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脱出

 CHAPTER 21「脱出」


「ここに入ってろ」

 俺は、階下の一室に放り込まれた。

 ここは確か、ホテルの15階に作った監禁部屋だ。

 捕まえた賞金首を一時敵に収容しておくための部屋だ。

 ベッドやバス、トイレなどの設備は一見、ホテルの普通の部屋と変わりなかった。しかし、逃亡防止のため窓に鉄格子がはまり、ドアの外側から鍵をかけられるようになっている。


 まさか、自分が放り込まれるとは思ってもみなかった……


「とりあえず、ここから出る方法を考えよう」

 ドアを調べた。

 ドアは鋼鉄製で、かなり頑丈そうだった。

 そうだ、このドアは俺が廃工場から持ってきた特別製だ。

 窓の鉄格子も、2年前と変わらず頑丈に取り付けてあった。

「太一の仕事か……」

 刑務所で溶接工の資格を取った太一というメンバーが、この部屋の改造を行ったのを思い出した。

 太一は半年前、『24区』を出て行った、と噂に聞いていた。

 ウエストガーデンの住民のほとんどは、過去に何らかの『疵』持っている。

 この街は過去のしがらみから逃れることのできる日本で唯一の場所なのだ。

 そのため、一度ここに流れ着いた人々は、なかなか外の世界に出ようとはしなくなってしまう。

 自分の過去を清算し、将来に希望を持つ者だけが、ウエストガーデンを後にすることができるのだ。

 太一は希望を掴んだのだろうか……


 部屋の電話が鳴った。

『どうです、今の気分は』

 相手はアキラだった。

「それはこっちの台詞だ。おまえ、まだお山の大将で喜んでいるのか、そろそろ潮時なんじゃないのか」

『できないよ!』アキラは突然語気を強めた。『あなたみたいに簡単に夢を諦めるなんて……』

「でも所詮は……」

 チンピラ、不良少年の集まりだ。

『あんたはいいさ、自分の思い通りにならなかったからって、さっさと降りてしまって。……でも、残された連中はどうなるんだ? せっかく世間でも認められてきたのに、元のギャングへ戻れって言うのか?』

 アキラは興奮していた。


 アキラ、おまえ……


「……ごめん、誤解してたよ……」

『……』

「おまえがガーディアンズに残ったのは、単にプライドの問題だと思っていた。俺は部下の連中のことなんてこれっぽっちも考えてなかったんだ。……ひどいボスだよな……」


 俺がガーディアンズのボスの座を降りたのは、ガーディアンズ内部のゴタゴタが原因だった。

 ガーディアンズが勢力を伸ばし、街の治安が回復すると、今度は『賞金首』による収入が減ってしまったのだ。後から考えると当然の帰結だ。

 ガーディアンズ唯一の収入源であった賞金が減ってくると、その配分を巡り内部がいくつかの派閥に分かれ、対立するようになった。

 また、下部グループの中には独自に商店から『みかじめ料』を取るようなものも現れた。しかも、そのテリトリーを巡ってグループ同士で対立しあうこともあった。

 ちょうどその頃、SSOによる干渉も多くなってきとこともあり、俺はそんなガーディアンズの現状に嫌気がさし、そこを去ったのだ。


『プライドの問題じゃない、って言うと嘘になるけど…… 、手に入れた地位を手放したくなかった、ってのも本音さ』

 アキラは少し落ち着いて言った。

「昔話をするために俺に電話したんじゃないんだろ」

『そうだ、直人さん、またガーディアンズに戻ってくれないか』

「何だと?」

『初代キングが戻ってくれれば、ガーディアンズも昔のような規律が戻る。それに、今、僕たちはとても大きな仕事を任されてるんだ。これが成功すればけちな賞金首を追いかけなくても莫大な稼ぎになるんだ』

 大きな仕事? SSOがらみか……

「それは無理な注文だな」

『……、そう言うと思ったよ……』

「アキラ。マコ、いや、円城寺眞佐子さんと岡本さんのふたり。すぐに解放しろ」

『だから、その件に関しては僕は把握していないんだ』

「何だと……」

 タケルの独断なのか?

『後でタケルに詳しく訊いてみる。本当に知らないんだ』

 アキラが嘘をついていないことは口調で判った。

「そうか、でもくれぐれも気をつけろよ。タケル…… あいつは危険だ」

『……判った……』

 電話が切れた。


 大きな仕事か……



「おい、生きてるか?」

 ドアをノックする音が聞こえ、外から声がした。

「TK!」

 TKの声だった。

 俺はドアに駆け寄った。

「開けるから、ちょっと待ってろ」

 ドアの向こうで何かを操作する音がした。

「貴様、よくも……」

 ドアが開き、TKの顔が見えた時、俺は反射的にTKの胸ぐらを掴んでいた。

「ちょ、ちょっと待ってくれ…… 、訳は後でちゃんと話すから……」

 TKは首を絞められたアヒルのような声で言った。

「げっ、げほっ……」俺が手を離すと、TKはしばらくせき込んだ。「詳しい話は後だ。時間がない。ふたりを助けに行こう。アリスも連れてきた」

 TKの背後からアリスがひょっこりと顔をのぞかせた。


「こっちだ」

 ホテルの廊下に出た。

 壁紙や絨毯は汚れ、壁には無数の落書きがあった。

「おまえは何で俺たちを売るようなまねをしたんだ」

 俺は前を進んでいるTKに訊いた。

「いや眞佐子さんの父親と江川議員の事件について、俺なりに調べていたんだ」

 TKは歩きながら答えた。

「違法献金事件か?」

「そうだ、それで金の出所を調べたらゴールドバーグ・ホールディングスにたどり着いたのさ」

「それは、いつ判ったんだ」

「昨日の朝、明け方に、永田町の友人から緊急連絡があった」

「それがあのメールか……」

「そうだ」TKは僅かに視線を落とした。「でも連中の動きの方が早かった。そこで俺はおまえたちを裏切ったふりをしてガーディアンズに取り入ったのさ。それに、あそこでアリスに暴れてほしくなかったんだ」

「……」

「ガーディアンズが失敗すれば、今度はSSOの特殊部隊が出てくる」

「特殊部隊?」

「ああ、完全装備の傭兵部隊だ。いくらアリスでも50口径のライフルや対人ミサイルにはかなわない」

 俺は一番前を歩いているアリスを見た。

 しかしアリスは黙々と歩いているだけで、TKの言葉を聞いているのか判らなかった。

「そんな連中がいるのか」

「SSOは最近、民間軍事会社(PCM)事業にも手を出し始めたんだ。なぜか、この日本で」

 いくら『24区』の治安が悪いと言っても、ここは日本だ。

 傭兵部隊なんて何のために……


「とりあえず、岡本さんやマコ、いや、眞佐子さんを助けないと」

「マコちゃんに超低周波発信期を持たせてある。このセンサーで検知して場所を割り出せる」

 TKは携帯端末を取り出した。

 携帯端末は大型のバッテリーケースくらいの箱とケーブルで繋がっていた。

 画面には地図が映し出されていた。

「超低周波?」

「地下とか、通常の電波じゃ届かない場所でも探知できる」

 TKは薄暗い廊下の中を急ぎ足で進んで行った。


「この下か……」

 TKはセンサーの表示を見て立ち止まった。

「非常階段で下りよう」 

 俺は周りを見回し、非常階段を目指して歩きだした。

「見つからないうちに早く……」


「見張りがいる」

 通路の曲がり角で様子を窺っていたTKが、止まれの合図とともに頭を引っ込めて言った。

 覗いてみると、部屋の前には、ふたりの若い男が立っていた。

「どうする?」

 ここではまだ、騒ぎを起こしたくない。

「アリス、ちょっと」

 TKがアリスに耳打ちした。

 アリスは軽く頷くと、ひとりで部屋に向かって歩いて行った。

「何を?」

 俺の言葉に、TKはにやけ顔を返しただけだった。


 見張りのふたりは近づいてくるアリスに気づいた。

「お、おい……」

 アリスは見張りに近づくと、何か話しかけた。

 見張りはお互いに顔を見合わせると、ひとりがこちらの方向、つまり俺たちの潜んでいる通路の角に向かってやってきた。

 おい、ちょっと……

 俺はすぐに頭を引っ込めた。

 何やってるんだ、アリスは。


 大きな音がした。

 何かが倒れたようだ。

 おそるおそる覗いてみると、こちらに向かっていた見張りのひとりが床に倒れていた。

 その後ろにアリス。

 アリスが後ろから何らかの方法で昏倒させたのか?

「おい!」

 残った見張りが驚きの声を上げ、アリスに駆け寄った。

 アリスは振り向くと、天井に向かって跳躍し、男の背後に着地した。そして腕を首に回して絞めた。

 男は力なく倒れ込んだ。

「殺したのか」

 俺は倒れている男に駆け寄った。

 息はあった。気絶しているだけのようだった。

「……なんて奴だ……」

 俺は無言で立っているアリスを見上げた。

 しかし、以前のような怪物じみた雰囲気は感じられなかった。


 俺たちは気絶しているふたりの男を背中合わせに並べ、後ろに回したふたりの両腕を、ズボンのベルトを使って纏めて縛り上げた。


 ドアを開けるとマコと岡本夫人がいた。

「アリス!」

 マコはアリスの姿を見つけると一目散に駆け寄り、抱きしめた。

「大丈夫ですか?」

 俺は岡本夫人に声をかけた。

「はい」

 夫人は微笑んで頷いた。

「貞操は守ったからね」

 マコがアリスを抱いたままこちらを向いて言った。

「そ、それは良かった……」

 いきなり何を言い出すんだ……

「な、すぐに助けに来るって言っただろ」

 と、TK。

「信じてたよ。直人さんの次に」

「ちぇ、おやじ趣味だったのか」

「とにかく、早くここを出よう」

 俺がドアに向かいかけた時、ドアの向こうから声が聞こえた。

「何だ、おまえたち」

「逃げられたのか!」

「中を見ろ」

 ドアが開き三人の男が入ってきた。

「!」

 初めに動いたのはアリスだった。

 アリスは右側の壁に向かってダッシュすると、まるで重力を無視したように横向きになって壁を走った。

 そのまま2メートルほどの高さを駆け抜け、男たちの背後に着地したアリスは、右側の男を後ろから絞め、昏倒させた。

「こいつ」

 アリスが次の目標を定める前に、中央に立っていた男が銃のような物を突きつけた。

 投射型スタンガンだった。

「タケルさんがこれを持って行けって言った意味が解ったぜ」

 対Aドール用高周波スタンガンだ。

 本来の用途は、何らかのトラブルで制御不能になったAドールを、機能停止するために使われる物だ。

 高周波で人工筋肉の制御システムを麻痺させるのだ。

「あ?」

 スタンガンの端子は確かにアリスの胸元に命中した。

 電流が流れた証拠に端子から火花も散った。

 しかし、アリスは倒れなかった。

 どういうことなんだ?

「お、おい、やめ……」

 アリスは素早く男の背後に回り込むと、首に腕を絡め気絶させた。

「ひっ!」

 逃げようとした残りのひとりも、アリスは瞬く間に絞め落とした。


「何で、平気なんだ?」

 俺は誰にともなく言った。

「対電磁シールドフレーム……」

 TKが言った。

「え、でも事務所じゃ……」

 確かに、俺の事務所でTKはスタンガンを使ってアリスの機能を停止した。

「あれは演技だったから」

 TKは笑って答えた。

「演技?」

「そう、これでね」

 TKは小型のICレコーダーを取り出した。

「ICレコーダー?」

 TKがスイッチを操作したが、何も聞こえてこない。

「アリス、聞こえるの?」

 マコが言った。

 アリスが何か反応を示したようだ。

「これは人間には聞こえない周波数で再生できるように改造したレコーダーだ。これを通常再生すると……」

 TKが操作をすると、今度は音声が聞こえてきた。

『アリス、聞こえるか俺だ、TKだ。まだ動かないでくれ。隣のビルから五十口径の狙撃銃が狙っている。しかも、今、こいつらを倒しても、外にはまだ重装備の敵が大勢いる。このビルは完全に包囲されてるんだ。ここで君が暴れると、みんなが危険に晒される。ここは俺に任せておとなしくしてるんだ。今から俺が君をスタンガンで撃つから、機能停止をしたふりをして倒れてくれ。電流は流れてないから安心しろ、頼むぞ』

「これでアリスに一芝居打ってもらったのさ」

 TKはアリスに目配せをした。

「芝居だって?」

 俺たちはAドールに騙されたのか?

「よかった、何ともなかったんだ」

 マコはアリスの手を取った。

 Aドールが人間を騙した?

 そんなことができるのか、アリスは……


「こんなところで長居はしてられない。出るぞ」俺は気を取り直し、ドアを開けた。「今のうちだ、早く」

 廊下に出た。

 ドアの前には先刻縛られたふたりが、まだ気を失ったまま転がっていた。

「エレベーターは危険だから階段を使うぞ」

 俺が先頭に立ち、次にアリスとマコ、その次に岡本夫人、最後にTKが続いた。


『逃げたぞ! 探せ』

 大勢の人間が動いている音がした。

「もうバレたか。急ごう」

 俺は非常階段を目指して進んだ。

「だめ。向こうからも来る」

 突然、アリスが俺のシャツの裾を掴んだ。

「何?」

 非常階段の方向から何者かがやってくる気配がした。

「しょうがない、ちょっと引き返そう」

 俺たちはエレベーター・ホールまで戻った。

「あ、来たよ」

 タイミング良く一台のエレベーターが到着し、ドアが開いた。

 エレベーターには誰も乗っていなかった。

「みんな、乗り込め!」

 TKが叫んだ。

「しかし……」

「大丈夫、俺を信じろ」

 TKはそう言うと、皆を促した。


「こっちだ!」

「見つけたぞ!」

 追っ手が俺たちに気づいた。

「早く!」

 TKが手招きする。

「これ、上だぞ」

 エレベーターの表示版には上りを示す上向きの三角印が光っていた。

「大丈夫だ、早く乗れ!」

 俺とマコ、アリスと岡本夫人が乗ったのを確認すると、TKはコントロールパネルにキーを差し込んだ。

 そしてパネルの階数ボタンをいくつか押した。

「よし、成功だ」

 エレベーターの表示が下りに変わった。

「何やったんだ?」

「メンテナンスキーだ」

「メンテナンスキー?」

「この鍵でエレベーターをコントロールできる。こんなこともあろうかとこっそりコピーしておいた」

「すごいですね」

 マコが口を出した。

「これで一階ホールまでノンストップだ」

 TKはマコにサムアップで答えながら言った。

「いや、一階はもう待ち伏せされてるだろう。地下三階まで行けないか」

 おそらく、このホテルにいるガーディアンズは全員、叩き起こされて追っ手になっているはずだ。

「解った」

「地下三階?」

 マコが言った。

「りんかい線のコンコースが西側のシティ銀行の地下に繋がっていたはずだ。まだ塞がれてなければ4丁目の交差点から外に出られる」

 俺がまだガーディアンズだった頃、この辺り一帯の作りかけの地下設備を調べたことがある。 

「着いたぞ」

 エレベーターのドアが開いた

「何だ、これは」

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