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たとえ今、好かれなくても…  作者: 秋元智也
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楠木side

楠木side


ホテルまで行ったのに、何もできなかったあの日。

帰りに家まで先輩を送って行った。


家まで入るのを確認して帰ったのは久しぶりだった。

ただ顔色は悪くて、回復したとは言えなかった。


抱きしめて眠った先輩の身体は熱くて、柔らかいとは言い難いが、

それでも抱きしめているとドキドキしてすぐにでも抱きたいと思

う衝動に駆られた。


理性で何度も押さえ込んだが、今度会ったら自分が何をするか分

からなかった。


拒絶されないだろうか?

自らホテルに入った先輩はどんな気持ちだったのだろう。


やっぱり、自分ではダメなのだろうか?

だからといって今更手放すなんてできない。


『お試しでいいから付き合ってみませんか?』


あの時言った言葉は嘘ではない。

なんとか繋ぎ止める為の口実。


先輩は覚えていないかもしれないが、楠木は忘れない。

あの時の先輩の顔をずっと目に焼き付けて離れなかったのだ。


男とわかっていても、抵抗なんかまったくなかった。

逆に顔だけで近寄ってくる女どもよりもよっぽどマシだった。


先輩は男の自分をどう思うだろう?

やっぱり可愛い彼女とかいるのかな?

そう思いながらモヤモヤした時間を過ごしていたが、先輩の恋愛

対象が男だと知って、これほど嬉しかった事はなかった。


「明日は来るかな…」


帰りにポツリと呟いたが、今にも雨が降りそうな気配に急いで家に

戻ったのだった。


「祐介〜、今帰ったの?」

「うん…なんだよ、ちゃんと服着ろよ。恥じらいねーやつ」

「あんたに見られたてどうもないでしょ?」

「だからって下着で家の中を歩くなよ!」

「煩いわね〜。あんた彼女でもできたの?顔はいいくせにまったく

 モテないのね〜」

「煩いな〜、顔しか見てねーような女のどこがいいんだっての」


部屋に戻ると姉の洋子に愚痴をこぼす。

自分だって顔はいいのだ。

姉弟揃って顔はいい、でもそれ以上に恋人ができない。


作ろうと思えばすぐにできるのだが、どうにも面食いらしく彼氏の

一人も連れてきたことがない。

家の中も下着で歩くようなガサツな性格にせいでもあるのだろう。


母親昼夜問わず働いていてあまり家にいない。

父が生きていた時はこんなに忙しくはなかった。


片親の弊害だろうか。


子供達はどっちも父親に似たせいで、顔だけはいい。

本当に誰から見ても顔だけしか褒められた事はない。


「顔、顔って、それしか褒めるところないみたいじゃん」


大きくなるに連れて顔の事を言われるのが一番嫌になった。


「先輩は俺のどこが気に入ってくれたのかな…顔だっだら嫌だな」


ぽそりと漏れた言葉に楠木の不安漏れ出していたのだった。

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