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対決

 CHAPTER 20「対決」


 29階分の階段を上り、最上階に着いた。

 ガーディアンズのボス、アキラの部屋はこの向こうだ。

 アキラは元ホテルの最上階にあるスイート・ルームを、自らの執務室兼住居にしているのだ。


「子供は寝る時間だぞ」

 部屋に入ると、俺は窓際のデスクでノートパソコンを開いている人影に声をかけた。

「!」

 人影は驚いたように立ち上がり、こちらを見た。

 そいつは小柄で、軍用ヘルメットとガスマスクを組み合わせたような奇妙な被り物を被り、緋色のマントで全身をすっぽり覆っていた。

 まるで昔の安っぽいヒーロー番組に出てくる悪の幹部のようだ。

「直人…… さん」

 電子的に変調された声だった。

「おまえ、まだそんなふざけた格好してるのか」

 俺はアキラに言った。

 そう、こいつはガーディアンズを束ねているアキラだ。

「仕方ないだろ…… 、下の連中に嘗められないためだ」

 アキラは視線を窓の外へ移した。

 大通りは車の往来が減って、舗道から人影が消えていく。

 ウエストガーデンの一日が終わろうとしている。

「でも、びっくりしたよ、あなたがここへ来るなんて思いも寄らなかったから…… どうやってここまで? 下の連中が素直に通すとは思えないけど……」

 アキラはマスクの奥の視線を俺に戻して言った。

「いや、例の非常口を使った。他の連中と顔合わせたくなかったから」

「……そうか、あそこはまだ使えるのか」

「二年前と変わってなかったよ…… 、所々『バールのような物』で壊してきたけどな」

「……相変わらずで安心した」アキラは少し肩を揺らすと、一呼吸おいて訊いた。「で、ここへは何しにきたの? まさか、バールを売りに来た訳じゃないだろ」

 俺はまだバールを持ったままだということに気づいた。

「しばらく逢わないうちに冗談巧くなったじゃないか」

 俺はバールを少し掲げてから床へ放り投げた。それは分厚い絨毯の上に落ち、重たい音を立てた。

「あなたのおかげさ」

「女を返してほしい」

「女?」

 アキラの動きが止まった。


「何のこと?」

「ふざけるな! 昨日、俺の事務所からさらっていっただろう! 覆面と銃を使った荒っぽい仕事をこの街で堂々とできるのはガーディアンズだけだ」


「意外と早いお着きでしたね」

「!」

 いきなり背後から声がした。

 振り返ると、ドアの前にスーツを着た若い男と、数名のストリートギャングが立っていた。スーツの男以外は自動小銃アサルトライフルを持っていた。

 スーツの男には見覚えがあった。

 一昨日、杉田の事務所にいたストリートファッションの若造だ。

「タケル!」

 と、アキラ。

「秘密の通路は私も知りませんでした。さすが初代キング。抜け目ないですね」

 タケルと呼ばれた男はにやけた顔で言った。

 世間一般の評価では男前の部類に入るのだろうが、笑い顔に品性がない。

「お前が黒幕だったのか……」

 俺はタケルを睨みつけた。

 手が届く範囲なら殴っていたところだ。


 そうだ。

 ガーディアンズを作ったのは俺だ。


 5年ほど前だった。

 俺が『24区』のウエストガーデンに流れ着いた頃、この街は崩壊寸前だった。

 前の年まで好況だった日本経済が一気に崩れ、不況の波がウエストガーデンに押し寄せていた。大企業は次々に撤退し、街は急速にスラム化が進んでいた。

 土地の大部分を外国企業が所有しているため、めったに警察が入れないウエストガーデンは、好況の時こそ『住民の自治による自由な街』というイメージで活気づいていた。

 しかし、経済が下降してくると住民のモラルも低下していった。 

 治外法権的なウエストガーデンは『警察のいない街』が災いし、日本で最も治安の悪い街に成り下がってしまったのだ。


 アキラがこの街へやってきたのもその頃だ。

 意気投合した俺とアキラは、そんなウエストガーデンの現状を変えようとガーディアンズを立ち上げた。

 街にたむろするチンピラやストリートギャングたちを組織化したのだ。

 腕っ節には自信があった。

 しかし、最後に物を言ったのは金である。

 偶然、賞金のかかった指名手配の凶悪犯がウエストガーデンへ逃れてきたのだ。

 ひとり捕まえて数100万という報酬は、出来立ての弱小ギャング集団にとって非常に魅力的な仕事であった。

 俺はウエストガーデン内に情報網を構築し、他のグループを出し抜き、数多くの『賞金首』を『狩って』いった。

 その結果、一気に億に近い金を手に入れた俺たちは、組織を拡大し『ウエストガーデンの治安を守るガーディアンズ』として地域の住民にも認知されるようになった。同時に、公式に『24区』の治安を守っている民間警備会社、SSOの裏の部隊としてもガーディアンズは重用されることなったのだ。


 俺はタケルを一睨みすると、ベルトの後ろから銃を抜きアキラに突きつけた。

「ふたりを連れて来い。さもないと……」

 この距離なら絶対に外さない。

「直人……」

 アキラは狼狽し後ずさった。

「ふっ、ふふっ、あはははは……」

 タケルが突然、笑いだした。

「何、だと?」

「あなたに撃てる訳ない」

 タケルは表情を一変させるとそう言い放った。

「くっ、俺は本気だ!」

 俺は素早くアキラの背後に回り込むと、左手でアキラを後ろから抱え込み、右手の銃をアキラの喉元にあてがった。

「本当に、撃てますか?」

 タケルとその部下が近づいてきた、自動小銃の銃口が俺を狙っていた。

「直人、さん……」

「くそ!」

 俺は観念し、銃を床に投げ捨て、アキラを解放した。

「キング、いや元キングですね。あなたにはしばらく、下の部屋を使ってもらいます」

 タケルはそう言うと、部下に合図した。

「貴様…… 、次に会ったらぶん殴ってやる……」

「あ、そうそう」ドアの前ですれ違いざまにタケルが言った。「アリスも回収できて、あなたには大変感謝しています」

「何だと?」

 アリスが?

「ゴールドバーグから預かった次世代Aドール試作品のひとつなのですが、全く命令を聞かないんで困っていたところだったんです」

「それって……」

 俺は立ち止まりタケルを睨んだ。

「何でも、ロボット工学の天才科学者が作ったAIが組み込まれているという触れ込みだったんですが、連れて来てみれば全く言うことを聞かず、役に立たない失敗作で、せっかくの女性型なのに…… 何の役にも立たないという……」

 タケルは下品な笑いを浮かべた。


 やはりアリスはゴールドバーグ・ホールディングスが作ったAドールだったのか。

 ゴールドバーグの資金力なら、あの完成度は理解できる。

 天才科学者とはおそらく小室一樹のことだろう。

 ゴールドバーグに拾われ、どこかで研究を続けていたのに違いない。

 命令を聞かない失敗作か。

 確かに、一般的なAドールの基準に照らし合わせれば、アリスは間違いなく失敗作だ。

「おまえ、女の扱い下手だろう」

「なにを……」

 タケルは顔を真っ赤にして俺を睨みつけた。

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