楠木side
楠木side
数コール鳴った後すぐに目的の人物の声が聞こえて来た。
「水戸先輩ですか?」
「あれ?これって蛍のスマホじゃかったか?」
「はい、あの〜先輩が帰って来ないんです」
「はぁ?それはどういう事だよっ!」
苛立つような声に楠木は続けた。
「飲み物買ってくると行って一人で行ったんですけど、すぐに帰っ
てくるって言ったのに、帰ってこないんです。近くの自販機に行
って見たんですけど…下にジュースが落ちてて……」
「今行くからそこにいろっ!」
場所を伝えると水戸は教室を出て駆け出していた。
辿りついた時には自販機の前に楠木が立っていた。
「ここで居なくなったのか?」
「はい……多分……ジュースを買った後にいなく鳴ったんだと思います」
「くそっ……あいつの連れていきそうな場所は……おい、手分けして探
すぞっ!」
「はいっ!」
あまり時間をかけたくなかった。
あいつが何をするかわからなかったから…。
手分けして探すふりをして、自分は上の階から探すといった水戸に対
して、楠木は下の階から行くと言っておいた。
すぐにいつもの教室へと向かった。
こっそり中を覗くと嫌がる月島に無理矢理唇を合わせる一条が見えた。
今すぐにでも突撃したかったが、感情を押し殺して時を待った。
今出て行くのはまだ早い。
もっとギリギリになってから…そうタイミングを見計らうのだ。
わかってはいる。今助けたってきっと感謝されて彼は自分の事を忘れ
られない存在になる。
だけど、助けるのならもっとギリギリの方がいい。
だって…そうすればきっと……
大きな音がして殴られたのだとわかる。
痛みに蹲るのを見て心が痛い。
数人の生徒に手足を掴まれシャツが破れる音が聞こえてくる。
泣き叫ぶ声に耳を塞ぎたくなる。
これ以上は………
少し離れると足音を立てて近づく、そして大声を出しながらドアを
開け放ったのだった。
「月島先輩ーー!先生ーー、こっちです」
楠木の声に驚いた先輩達は大慌てで窓から出て行く。
先生など呼んではいない。
駆け寄ると抱き上げる。
震える月島を胸に抱きしめると背中をさすってやる。
「もう、大丈夫ですよ。蛍先輩?」
「うわぁぁぁぁーー」
「もう泣かないで…大丈夫だから…ね?」
「……ぃ……いやっ………触らないで……」
「せん…ぱい……?」
楠木の胸を両手で押し返すと離れようとして来た。
どうして?
俺は…助けたのに?
「大丈夫だから…ね?落ち着いて俺を見て…」
「離して………触らないで……」
泣き続けるのを自分では止める事ができないのだった。
後から駆けつけた水戸がその場を見てどう思ったか理解できる。
破れた服に月島を必死に宥めようとする楠木。
それを泣きながら嫌がる月島。
「蛍っ!」
「違っ…これは……」
「いい、おいで…もう大丈夫だから」
水戸の言葉に月島が取った行動が一番ショックだった。
助けた楠木ではなく水戸に抱きついて行ったのだった。
泣き止まない月島をただあやすように抱き抱えた。
「このままここにいるのは…場所変えませんか?」
「そうだな…こんな蛍を一人にはできないし…保健室にも…連れて
いけないしな」
こんな破れた服や、泣き腫らした顔を他に誰かになんて見せたく
なかった。
それに、一番それを隠しておきたいのは月島本人であろう。
お弁当を食べようとしていた教室へと行くと、静かでガランと
していた。




