表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/28

ベティアン

 CHAPTER 26「ベティアン」


「え?」

「アリス?」


 ヘリの中から現れたのはアリスそっくりのAドールだった。

「アリスがもうひとり……」

 アリスと同じ長い赤毛、俺たちが初めてアリスと会ったときのような白いワンピースを着ていた。

「ベティアン、こいつらを一人残さず殺せ!」

 タケルが叫んだ。


「ベティアン……」

 TKが呟いた。

「ベティアン?」


「ベティアンはそっちの出来損ないとは違うガチの戦闘用だ!」

 タケルが叫んだ。

「そうか、2番目のプロトタイプか」

 とTK。

「気をつけて、銃を持ってる!」

 マコが叫ぶ。

 アリスそっくりのAドールは両手に拳銃(ハンドガン)を携えていた。

「二挺拳銃か」

「アリス!」

 アリスが突撃銃(アサルトライフル)を掴んで飛び出した。

 鳴り響く銃声。

「コンテナの陰へ!」

 俺は岡本夫人の手を引いてコンテナが銃弾の盾になる位置へ。

「ここで体を低くしていてください」

「はい……」

「だめだ、速すぎる」

 TKはタケルの落とした銃を拾いアリスを援護しようとしている。

 しかし、双方の動きが速すぎて狙いが付かないようだ。

「アリスに当てるなよ」

 ベティアンがアリスに向けて発砲。

 アリスは左右に動いて巧みに銃弾を躱す。

「アリスーーー!」

 マコが叫んでいる。

「まだ修復が済んでいないのか……」。

 アリスは自己修復機能がまだ起動中だ。

 本来の実力を100%発揮できる状況ではない。


 ベティアンが2挺の拳銃(ハンドガン)をアリスに向ける。

 アリスは身を屈めて銃弾を躱すと突撃銃(アサルトライフル)銃床ストックで下から突き上げる。

 ベティアンは後方に飛び退きながらアリスが向けた銃口を右手の拳銃(ハンドガン)で弾く。


「軍用相手にあそこまで動けるのか」

 TKはアリスの動きを見ながら唸った。

 アリスはベティアンの銃口を避けながら素早く接近すると突撃銃(アサルトライフル)を棍棒のように使って殴打した。

「未来予測機能が優れているのか…… いや、もはや洞察力と言ったレベルだ。判断が速いのは完全独立型AIの利点だな」

 確かにTKの言う通りアリスはベティアンの常に先手を打って動いている。


 洞察力?

 アリスの相手をする時、一般のAドールとは異なる奇妙な違和感を覚えることがあった。何かこちらの心を読まれているような奇妙な感覚だ。

 洞察力、そんな物がアリスのAIに組み込まれているのか。


「だめだ。押されている」

 アリスの予測能力がいくら優れていてもパワーの差は歴然としていた。

 アリスは徐々に壁際に追い詰められていた。


「そうか、もしかしたら……」

 TKはそう言いながら携帯端末を操作し始めた。


「アリス……」

 防戦一方のアリス。


 ベティアンはアリスを組み伏せた。


「よし判った」

 TKが顔を上げた。

「アリス! 34.7kHz! QRZ0052!」


 アリスはベティアンの耳元で何か囁いた。

 ベティアンの動きが止まった。


 アリスは立ち上がりベティアンを見下ろしていた。

「どうしたベティアン! まさか……」

 タケルが叫んだ。

「アリス!」

 マコも叫んだ。

 

「やったか」

「どうしたんだ? 何故止まった」

 俺はTKに訊いた。

強制停止信号エマージェンシーコード

強制停止信号エマージェンシーコード?」

「超音波信号を使ってAIを強制的に停止させた。アリスの人工声帯は人間の可聴領域を越えた超音波を発声できる機能があるって思い出したんだ」

 TKが答えた。

「そんなものが……」

「前にも言わなかったっけ…… 一般的には知られてない、隠しコマンドみたいなものでね。大抵のAドールには備わっている機能だ。尤も、周波数や文字列など公表されてないけどな」

「ベティアンのコマンドはどうして判ったんだ? ハッキングしたのか」

「そうだ。ベティアンのメインフレームAIはアリスと違って汎用品を組み合わせた物だから簡単にハッキングできた」


 

「く…… 。行くぞ」

「いや!」

 タケルはヘリのドアを開けると、マコを押し込み、自らも乗り込んだ。

「マコ!」

 俺は飛び立とうとしているヘリに向かって駆け出した。

 後から考えると無謀な行為だった。しかし、その時の俺は夢中だった。

 俺は頭上を飛び去ろうとするヘリに飛びつき、スキッドにしがみついた。

 まるでハリウッドのアクション映画のようだった。ただ、映画の撮影と違うのは命綱もマットもないことだった。

「うっ!」

 ヘリは二度三度激しく横揺れした。

 俺を振り落とすつもりなのか?

 必死にしがみついた。

 ヘリの高度が上がっている。

 眼下には東京湾が広がっていた。

 ちょうど『24区』とお台場の間に大きな渦が発生していた。あそこから海底トンネルに海水が流れ込んでいるのだろうか。

 ようやくスキッドの上に立ち、ドアの取っ手に手をかけた。

「!」

 いきなりドアが開き、ナイフが飛び出してきた。

 タケルがヘリの中からナイフを突き立てたのだ。

 俺はとっさにナイフを避け、タケルの右手を左の脇で挟んだ。

「!」

 タケルが何か叫んでいた。

 後部座席を見ると、マコが泣きながら何か訴えかけていた。

 しかし、ヘリの爆音で何も聞こえない。

「うっ!」

 目の前で爆発が起こった。

 一瞬、視界が真っ白になった。

 頭突きを食らったのだ。

 ヘリから落ちそうになったのを、必死でスキッドに掴まった。

 仰ぎ見ると、鬼の形相のタケルが、今にもナイフを振り降ろそうとしていた。

 スローモーションでナイフが迫ってきた。

「?」

 眼前でナイフが止まった。

 タケルの背中に、人影が見えた。

 マコ?

 違う!

「アリス!」

 アリスだった。

 アリスがタケルの背後から右腕を掴み、ナイフを止めたのだ。

 しかし、なぜ、ここにアリスが?

「アリス、やめろー!」

 次にアリスは、タケルを後ろから抱えたまま、ヘリの外へ飛び出した。

 タケルは驚愕の表情を張り付かせたまま、アリスとひとつになって、東京湾へ真っ逆さまに落ちて行った。

 マコはヘリの中から身を乗り出し、泣きながら何か叫んでいた。

 タケルとアリスは、ちょうど渦の中心部へ向かって落ちて行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ