まさか……。
ノックするが、返事はない。
寝ているのだろうか?
まだ目を覚ましていない?
不安に駆られながらドアを開く。
カーテンが風にたなびきながら誰かの影が映る。
「月島…先輩………」
返事はない。
でも、確かにそこに彼がいるのだ。
カーテンを開けると個室のせいか、広々としていた。
振り向く彼の視線が丁度合うと、ドキリとした。
全身打ちつけたのか、包帯で巻かれた手足に顔もいくばくかの
擦り傷で血が滲んでいた。
「すいませんでした……俺、先輩の事……」
「…」
小首をかしげると不思議そうに眺めて来ていた。
まるで初めて会う人のような視線に、目を見張った。
「先輩俺の事覚えてますよね?楠木……楠木祐介です……」
「…」
せめて声を聞きたい。
なにか話てくれたらと思ったが、何も話そうとはしなかった。
視線を外すとまた外の景色を眺めた。
足は骨折しているらしく、ギブスをしている。
多分しばらくは動けないのだろう。
そこへ警察と共にさっきの女性が帰ってきた。
楠木は慌てるようにその場を逃げ出していた。
もう、先輩に合わせる顔がない。
あんなに手に入れたかった人を、傷つけた上に、こんな……
こんな事って……。
月島は記憶が混濁していて、まだ話せる段階ではなかった。
それでも、警察としては事情聴取はしなくてはならなかった。
ちょうど入る時に出て行く青年とぶつかったが、そのまま病室へ
と入っていった。
聞かれたのは腕の拘束の痕の事と、身体の至るところにつけらえた
鬱血と噛み跡だった。
あきらかにこれが意味するのは性交としか思いあたらない。
しかも、これほどまでに痕を残すとなれば、付き合っている人か、
もしくはストーカーなどからの強制的な性交に限られて来るからだ
った。
女性ならともかく、男性にこれほどの痕を残すとなると、交友関係を
当たるのが一番か、それとも。
どちらにしても話せるようになるまではどうする事もできなかった。




