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HARUMAREA  作者: 火束 大
第三章 『不義選定』
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第43話 『ある意味三つ巴』


「(リフルを行かせてはならない! このままでは・・・・・・彼女は死んでしまう!!)」


 いまだに全身を舐められるような悪寒は終わっていない。

 リフルが入っていく雑木林。その奥に今、この悪寒の原因がいるのは間違いない。

 彼女はその悪寒の原因をハルマレアと自分の仲間だと思っているようだが、勿論違う。まさに誤解である。

 ここまでで、リフルが強い事は分かった。その上で断言出来るのだ。

 今彼女が始末しようとしている〝おぞましき何か〟は、そんなリフルでも太刀打ちが出来ないという事を。

 だから止めるのだ。

 何としても・・・・・・!!


「(しかしどうする? 私の言葉は聞いてくれない。レアは尚更ダメだ。それ以前にレアは今も突き刺さったままの白い剣に目を奪われている・・・・・・)」


 目を見開いたまま真っ白な剣に視線を注いでいるハルマレアは、今の状況を忘れたかのように微動だにせずに硬直している。

 恐らく、知っているのだろう。この真っ白な剣が何かを。


「レア」


「・・・・・・・・・・」


「レアっ」


「・・・・・・・・・・」


 試しに声を掛けてみたが、まったく聞く耳を持ってくれない。


「(まずいまずいまずい!! もうリフルはほぼ姿が見えなくなっている! どうする? どうする!?)」


『・・・・・・わうも、家族を、ユルフちゃんを守りたいぅ』


 想起したのは、リフルのこの言葉。

 家族。ユルフ。


「(・・・・・・こんな事したくないんだが。しかし、リフルを引き止めるにはもう、これしかない・・・・・・)」


 やるしか、ない。

 自分が実行しようと思案している行動に激しく抵抗感が生まれるが、それを押し殺しつつユレスは、


「ッ!」


「——え?」


 迷う素振りで静観していたユルフの元へと駆け出した——。




     ⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨




「・・・・・・暗くて見えづらいぅね」


 ガサガサと葉や草をかき分けながら奥へと進んでいく。入った時はテレブール王国からの明かりで問題なく進めていたが、もうその明かりも届かなくなっている。


「使うしかないぅ、か」


 右手を上げ、人差し指だけを上げる形にした直後——ポッ、と指先に小さな火が灯る。

 赤熱魔法だ。もっと大きな火でも出すべきだろうが、残念ながらリフルに出せる火はこの程度。

 素手の戦闘に拘っている理由がこれだ。リフルは生来魔法が苦手なのである。それ故に魔法は諦め、この五体を鍛え、体術を磨いてきた。

 全ては、あの『怪魔(ダクストル)』ども——トェイスとメルヘレオスを殺す為に。

 ()()()に、そうユルフと共に誓ったのだ。


「けうまずぅは、奴らの親玉である娘、ハルマレアが先ぅ」


 魔王の次世代であるあの女だけは、ここで始末しなければならない。

 まさかこんな辺鄙な王国にいるとは思わなかったが、この偶然に感謝だ。


「よし、このまま進むぅ」


 ハルマレアの前に、この雑木林の奥にいるだろう伏兵を片付けてやる。

 そして、前に進むための一歩を踏んだ時だった。



「リフルちゃん助けぅーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」



「!!?」


 大切な姉の絶叫が、響いてきたのだ。

 考えるより先に体が動き出す。指先の火を消し、ここまで来た道を急いで引き返していく。

 開ける視界。そう間を置かずに雑木林から戻ったリフルの視界に入ったのは・・・・・・、


「・・・・・・来たな」


「リ、リフルちゃん・・・・・・!」


 姉の首に右腕を回し、左手を姉の顔にかざしている——ユレスだった。


「ユルフちゃん・・・・・・!!」




     ⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨




「(・・・・・・これでいいでしょうか?)」


「(ああ。バッチリだ)」


 ユルフが叫んで間もなくこちらに戻ってきたリフルを見て一安心する。

 作戦は成功だ。


「(悪いなユルフ・・・・・・もうしばらくこのままで頼む)」


「(はい。わうは大丈夫ですので、リフルちゃんをお願いします)」


 ——ユレスが考えついた作戦とは、簡単に言えば、というかそのものである人質作戦である。


 自分の言葉では彼女を止められない。だったら、彼女の大切な人の言葉なら届くはずだ。

 しかし、普通に声を掛けても恐らく今の彼女は止まらないだろう。

 だからこその悲鳴。姉が危険な状態になっていると知れば必ず何もかもをかなぐり捨ててやってくる。

 とはいえ、実際に危害など与えるわけにもいかない。

 故にユレスは、


『ユルフ!』


『ユ、ユレスさん・・・・・・!? ッ! わうを狙って・・・・・・!』


『違う! 私に戦闘の意思はない! 君の元まで来たのは、君に協力して欲しい事があるからだっ』


『協力?』


『今、リフルが雑木林に入っていっただろう? リフルは勘違いをしているんだが、雑木林にいるだろう謎の人物は私達の仲間じゃないんだ』


『え・・・・・・では一体誰が・・・・・・』


『私にも分からない。だが、そいつが物凄く危険な人物だというのは全身で理解出来る。このままだと、リフルがそいつに殺される可能性がある』


『!! ・・・・・・こう言うのもなんですが、リフルちゃんは相当強いです。それでも、ですか?』


『それでも、だ』


『・・・・・・分かりました。わうも『怪魔(ダクストル)』は嫌いですが、あくまで憎いのはトェイスとメルヘレオスです。ここでハルマレアさんを、ましてユレスさんと戦うのは何か違うのではないかとずっと迷っていました。ですが、今のリフルちゃんは頭に血が上りすぎてもうわう一人では止められません。ですから・・・・・・!』


『・・・・・・ああ』


『お願いします・・・・・・リフルちゃんを助けてください! わうに出来る事ならなんでも協力しますから・・・・・・!!』


『交渉成立だな。よし、じゃあ今から私が言う通りにやってくれ——』


 ——そうして、現在。


 リフルの頭を冷やすための人質作戦を展開しているのだが・・・・・・。


「(・・・・・・しかし、どうするか。リフルを戻せたのはいいが、ここからどう収拾をつけるか、だな)」


 この人質作戦はまさに諸刃の剣。むしろもっと頭に血を上らせる結果になってもおかしくはない。それか、すでにその結果になってる可能性が高い。

 ここですぐにユルフを解放したら、間違いなく一直線に殺しに来るだろう。

 必要なのは言葉。彼女を納得させる、落ち着かせる言葉が肝要なのだ。

 だが、人質を取っておいていつもの口調だと演技とバレるかもしれない。


「(まずは、それっぽい悪い奴を演じてみるか?)」


 ・・・・・・一応、自分は『魔王』だ。

 魔王らしく、話してみよう。


「く・・・・・・ククク! やはり姉の悲鳴に飛び込んで来たか。予想通り過ぎて笑えるぞリフルよ!!」


 ダメかもしれない。

 というか、今まで普通に話していたのにいきなり口調が変わっておかしいだろ、と矛盾を突かれるのが当然か。

 失敗したか・・・・・・。

 と、思案したのだが。



「ユレスちゃんおまぅ・・・・・・!! それが本性かぅ!!」



「(通じたーーーーーーー。あれか? 頭に血が上り過ぎてまともな思考が出来てないのか?)」


 だとしたら、好都合だ。

 ユレスは「ククク!!」とそれっぽい笑いをして、


「そうだ・・・・・・全てはこの時のための布石だったのだ。君、ではなくお前が自分の姉から完全に離れるこの時をなぁ!!」


「外道がぅ・・・・・・!!!」


「もし私の許可無しに動いたら分かるな? 自分の姉が死ぬ事になるぞ」


「クソッタレぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」


「クク。滅びこそ我が喜び。死にゆく者こそ美しい」


「(なんか凄いそれっぽい事言ってますねユレスさん・・・・・・)」


「(魔王らしさを演じてるからな)」


 チラリと、ユレスはまだ白い剣の前で硬直しているハルマレアを盗み見つつ、


「(次だ。ユルフ、ここから私はリフルに対してテレブール王国に戻るように言う。無茶振りになるが、君は私の言葉に合わせて欲しい。出来るか?)」


「(はい。大丈夫です)」


 すぅ・・・・・・とユルフの呼吸音を耳にしながらリフルを見据える。

 彼女は、分かりやすく歯を剥き出しにして憎悪をユレスにぶつけている。動いたら分かるな? と言ったのはこちらだが、むしろユレスの方が動いたら食い殺されそうな、そんな危機感を非常に感じているのだ。

 慎重に事を運ばなくては・・・・・・。


「さてリフルよ。このままだと無為に時間が過ぎるだけなのは分かるな? そこで提案・・・・・・いや、命令だ」


「・・・・・・言ってみろぅ」


「このまま、お前はテレブール王国に戻れ。お前が入るのを確認したら姉は解放してやる。距離的にも、入り口からならギリギリ私がユルフを解放したかどうか見れるだろう。それでこの場は収まる。どうだ?」


「リフルちゃん・・・・・・お願いぅ・・・・・・!!」


「・・・・・・どうだも何も、わうは言う事を聞くしかないぅ」


「そうだな。では今すぐ戻れ。動いていいぞ」


 なんとかなりそうだ。

 あとは、ユルフからリフルに事情を説明してもらって、



「————なんて、素直に言うと思うかぅ?」



 直後、だった。

 リフルの姿が一瞬ブレたと思った瞬間には——彼女は、ハルマレアの首をその左腕に抱えていたのだ。

 脳裏に空白が広がる。

 まるで鏡映し。自分と同じ事をしているな、と思案して気付く。今更ながらに、気付く。


「(——レアを、人質に取られた・・・・・・!!?!?)」


「お、あ? ん!? リフル!? いつの間にあては捕まったのか!!?」


「(今頃気付いたのかっ)」


 よほどあの剣に集中していたのか。一体何なのだ、あの白い剣は。


「(ど、どどど、どうしましょうユレスさん!? まさかリフルちゃんがハルマレアさんを人質にするなんて!)」


「(お、落ち着けユルフ。とにかく冷静にな、)」


「さてユレスちゃん。忠告するぅけう、ユレスちゃんがユルフちゃんを殺すより早く、わうの方がハルマレアの首をへし折って絶命させられる。分かぅか? 立場は逆転したぅ」


「なっ・・・・・・」


「リフルちゃん・・・・・・」


「安心しぅユルフちゃん。すぐに解放してあげるぅから・・・・・・雑木林にいる奴もだぅ!! もしまた武器などを投げて攻撃の意思を見せたら即座にハルマレアを殺すぅ!!」


 雑木林に向かって再び吠えるリフルだが、返ってくるのはやはり沈黙。もはやもういないのか、とさえ思う程だ。

 だが、まだいると判断していいだろう。

 その理由はここに白い剣が残ったままだからだ。武器を回収しないままこの場を離れるとは思えない。


「ふん。あくまで黙ったままぅか。——さあユレスちゃん! ユルフちゃんを早く解放するぅ!!!」


「(・・・・・・解放したら間違いなく、リフルはすぐにレアを殺すだろう)」


 完全な膠着状態。バカだった。ハルマレアをこちらにいさせていればこんな事には・・・・・・!

 考えが足りなさすぎる・・・・・・。


「(どうすれば・・・・・・)」


「(・・・・・・仕方ありません)」


「(ユルフ?)」


 諦観を滲ませるように小声で呟くユルフは、ハルマレアを人質に取った妹を真っすぐ見据えつつ、


「(いいですかユレスさん。わうが今からやる事に驚かないで、右腕はわうの首に回したまま、左手もそのままでお願いします。わうを離したらリフルちゃんは完全に自由になってしまうので)」


「(何をする気だ・・・・・・?)」


「(説明している時間はありません。とにかく、わうが先程言った事を守ってください。それだけでいいです。それだけで、わうがこの場を収めて見せます)」


「(よく分からんが、もう私では案が思いつかない・・・・・・助けてくれと頼まれたのにすまん。情けない自分に腹が立つよ・・・・・・)」


「(ハルマレアさんがああなってしまったのですもの。仕方ありませんよ。それに妹の責任は姉の責任でもあります。だからリフルちゃんが人質をとってしまった時点でわうがやる必要があったのです。・・・・・・こんな事、リフルちゃんを苦しませるようで嫌ですが、やるしかありません・・・・・・!)」


 人質作戦を決行したユレスと似たような事を呟きながら、ユルフは右手を上げていく。

 この膠着状態をどうやって切り抜けるのか。まったく予想が出来ない。


「何をボケっとしてるぅかっ。ハルマレアが死んでもいいぅか!? 早くユルフちゃんを離せぅ!! 早く早く!!」


 急かすリフルの声が響く中、ユルフは上げた右手の手のひらを自分の胸の中心——心臓部分にかざし、


「————!」


「「「————は!?」」」


 ピキィ! とその右手の手のひらから生えるように、切っ先が鋭い氷柱を発現した。

 何度も見ている基本的な魔法、青氷水魔法だ。使っている魔法は問題ないが、彼女が今やっている事は——まさに問題行為だ。その行為故に、ついユレス、ハルマレア、リフルも一瞬自分の立場を忘れて驚愕の声を重ねてしまう。

 そう、彼女は何を考えているのか、自分の心臓部分に——自分の魔法、殺傷可能な氷柱を向けているのだ。

 そうして誰もが呆気に取られる場で、彼女は緊張を露呈させるように早口で、こう言った。



「リフルちゃん聞きなさい! もしハルマレアさんを殺したら! 殺した瞬間にわうもこの氷柱で自決をします! それが嫌ならハルマレアさんを解放しなさい!!」



「(人質にされながらさらに自分自身を人質にするだとぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?!?)」


「は、はぁ? ユルフちゃん何を言って・・・・・・」


「これならリフルちゃんがどれだけ早くハルマレアさんを殺そうが関係ありません。これで改めて立場は対等です!」


 もはや状況は混沌だ。

 ユレスがユルフを人質に取り、リフルもハルマレアを人質に取って、そこからさらにユルフは自分自身を人質にした。

 あまりにも馬鹿馬鹿しい状況。緊迫感さえ消えてしまう程である。


「・・・・・・・・・・なぅんか、アホ臭くなってきたぅ」


 だが、その馬鹿馬鹿しさが——、


「——さすがに分かりました。ユレスちゃん、あなたはユルフちゃんと組んで一芝居を打ったって事ですなー?」


 ——彼女を、冷静にさせられた。


「・・・・・・ああ。雑木林に行く君をここに戻したかったから」


「ふー・・・・・・ユルフちゃん。その理由を教えてもらってもいいですか? ユレスちゃんの味方をしているのですから知っているでしょう?」


「その前に、ハルマレアさんを離してください」


「・・・・・・分かりました」


 拗ねながらもリフルはハルマレアを解放し、距離を取る。

 その彼女の行動にユレスも同じように倣う。もう大丈夫だろう。彼女は冷静だ。

 そして、ユレス以上に妹を理解しているユルフは右手に出している青氷水魔法を消しつつ、笑顔を浮かべて口を開いた。


「んー、不承不承をハッキリと顔に出しても素直にお姉ちゃんの言う事を聞いてくれるリフルちゃん、さすがの可愛さです♡ 後でなでなでしますね♪」


「わうわう・・・・・・」


「——さて、では説明しますねリフルちゃん。まず雑木林にいるだろうお人なんですが、ユレスさん達のお仲間ではなく、得体の知れない人物なんです」


「? ですが、あの時は間違いなくわうからユレスちゃんを助けましたよね?」


「そうなんだが、私とレアは本当に知らないんだ。それによく考えて欲しい。私達は元々二人だけであの飯屋にいた。そして誓って言うが、あの飯屋に私とレアの知り合いはいなかった。つまり場所を変えて改めて話そう、という提案は私とレアしか知りえない」


「まぁそうさな。あの飯屋にあてらの知り合いであるドハドルもラゥルも、ミーゼもいなかった」


「・・・・・・ではわうは、勘違いしてその謎の人物と戦おうとしたってワケですか。・・・・・・わうが言うのも何ですが、なぜユルフちゃんと組んでまでわうを呼び戻したんです? そのまま行かせた方がユレスちゃんとハルマレアにとっては都合が良いと思うんですけど」


「死なせたくないからだ。それに君とは嫌な関係でいたくない。それだけだよ」


「わうが死ぬ・・・・・・? わうがその謎の人物に負けると?」


「断言する。少なくとも君一人では、死ぬ」


「言いますねぇ。・・・・・・しかしお人好しですなーユレスちゃん。明らかにハルマレアに敵意を持っている且つ、ユレスちゃんを殺そうとしましたのに」


「もっと話し合えば友好な関係になれる。私はそう判断した。それに」


 スッと、ユレスはユルフの方に視線を流し、


「身内が死ぬのは想像以上の悲劇だ。経験者だからこそ、残されるユルフにその思いは味わわせたくない」


「・・・・・・・・・・」


「ユレスさん・・・・・・」


「・・・・・・そういえば」


 ポツリと、目を伏せたリフルは右手を自分の腹に当て、


「まだ、お夜食を食べてませんでしたなー。しかもちょっと運動したから尚更お腹ぺこぺこです。ユルフちゃんもでしょう?」


「え、ええ。もう緊張の連続でしたから」


「・・・・・・ユレスちゃん」


 ゆっくりと右手を下ろして、彼女は自分の名を呼ぶ。

 ちゃんづけも慣れたな、と思案しつつ「なんだい」と返すユレスにリフルは、


「これからわうとユルフちゃんはお夜食を食べに行きます。今日はこれ以上、二人の時間を邪魔されたくありませんからなー。ですから・・・・・・明日。もう一度明日、話し合う場を設けましょう。そこでお互い包み隠さず事情を話し合う。勿論、戦闘は無しで。どうですか?」


「!! ああ!」


「話し合うのは・・・・・・お互い仕事もあるでしょうし、夜にしましょう。わう達は仕事終わっても自分の職場で待ってますから、ユレスちゃんも・・・・・・ハルマレアも、自分の仕事が終わったら来てください。場所は分かるでしょう?」


「そうだな。一度来てるし、近いしな」


「あては仕事してない無の戦士だがな」


「何が無の戦士だよ・・・・・・」


「では、わう達はお先に失礼しますなー。ユルフちゃん、行きましょう」


「はい。ユレスさん、ハルマレアさん。また明日です」


「ああ。また明日な。・・・・・・警戒は緩めずにな」


「言われなくても分かってます。そもそもわうとユルフちゃんはそっちが()()ですしなー」


「本職?」


「それも明日話します。では、ですなー」


 最後に、異父姉妹は地面に突き刺さったままの白い剣と、暗闇の雑木林を見やってからこの場を去っていった。

 王国内に入ればひとまず安全だろう。


「とりあえず、無事乗り切ったな。あとは・・・・・・」


 あの、白い剣だ。

 試しに触ってみるか、とユレスは白い剣に向かって歩いていく。

 が、


「行くな、ユレス」


 こちらに早足で近づいたハルマレアが立ち塞がってきた。しかも両腕を左右に広げて、だ。

 絶対に行かせない、という強い意志を感じさせる彼女のその行動にユレスは鼻白みつつ、


「なぁ、レア。君は知ってるんだろ? あの白い剣が何なのかを」


「・・・・・・うむ。見た事は無かったが、刀身も柄も全てが真っ白な剣など他にあるまい。聞いた話と一致しておるわ」


「? で、あの剣は何なんだ?」


「それは帰ってから話そう。今はこの場を離れるべきだ。そうであろう?」


「・・・・・・そうだな。ここは危険だしな」


 若干薄れたが、まだ——悪寒はザワザワと背中を撫でている。

 いまだにいるのだ。この悪寒の原因が。

 これ以上この場にいたら・・・・・・吐きそうだ。


「では帰るぞユレス。速やかにな」


「ああ」


 ハルマレアと並び立ち、足並みを揃えてテレブール王国に気持ち早めの早足で戻っていく。家に帰れば落ち着ける。早く帰ろう。

 早く、早く・・・・・・。


「(気持ち悪い・・・・・・)」


 吐き気をこらえ、顔をしかめるユレスを横目で見るハルマレアは不安げな顔だ。

 あの白い剣。

 あの白い剣が()()()ならば、()()()()()()()()()()()


「(まさか、もうユレスを特定したのか?)」


 だとしたら早すぎる。否、ありえない、だ。


 ——そうして。


 静まり返り、誰もいなくなって唯一残された白い剣は。


 空気に溶けるように、存在を消した——。




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