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魔法はマナとともに  作者: 神無月かなめ
第一章~あなたに出会えてよかった~
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実力試験

 試験の二日目が訪れた。


 昨日と同じように会場であるルミエールにアイトと向かう。すると、校門を入ったあたりで『試験は別の施設で行います』という看板が置かれており、矢印でその施設までの道のりが指示されていた。


 指示された通りに進むと、新しく作られたばかりのような本校とは少しだけ離れた広めの施設に辿り着いた。もうすでに多くの受験生がその施設に入っていくのが見える。私たちも、同じように施設の中に入った。


 施設の中には、多くの機械的なベッドが横並びに一つづつ置かれており、数名の教師たちが、そのベッドの前で番号確認と列分けをしていた。私もそのうちの一人に番号確認をしてもらい、並ぶ列を指示され、その列に並んだ。それからしばらく時間がたち、試験開始三十分前ぐらいになったあたりで一人の教師が今回の試験について説明し始めた。


「今から実力試験の説明を行います。この試験では、受験生の皆さんに教師の一人と一対一で戦ってもらいます。その際に、この『エイダ―』の中に入ってもらい、疑似空間にて行います」


 そう言って、その教師は、その人の後ろにある機械的なベッドを指さした。


「この『エイダ―』は、この中で寝ている方のアバターを疑似空間に作りだし、自分の体のように自由に動かすことが出来ます。そして、疑似空間内では、魔法を使ってもマナを消費する事はありませんので、思う存分魔法をお使いください」


 マナを消費する事がない…!?それってつまり、どれだけでも魔法が使える上に最大マナ量ぎりぎりの魔法でも使えるってこと?まぁ、そんな大げさな魔法なんて使っても訓練にならないし、慣れてないことをしてかえって、悪い結果になりそうだけどね…。


 そして、話していた一人の教師を残し、他の教師たちは部屋から退出した。それからしばらく時間がたち、残された教師が顔をあげた。


「今から実力試験を始めます」


 そして、多くの列の一人目が前に出て、エイダ―の中に横になる。すると、自動的にその人を包むように閉まった。


 そして、列によっては終わる時間にばらつきがあるが数秒後、エイダ―の中に入った自分の列の人が出てきた。なぜか涙をこらえるような表情で部屋から出て行く。


 なになになに!?中で一体何があったの!?それも数分とかのレベルじゃなくて、数秒の世界なんですけど!?


 そして、次の子が入っていき、一人目の子と同じように数秒でエイダ―から出てきた。今回は涙をこらえる感じではなく、何が起こったのか分かっていないようなぽけーっとしたような表情をしていた。


 うん、とりあえず、相手の教師は『とんでもない』ということが分かりました……。


 そして、その後も同じように私の列は入っては数秒後に出てくる人ばかりであった。たまに二分後ぐらいに出てくる子もいたが、その子は出てきた時、恐怖に怯えるような表情をしていたので、もう私の気持ちは不安でいっぱいだった。


 そして、とうとう私の出番がやってきた。


 小さい頃から母に稽古をつけてもらった。大丈夫。私は、戦える。私は、ここを乗り越えて夢をかなえるんだ――。


 そして、エイダ―の中で横になる。すると、蓋が閉まり、目を閉じてくださいという言葉が目の前に表示される。その言葉に従い、目を閉じると感覚がふっと軽くなり、そして、ゆっくりと目を開くとあたりは、黒い箱に閉じ込められたような空間で、床には白い線が等間隔で引かれており、正方形のブロックの多さで空間が広いことが見て取れた。


 そして、目の前にはすでに一人の教師が立っていた。


「マナさん、こんにちは」


 その教師は、あの妖艶でどんな男ですら魅了してしまいそうなほどに艶っぽい、受付を担当してくれた女性だった。


「あんまりにも可愛いから覚えちゃったわ」


「あ、ありがとうございます…」


「それじゃあ、実力試験を始めましょう」


 その女性は、杖を構える。


 魔法(マナ)生成【剣】


 自分のマナを形作ることによって、あらゆるものを作ることが出来る。そして、私の母はこの魔法生成によって剣を作り出し、戦うスタイルなのだ。私もそれを知った時から剣で戦うようにしている。それは、母の真似をしたいからという訳ではなく、ただ単にその剣をもって戦う母に魅了されたのだ。そして、そのスタイルに憧れた…。だから、私は魔法剣を作り出した。


「あら、珍しいスタイルね」


 身体強化魔法【ステア】を自身にかけ、その女性目掛けて走り出す。女性は、杖を前に突き出す。いや、やや下に向けている?そう思った瞬間、私は脚にステアをもう一度かけ、大きく跳躍した。そして、先ほど私の走っていた場所に目をやると、地面が泥沼と化していた。


 数秒で退場していた人たちは、これにやられたのかも…。


 私は跳躍した状態のまま、剣を構え女性に斬りかかる軌道を調整する。


「今のを避けるのね。それならこれはどうかしら」


 すると、女性の杖の先から白い靄が放出され、辺りを白く包み込んだ。


「煙幕……?……ッ!!」


 身体が一気に重くなるのを感じ、その場から直下で床にたたきつけられる。なんとか、膝をつき完全に倒れるまでにはいかないが、それでも指一本動かせないほどの重力が体を襲っているような感覚があった。


「指一本も動かせないでしょ?」


 自分自身を見て、はっきりと理解した。服に水滴が滴っていた。今の白い靄は姿を隠すための煙幕ではなく水蒸気。そして、この水蒸気には――。


「その通りよ。私の作り出した水蒸気は、付着したものに途轍もない重さを加えるようにマナを変化させてるの…。でもね、それに気付いたところであなたはどうする事も出来ない…だって、この空間の中であなたはもう一歩も動くことは出来ないのだから…ふふっ」


 その女性は、ゆっくりと私の方に歩んでくる。


 このまま負けていいの…?だめに決まってる!私は、まだ何も成し遂げてない。誰一人として笑顔にできていない。お母さんのようになれない。ばぁばのようになれない。――のようになれない。ここで、負けたら……全てが終わる――。それなら、勝つしかないじゃん――。


 私は、重い頭をあげ、その女性を捉えた。


「あらあら、うふふ…。ナイト様に守られてるだけの可愛いうさぎさんかと思ったら、()()()()()()()()()だったのね」


 私は、重い手に力を込め自力でその手を持ち上げ、自分の胸に押し当てた。


「炎よ――」


 その手から発せられた炎が私を飲み込んで燃えた。身体中がチリチリと焼かれ、痛みはないが少しづつアバターを構成するマナが漏出していく。このアバターを構成するマナが漏出しきった瞬間、私の負けとなる。


「ぞくぞくしちゃう!!その、闘争に燃える目!それも、まさか自分の身体ごと炎で燃やすことによって付着した水滴を蒸発させちゃうなんて!!でもでも、この空間の中であなたは自分の身体を燃やし続けなければならなくなる。あなたが負けるのも時間の問題よ?」


「その必要はありません」


 私は、風の膜を体に纏わせ水滴の付着を防ぐとともに自身にかけた炎を消した。


「風にも適性があるのね」


 身体強化魔法【ステア】多重展開


 私は、剣を構え、女性とのしばしの距離を瞬間的に詰める。そして、その首元に向かって、剣を振り上げる。


「そんな単調な動きじゃ私は倒せないわよ」


 女性は、私の狙いが分かっていたのか、その首を少し傾け私の剣の軌道から外れる。


 しかし――。


「シールド――」


 私は、もう片方の手を前に出しシールドを展開した。そして、勢いそのままその垂直に展開されたシールドにぴったりと足が面するように飛び乗る。


「ッ!?…(バブル)!!」


 軌道を無理に変えた斬撃は女性に届くことは無く、その人が生み出した水球に飛び込む形で体を囚われてしまう。


「そこで綺麗に洗われるといいわ」


 水球の中では、流れに激しさが増し、小さな切り傷がつけられ、そこから少しづつマナが漏出していった。長い間、囚われるわけにはいかない。私は、この水球を蒸発させて脱出しようと試みるが、水球の魔法の質が高いので、この水球の中で炎を生み出す事が出来なかった。


 炎がだめなら…風よ


 私は、今私の体を覆う風の膜に加え、もう一つの風の膜を生成する。そして、その風を無理に圧縮させ、そして一気に爆散させる。その爆散により、水球に穴が開き、水球はその形を維持できなくなり抜け出すことに成功した。


 そして、水球から抜け出しその女性を見た瞬間――驚愕する。


 辺りは、彼女を中心に水球がこの空間を覆いつくすほどに無数に展開されていた。


「あなたが洗われている間に、動きを封じさせてもらったわ」


 これでは、自分の動きを制御できなくなる【ステア】多重展開は使えない。


 それなら――。


 私は、風魔法を展開し、体にかまいたちのような鋭く早く回転し続ける風の輪を二つ作り出す。


 これなら、水球に当たったとしても私の動きを封じる前に割ることが出来る。


 私は、安心して緩み切った立ち姿でいる女性を捉える。行ける!


 身体強化魔法【ステア】多重展開


 私は、その安心しきっている女性に斬りかかるため、思いっきり足を踏み込んだ。


 ――が、その踏み込みで私の身体が前に進むことは無かった。むしろ私の身体は――。


「何でここに…泥沼が!?」


 沈んでいた――。


 あの人は、今杖を力なくもち下に向けていた。杖を構えていなかったのだ。杖を構えずに泥沼を形成した…?最初の攻防では、彼女は杖を私の進む方向の地面に向け、展開していた。だから私は、思い込まされていた――。杖を向けた場所にしか、泥沼が形成できないと。あれは、フェイクだった。


「その通りよ。ついでに、杖も没収させてもらうわね」


 その言葉の後、私の杖を持っている手を小さな水球が包み込んだ。そして、その水球の流れが増し、私の手を切断し、その杖はマナの粒子となって消えていく私の手とともに持っていかれた。


 切断面から大量のアバターを構成するマナが漏れ出ているのを確認する。


「あなたに杖を持たすと何をするか分からないもの…ふふっ…これで、あなたは手も足も出ない状態ね」


 私は、その女性をただ見つめ、小さく微笑んだ。


「あなたは二つのことにまだ気づいていない…」


 私は、その女性に向かって残っている左手を向ける。


「一つ目は、私は、杖が無くても魔法が撃てるということ…」


「いいわぁ!炎で来るの?それとも風?でも、その状態では何をしても無駄……へ?」


 水で作られたランスのような形をした魔法が彼女の心臓部分を貫いていた。


「二つ目は、私は、水魔法にも適性があるということです」


「私のマナ量を上書きしたというの?ふふっあはは!あはははははははは!!!」


 まだ空間を漂っている体を重くさせる水蒸気、その水蒸気を借りて、普通ではあり得ない場所から水魔法を生み出したのだ。相手がマナを込め生み出した魔法は、それ以上のマナを注ぐことによって、その支配権を一時的に奪うことが出来る。


「あなた、とーっても素敵よ!!」


『でもね…』


 突如、耳元で声を掛けられ怖気が立つ。


「かはっ!」


 自分の心臓部分には、ランスのような形をした女性の生み出した魔法が突き刺さっていた。そして、目の前にいる私の倒したはずの女性は、水のように液状と化しその姿を消した。私は、すぐに後ろを振り返る。そこには、妖艶な笑みを浮かべる彼女がいた。


「あなたは受験生で私は教師…この意味がお分かりかしら」


「どうしてそこに…」


「最初から――」


 大量にマナが刺された部分から漏出し、視界が白に包まれていく。


「さようなら、()()()()()


 感覚が遠くなっていく中、微かにその女性の言葉が聞こえた…。


 ◇◇◇


 そして、感覚が戻り静かに目を開ける。その動作に反応するかのように自動で蓋が開いた。


 悔しい…悔しい…!私が全てを出し切って倒した相手は、あの人の分身だった。最初から、私は、弄ばれていた。もう一度、戦った時に私はあの人に勝ちたい。もう一度戦いたい。もう、試験は終わってしまった。だから、ただ願うだけなのだ。受かっていることを。


「おつかれ、マナ」


 その言葉で俯いて歩いていた私は足を止め、頭をあげる。


「アイト…待っててくれたんだね」


「あぁ、それにしても、マナの試合長かったね」


 そっか、私長い間、あの人と戦ってたんだ。そのことに少しだけ誇らしく感じるとともに本当の意味で手も足も出なかった自分の弱さに少しだけ腹が立った。


「帰ろうか」


 そう言って歩き出すアイトの後ろをとぼとぼとついていくのだった。


 ただ試験の結果がいいものであるようにと願いながら――。


次回は、試験の合否結果を知ることになります!

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