爆薬と海底トンネル
CHAPTER 24「爆薬と海底トンネル」
「よし、ここから逃げるぞ。まだ追っ手は来るからな」
俺は運転台に向かった。
「ちょっと、これは……」
トラックの荷台に登ったTKが呼んだ。
「どうした」
おれはトラックの後部に行き、荷台を覗いた。
荷台にはまだ大量の段ボール箱が乗ったままだった。
「この積み荷は……」
全ての段ボール箱に、爆発物を示す警告シールが貼ってある。
「危険物輸送用梱包材だ。国連コード、包装等級1。最高レベルの危険物……」
TKがペンライトで段ボール箱を照らした。
「最高レベルの危険物、で爆発物、というとRDXか?」
軍用の高性能爆薬だ。
「おそらくその辺りだろうな」
ロケット弾やグレネード弾の材料か。
「どうしたんですか? 爆発物って」
マコが荷台の下にやってきた。
「このトラック、ちょっとやばい物が積んだままなんだ」
俺が答えた。
「どうする、別の車にするか」
TKが言った。
「いや、時間がない。これで行こう。RDXなら信管がなければ爆発しない、無茶しなければ大丈夫だろう。幸い、このトラックはEVだから火災の心配もない」
俺は荷台から飛び降りて言った。
「なんか、ケツがむずむずする感じだが……」
TKが呟いた。
「岡本さんとマコは助手席に、アリスは荷台で……」
俺は指示すると運転台に向かった。
「アリス、銃をもう一挺と予備のマガジンを集めておいてくれ」
荷台の上からTKがアリスに言った。
「直人さん、大型免許持ってるんですか?」
運転台に乗り込み、トラックを発進させようとした時、マコが訊いた。
「いや、持ってない」
「え……」
マコが不安そうな顔をしたので、笑って答えた。
「大丈夫、普通のEVと同じさ」
「でも、『24区』から出るんでしょ。お巡りさんに見つかったら……」
「そのときはその時だ」
俺はアクセルを踏み込んだ。
EV独特の、電気モーターの加速感とともにトラックが動き出した。
「きゃっ」
トラックの後方で銃声がした。
バックミラーに完全装備のAドール兵が見えた。
TKとアリスが応戦している。
「まだいたのか。こっちは爆弾背負ってるんだぞ」
俺はさらにアクセルを踏み込み、トラックのスピードを上げた。
トラックは海底トンネルをお台場方面に向かって走っている。
「直人さん!」
マコが前方を指さし叫んだ。
1キロほど進んだ頃だろうか、前方から2台の大型トラックが迫ってくるのが見えた。
「くそ、前からも来たか」
2台のトラックはこちらの行く手を塞ぐように、左右に並んで走っている。
このままでは通り抜けることはできない。
どうする?
「後ろからも!」
マコがバックミラーを見て叫んだ。
バックミラーには、大型車両のヘッドライトがこちらに迫って来るのが見えた。
「止めるぞ!」
俺はそう叫ぶと急レーキを踏んだ。
「きゃ」
マコと岡本夫人が前方につんのめってダッシュボードに手をついた。
「あの扉へ!」
俺はトンネル側面の扉を指さし言った。
非常用通路の扉だ。
「直人さん!」
運転台の下に、TKとアリスが銃を持って来ていた。
「おまえたちもあそこの扉へ! ふたりを援護してやってくれ」
「判った!」
TKとアリスは前方へ向かって射撃を開始した。
俺は運転台のセレクターをリバースポジションに切り替えると、助手席のグローブボックスを探った。
「これが使える」
工具箱とガムテープと数冊の雑誌を取り出した。
アクセルペダルと床の間にプライヤーを挟み込み、ガムテープで留めた。
「何やってんだ」
TKが運転台を覗き込んで訊いた。
「こいつを後ろの奴にぶつけて時間稼ぎにする」
「解った、アリス、ちょっと手伝ってくれ」
TKはアリスを連れて荷台へ向かった。
雑誌を束ね、重石代わりにアクセルペダルを押し込み、ガムテープでペダル周りの床に張り付けた。
トラックがゆっくり後退し始めた。
「よし逃げるぞ」
俺は非常口の扉に向かった。
「直人さん!」
既に扉を開けて待っていたマコが叫んだ。
「後ろ!」
何?
振り返ると前方から来たトラックから何人かの兵士が降り、こちらへ銃を向けていた。
人間か? Aドールなのか?
荷台の方から戻ってきたTKとアリスが応戦を始めた。
「アリス! あれは人間か?」
「サーモグラフィー、チェック。人間のパターンではありません」
「よし、TK、アリス、反撃だ」
俺はTKからもう一挺のライフルを受け取ると、近づいてくる兵士に向かって引き金を引いた。
「OK」
TKは床に伏せ、ライフルを構えた。
「脚を狙え!」
アリスは正確にAドール兵の腕と脚を射抜き、動きを止めていた。
「直人さん! 早く!」
非常口からマコが呼んだ。
後方からも銃声が聞こえた。
このままでは挟み撃ちになる。
「よし、撤退だ!」
俺は非常口に向かった。
TKも立ち上がるとこちらへ向かって走り出した。
アリスは冷静に射撃しながら後退し、扉に向かった。
「よし、閉めるぞ」
俺は全員が避難路に入ったのを確認すると、鉄の扉を閉めた。
「TK、さっきは何してたんだ」
俺はTKに訊いた。
「衝突防止センサーを壊したんだ。それと、ちょっとした仕掛けと」
TKはニヤリと笑った。
こいつがこの笑い方をする時は、大抵ろくでもないことを考えている。
「どうする? 反対側に出るか?」
TKが訊いた。
海底トンネルは上下線で二本のトンネルがある。今俺たちのいる避難路を挟んで反対側にもう一本のトンネルがあるはずだ。しかし今までの敵の動きを考えると、反対側のトンネルにもAドール兵を満載したトラックが迫っていると考えていいだろう。
「このまま行こう。俺が先頭でアリスは後ろを警戒してくれ」
「じゃ、俺も後ろにつく」
TKが後ろに下がった。
俺、岡本夫人、マコ、TK、アリスの順に避難路を進んでいた。
「もうすぐお台場だ。みんながんばれ」
俺は薄暗い避難路を進みながら、誰ともなく言った。
「!」
突然、巨大な爆発音と地面が揺れるような振動が俺たちを襲った。
「きゃっ」
「な、何だ……」
爆発音は一分近く続いただろうか。爆発音と同時に、何かが壊れるような音も聞こえた。
「何が……」
マコが怯えた表情で辺りを見回した。
「荷物の隙間にピンを抜いた手榴弾を挟んでおいた」
TKが平然と答えた。
「何だって……」
「あのままじゃすぐに追いつかれそうだったからな。しかし、本当に爆発するとは思わなかった」
「TK、おまえ……」
トラックに満載された何トンものRDXが爆発したのか。
「あれが全部爆発したら……」
「直人さん! 水が……」
と、マコ。
見ると足下が水浸しになっていた。
後方から流れ込んでいるようだ。
「浸水したのか」
「どこかに穴、開いちまったか…… 、沈埋トンネルだから強度的にやばかったのか」
TKが言った。
「ちんまい、トンネル?」
マコが訊いた。
「このトンネルは地面を掘って作ったんじゃなくて、コンクリートの箱を海底に埋めて作ったんだ、そんなに深いトンネルじゃないから、天井に穴が開いたり接合部がずれたりすれば海水が流れ込んでくる。たぶん、爆発の衝撃でブロックがずれたようだ。この浸水はその隙間からからだな」
何だと?
のんきに解説している場合じゃないだろ!
「急げ! このままじゃ俺たちまで溺れるぞ!」
海水はじわじわと増えていた。




