表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
HARUMAREA  作者: 火束 大
第三章 『不義選定』
43/58

第41話 『かみかみはぐはぐ』


「これは、やるしかないぅ」


 リフルの口から出た、いつもとは違う口調。

 ゆらりと、リフルの体が前に傾いていく。


「(——まずい)」


 そう、傾いただけだ。ただ、前に。

 しかし、彼女の眼光、歪んだ口。何より・・・・・・威圧感。


「(このままではまずい!!)」


 何が起こるかは、まだ分からない。

 だが、このまま何もしなければ——非常にまずい事態が起こるという事だけは分かるのだ。

 一気に椅子から立ち上がり、ユルフに手を伸ばそうとする。服でも腕でもなんでもいい。掴みさえすれば状況を変えられるはずだ。

 ——そして。


 直後、だった。



「やめるぅリフルちゃん! ここではダメう!!」



「——ユルフちゃん」


「(・・・・・・止まった?)」


「???」


 傾いていたリフルの体が、姉の一声でピタリと止まる。

 ゆっくりと、姿勢を直したリフルは熱を逃がすように、ため息にも聞こえる息を吐きつつ、


「けう、こいぅは・・・・・・」


「場所を考えぅ。人目がたくさんあるぅ忘れうか?」


「・・・・・・そぅだったうね。ごめんぅさい・・・・・・」


「いいんぅ。リフルちゃんの気持ち、わうも分かるぅから。今は、落ち着くぅよ」


「うんぅ・・・・・・」


「(とりあえず大丈夫そうだが・・・・・・一体どうしたんだ?)」


 独特な口調で話しているせいで理解しづらいが、まずい事態は避けられたと見ていいだろう。

 ハルマレアは怪訝な表情でキンキン、と両手に持つフォークを鳴らしているだけだ。というかなぜ二本持ってきた?


「(しかし、リフルのあの動き・・・・・・多分・・・・・・いや間違いなく、リフルはレアに攻、)」


「ごめんぅさ、あ、んん゛! ・・・・・・失礼しました。申し訳ございませんユレスさん。・・・・・・ハルマレアさんも。嫌な空気にしちゃいましたね」


「・・・・・・ごめんなさい、です」


 思索をしている最中に、ユルフとリフルの二人が同時に頭をユレスに下げてくる。口調を戻してくれたのは実に助かるが、気がかりを覚えてしまうのは否めない。

 恐らくは、彼女達の故郷限定の口調なのだろう。聞いた事が無い口調だったが、一体どこの場所の口調だろうか。

 気にはなるが、今向き合うのはそれではないだろう。

 頭を下げたままの二人にユレスは座り直しつつ、


「頭を上げてくれ二人共。それに謝らなくてもいい。何が起こったわけでもなし。無意味に謝ると知性体として価値が下がるらしいからな。そうだろ? レア」


「うむ。偉いぞユレス。あての言葉を覚えていたか」


 場を和ますように、砕けた風に会話するユレスとハルマレアに「ありがとうございます」とユルフは頭を上げ、妹のリフルも続いて無言で頭を上げていく。

 ひとまず落ち着いたようだが、彼女達の視線、特にリフルは刺すような視線をハルマレアに送り続けている。

 敵意すら覚えるリフルの視線にユレスは、座ったばかりの椅子からまた立ち、


「・・・・・・場所を変えて話そうか? 君達もその方がいいだろ?」


「・・・・・・ええ。そうですね。このままではお互い据わりが悪いままですし」


「ふむ。せっかくフォークを二本借りてきたのだが、借り損になってしまったか。まぁ仕方あるまい。もう食事する雰囲気でもないようだしな」


「・・・・・・・・・・」


 カランカラン、とハルマレアが二本のフォークを食べ終えた皿に置く。その挙動すら、リフルは警戒するようにジッと見つめている。

 その警戒度はまさに異常だ。なぜ彼女達の態度が変わったのか。分かる事は、ハルマレアが自分の名前を名乗った時が起点だという事だけだ。

 そこから考察するなら、この二人はハルマレアの姿は知らなかったが、ハルマレアの名前は知っていたという事。しかも彼女達の様子を見る限り、ハルマレアに良い感情は持っていないと判断していいだろう。


「(・・・・・・まさか、な)」


 良い感情を持っていない。

 敵意。

 ・・・・・・ハルマレアの、正体。


 導き出される結論は——、


「・・・・・・じゃあ、お金を清算してくるから先に外に行っててくれ」


「分かりました。行きましょうリフルちゃん」


「・・・・・・はい。ユルフちゃん」


「あても外で待つとしよう」


 三人が店から出て行くのを見送った後、ユレスは精算場へと向かい始める。先程出た結論が脳裏を占めているせいか、これから彼女達と話し合う事に嫌な予感しか感じないのだ。

 せっかく日常に帰れたと安心したのに、また一波乱か。

 ——ハルマレアと出会う前の平和だった日々がもはや遠く感じる。無論、ハルマレアと出会えた事に後悔などないが。


「とにかく、何が起きても対処出来るように心構えだけはしておくべきだな・・・・・・」




     ⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨




「・・・・・・ここなら、人目にはつかないでしょう。夜も遅いですし」


「そうだな」


 先頭を歩いていたユルフが振り返りつつ止まり、彼女の隣にいるリフルもこちらに振り返って止まる。必然的にユレスもハルマレアも立ち止まる・・・・・・彼女達とは距離を空けて、だ。


 ——精算を済ませたユレスが外で待っていた彼女達と合流し、どこにしようかと話し合った所、ユルフは王国の外にしよう、と提案してきたのだ。

 夜とはいえ、王国内にはまだ人の喧噪は絶えていない。それ故の外らしい。

 ユレス達がいるのは、王国の明かりが僅かに届く場所だ。ここなら彼女達の姿も暗闇に隠れる事はない。

 何か起こったとしても、対処出来る。


「さて、じゃあ聞かせてもらおうかな。君達はレアの名前を聞いた時から様子が変わったよね。それはなんでかな・・・・・・?」


「それは・・・・・・」


 チラリ、とユルフはハルマレアを横目で見てから、


「説明するならまず、あなたに確認したい事があります。ユレスさん」


「何かな?」


「あなたは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


「————」


 ——このユルフは、否、リフルもだろう。この二人は間違いなく気付いている。


 ハルマレアの、正体を。


 ハルマレアの事を人、ではなく、生き物と言ったのだ。

 つまり彼女が人間ではなく、『怪魔(ダクストル)』と見抜いている・・・・・・!


「答えてくださいユレスさん」


「ッ・・・・・・」


「ユルフちゃん。もういいです。今のユレスちゃんを見て確信しました。ユレスちゃんは知っています。ハルマレアが、『怪魔(ダクストル)』だという事を。そうですよね? ユレスちゃん」


「い、いや・・・・・・私は!」


「よせユレス。下手な言い訳は自分を追い詰めるだけだ」


 このまま押し切られてはいけない、と何の策もなく言葉を重ねようとするが、ハルマレアがそれを止めてきた。

 魔王の娘である彼女は、大幅に一歩ユレスより前に出て口を開こうとする。

 何を言うつもりか分からないが、ここはハルマレアに任せた方が良さそうだ。

 そして、ハルマレアは、



「そうだ。あてはこう見えて『怪魔(ダクストル)』で、ユレスも勿論知っている! よく見破ったな、褒めてやろう!!」



 そう、尊大に腕を組みつつ正直に言ったのだ。


「・・・・・・レアさん、ちょっとレアさん? 今の状況分かってるかい? そこは誤魔化す何かを言うべきだろ・・・・・・!」


「言ったろう。下手な言い訳は自分を追い詰めるだけだと。それにどう誤魔化してもこやつらは確信しておる。これ以上何を言っても無駄だ。そうだろう?」


「そうですなー。証拠もありますしなー」


「証拠・・・・・・?」


「爪、ですなー」


 ユレスの疑問に答えるように、リフルが指さすのは・・・・・・ハルマレアの両手だ。

 小さな両手を鉤爪状にして、自分の胸の前に持ち上げるハルマレア。彼女の爪色は確かに普通の色とは違い紫色である。

 まさか、これが証拠なのだろうか。


「人の爪なんてそんなに気にしないでしょう。しかし、見過ごしてしまうそれが、何よりの証となってしまうのですなー。ほとんどの人は気付いてませんが、それで『怪魔(ダクストル)』かどうかが分かるのです」


「・・・・・・なるほどな。これからは気を付けよう」


 両手を下げながら頷くハルマレアは、ジッと、リフルの顔を見つめ始める。

 その視線が、徐々に険しくなっていく。

 真向から彼女の視線を受け止めているリフルはそれが愉快なのか、再び口の端を歪めつつ——こう言ったのだ。


「ですが、わう達はあなたの爪を見て『怪魔(ダクストル)』だと判断したわけではありません。あくまで爪は確証。わう達は、()()()()()()()()()()()()()()()()()。ハルマレアなんて名前、そうそう無いでしょうし。それに・・・・・・何度も聞いた名前ですからなー・・・・・・」


「何度も? 何度もってどういう・・・・・・」


「そうか」


 ずっと、知っているような影が見え隠れしていた。

 ハルマレアは、ハッキリと睨むようにリフルを視線で刺す。ようやく、思い出せたのだ。

 リフルから感じる懐かしさ。そして、何度も名前を聞いたという言葉。

 自分の名前を知っている奴らなど、あいつらしかいないだろう、とハルマレアはため息をつく。

 ついに、奴らがここまで来てしまったのか。


「・・・・・・本当に懐かしいな。あやつは厳格な奴であったな。『怪魔(ダクストル)』のくせに真面目だが好色家であり、その実力は一級品。あての事をよく注意してたわ。もっと真面目に生きろだの、魔王の娘としてしっかりしろだとかな。そんなあやつにあてはよくこう言い返したものだ。だったらまずは自分の女好きを直せと」


「レア・・・・・・? それって・・・・・・」


「まだ色々疑問はあるが、理解した事も多々ある。リフルよ。なれは——『怪魔(ダクストル)』であり、そして」


「・・・・・・・・・・」



「——父親は、怪肆魔将の一人であるトェイス。そうだな?」



「・・・・・・確かに、その通りですなー」


 肯定したとは裏腹に、リフルは心底嫌そうな顔を浮かべたのだった——。




     ⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨




「なーんか、空気が変わってきたなぁ。はむ・・・・・・むぐむぐ」


「ッ! ぅ・・・・・・。はっ・・・・・・」


「ぷはっ・・・・・・()()はボクちゃんのモノ決定だから、傷とかつけられるのは勘弁願いたいんだよね。君もそう思うよね? はぐっ!」


「いっ! は、はひ。まさしくぅ・・・・・・」


「とりあえず、まだ様子見かな。いざとなったら横やりしよう。そ・れ・ま・で・は、いつも通り君のこれで我慢しようっと。声はちゃんと抑えてね?」


「わかっ、分かりました・・・・・・ぅぐぅ・・・・・・!!」


「(早く堪能したいなぁ・・・・・・()())」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ