第38話 『ようこそうはうは美少女楽園へ!』
「(あ、ありえない・・・・・・!!)」
テレブール王国の復興も完了し、ついに今日から武器屋の営業も再開する開店準備前。
開店準備という忙しい時だというのに、ユレスも、店長であるドハドルもある一点を見て固まっているのだ。
だって、本当に信じられない。
こんな事が、現実で起こりえるのか?
「あ、あ・・・・・・」
パクパクと口を閉開するドハドルは言葉を紡ごうとするが、驚きのあまり形成出来ないようだ。だが彼のその反応は至極当然、自然的だ。なぜならユレスも同じように口をパクパクと閉開しているのだから。
そして、しばらく時間だけが流れる中。
ふるふると震えながら右手を上げたユレスは、人差し指をそれに向けつつ、
「あ、あ、あ・・・・・・」
脳裏に浮かぶままに——ようやく形成した言葉を叫んだのだった。
「あのラゥルが手伝いを!!! 真面目に働いているだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!?!?!??」
「そんな驚かなくてもよくない? 娘が父親の店を手伝うのは普通でしょ。ハチャメチャにふつー」
そう。
武器が大量に盗難されたわけでも、破壊されているわけでもない。
だが、それら以上に目の前で起こっている事は異常で驚愕だ。
なにせラゥルが、ずっと店の手伝いを逃げ続けてきたあのラゥルが、こんな朝早くに起きて且つ、置いてある武器の整理をしているのだから————!!
「い、いや、いやいやいや! 何戯けた事謳ってんだてめェはよ! 手伝いなんて今までした事ねェだろうがよ!!」
「そうかな? 小さい頃にあたしは可愛らしく、重い剣を両手で持ちながらとてとてと父さんの元に良く運んだ記憶があるような・・・・・・ないような」
「ねぇよ! そんな可愛いガキじゃなかったわ! おめぇがやってたのは並べてある武器に蹴りを入れて床に落としたりその日の売り上げの金をちょろまかすっつーとんでもねぇクソガキだったわ!!」
「ごめめそ☆」
「何だいその言葉?」
「ごめん、て謝りながら、めそめそしてる謝罪。略してごめめそ。あたしが作った造語。真似してもいいよ」
「どこがめそめそしてんだ!? 思いっきり軽く謝ってるだろッ!! このバカ娘がァ!!」
「あー、朝っぱらからうるさいなぁ。よくそんなデカい声出せるよね。元気良すぎでしょ」
「お前のせいで怒鳴るはめになってんだろが!」
「なんだよ、もー! せっかく人がたまには手伝ってやるかって親切心をだしてんのにさー! もうやる気なくしたよ。やる気無くさない方がおかしいよこんなの! このクソ親父っ。あ~あ、もうふて寝しよ。起きて後悔したね、ホント」
「おう無理しねェで寝てろや。寝てるか遊ぶぐらいしかおめぇには能がねェんだからよ」
「クソ親父ぃ!!」
怒りに身を任せるままの睨み合いは、二人同時に反対方向に勢いよく顔を向ける事で終わりを告げた。
ぽいっ、と憤慨しつつラゥルは、持っていた剣を雑に武器置き場に投げて家の中に戻ろうとする。ドハドルはそんな彼女から顔をそむけたまま、腕を組んで怒りを表すような態度をとったままだ。
険悪な空気が漂うこの場で第三者がいるとするならば、きっと二人に辟易する事だろう。
そして、その第三者に該当するユレスだが、彼はというと——、
「・・・・・・ふふっ」
辟易するどころか、我慢できないとばかりに含み笑いをしていたのだった。
最初の頃なら、確かに辟易しただろうが・・・・・・今なら。
彼らとの付き合いもそれなりになった今なら、分かるのだ。
「(やはり親子は似るものだな・・・・・・)」
口喧嘩する二人を俯瞰している立場だからこそ、二人の様子を同時に見れる。
顔をそむけ合ったラゥルとドハドル。口と態度は怒っているように見えるが、そむけ合った彼らの顔は——微笑んでいるのだ。
きっとお互い、こう思っているはずだ。
——ああ、また、いつものように口喧嘩が出来るんだな、と。
しかしそんな事を言ったら、この二人は照れて、自分を交えて喧嘩するかもしれない。
喧嘩という名の親子の語らいに、自分は不純物だろう。
そう思案したユレスは、口に笑みを作ったまま——ラゥルの背中を見送っていく。
——願わくば、この先もこのまま、彼らの喧嘩が続きますように。
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客足はまばら——順調とはいえない客数だ。
ラゥルが店から去った後、急いでユレスとドハドルは開店準備をし、久方ぶりの店の再開の朝から現在、昼を少し過ぎた頃。
もはや店内に、お客はいなかった。
「・・・・・・お客様、来ませんね」
「そうだな・・・・・・」
布でひたすら武器を磨く作業をするユレスに、精算場の机で頬杖をつきながら返すドハドルは「ふぁ・・・・・・」と欠伸を噛み殺しつつ、
「まぁ良いも悪いも噛み締めるのが商売ってもんだ。こういう日もある」
「・・・・・・・・・・」
店長でこの店を長く営業している彼がそう言うのなら、そうなのだろう。
しかし、だ。
ここで店に対して貢献するのが、店員の務めではないだろうか。つまり、自分が活躍するべき場面という事だ。
出来る事は、あるはず。
「ドハドルさん。私、外で呼び込みしてきます」
「ユレス? 急にどうした? 呼び込みなんて別にやらなくてもいいんだぜ。お前は病み上がりみたいなもんなんだし、武器磨きで今日は上がっても、」
「ダメです! それだけで給金を貰うわけにはいきませんっ。では行ってきます!」
「おいユレスっ」
勢いのままドハドルの言葉を遮ったユレスは店の入り口から外出し、周囲を見やる。
店の前を通っている人の数は悪くない数だ。むしろ多い方だろう。途切れる事なく雑多に人がすれ違っているのだから。これならやはり呼び込みをすれば、人が多く来てくれるのではないだろうか。
・・・・・・だが、疑問が一つ。
人は多い方。そう、多いのだ。
なのに、なぜ一人もこちらに来ないのか。
いつもなら結構来るはずなのに。テレブール王国襲撃の件が関係しているのだろうか。
そう思案したユレスは、呼び込みから予定変更し、原因を解明しようと改めて冷静に周囲を観察し始めていく。
「————」
——目の前の通り道で、すれ違う人達が持つ物。
「!!」
——少し行った先の、建物で例えるなら二軒先にある店に集まり、順番に並んでいる人の列。
「くそ! そういう事か・・・・・・!」
これはすぐに報告せねば、とユレスは慌てて自分が働く武器屋へと戻り、バンッ! と入り口である扉を一気に開ける。
頬杖をつきながらうたた寝をしていたドハドルはビクッ、と目を覚ましつつ、
「お、おうユレス。呼び込みどうだった?」
「・・・・・・落ち着いて聞いてくださいドハドルさん。大変な事が今、起こっています」
「不安を煽るような言い方だな・・・・・・よし、言ってみな」
「はい。外に出て気付いたのですが・・・・・・」
ゴクリと、口に溜まる唾を飲み込みつつユレスは震える唇を動かしていく。朝のラゥルといい、今日はとんでもない日だ。
そんなユレスの感情に引っ張られたのか、ドハドルも緊張で唾を飲みつつ、ユレスの言葉を黙って待ち続ける。
そうして——血が滲む程唇を噛みしめたユレスは、恐れを打ち破るが如く、こう言ったのだ。
「少し先に新たな店——まるで私達に対抗するように新しい武器屋が出来ていますッ!!!」
「——なん、だと・・・・・・!!?」
ガタンッ! と座っていた椅子をひっくり返しながら立ち上がったドハドルの表情はもう、欠伸を呑気にしていた退屈そうな顔ではない。
彼は精算場から離れ、ユレスに近づきつつ、
「確かに店の中にいたから気付かなかったな・・・・・・。どれ、ちょっと外に出てみるか」
そう言って、外に出て行くドハドルの背中に続いてユレスも再び外へと出て行く。
人の数はやはり多い。その人の流れをよく見てみると、ほぼ全員が新しく出来た武器屋へと足を運んでいるのが分かる。さらには汚れ一つない輝きに満ちた様々な武器を持っている人が楽しく会話しながらユレスとドハドルの目の前ですれ違って行く。間違いなくあの新しい武器屋で買った武器だろう。
「・・・・・・なるほどな。まぁ人があっちに集まるのは当然と言えるぜ。新しく開店した店に人はなだれ込むもんだ。誰だって新しいモノには目を向けるもんだろ?」
「ええ。ですが悔しいのも事実です・・・・・・。ドハドルさん、ここは敵情視察に行ったほうがいいのでは?」
「そうだな・・・・・・このまま店にいてもほぼやる事ねェしな。よし、今日は一旦店閉めて、俺達も行ってみるか」
「はい!」
そうと決まれば話は早い。
出していた看板の〝営業中〟をひっくり返し、〝営業準備中〟にしてからユレスとドハドルは早速新しく出来た武器屋へと向かって行く。どれ程のものか、この目で直接見てやる。
鼻息荒くドハドルと共にユレスは列に並び——並んでいる人が男しかいない?——しばらく青空の下で待ち続けて。
そうして、
『いらっしゃいませー♡』
店に入った瞬間、容姿が良い女性複数人に迎えられた。さらに容姿がいいだけではなく、全員、肩や太ももを露出している服装を着ている・・・・・・。
目に毒で仕方ない。ここは本当に武器屋なのか?
ちなみにこの店の名前は『うはうは美少女楽園』らしい。ふざけた名前だ。絶対武器を扱う店の名前ではない。
「は、入る店間違えましたかね・・・・・・?」
「いや! よく見ろユレス! 確かにこの嬢ちゃん達に目がいきがちだが! 周りにある物はちゃんと武器だ!! しかも武器だけじゃねェ・・・・・・武器の方が多いからここは基本武器屋で間違いねェだろうがよォ! 盾や鎧、兜! ここは防具屋も兼ねてやがるぜッ!!」
「!!!」
ドハドルの言う通りだ。
大半は剣や槍などの武器が占めているが、一か所に盾や鎧、兜などが飾られているのだ。しかも武器も防具も、見ただけで分かる高級品の輝きがある。
店内も広く、内装も豪華だ。この店はよほど金をかけたに違いないと理解出来る店である。まさに本気で店を出してます、と言外にお客に伝えている店構えだ。
もしうはうは美少女楽園、なんてふざけた名前ではなかったら、もっと感心している事だろう。
そう圧倒されるユレスとドハドルに、四人の女性が近づいてくると、
「今日は何をお探しですか? このお店、今日開店したばかりですからまだまだ色々な武器や防具がありますよぉ」
「いや、俺は、」
「というかすごーい・・・・・・! いい筋肉してますねぇお客様。少し腕に抱き着いてもよろしいですかぁ?」
「は? いややめ、」
「え~い♡ やだホントに素敵! この片腕だけで剣も盾も同時に持てそうだわっ」
「持てたとしても効率が悪すぎだろ。剣はどうやって振ればいいんだよ・・・・・・いやそうじゃなくて、離れ、」
「ちょっとキレちゃんずるーい!! あたしもあたしもっ、こちらの空いている左腕に抱き着きますねぇ?」
「ちょ、あ!」
何が起こっているのか。
近づいて来た四人の内の二人の女性はドハドルに言葉も行動も許さず、無遠慮にドハドルの左腕と右腕にそれぞれ抱き着き、キャッキャッと騒いでいる。
もはやドハドルはたじたじだ。ただジッとする事しか、彼には出来ない。
「ミ、ミレイ・・・・・・! 俺に抗う力を貸してくれェ・・・・・・!! あとこれは浮気とかじゃないから許してくれぇ・・・・・・!!!」
懺悔するように上に向かって呟くドハドルは、限界が近いのかもしれない。
しかしユレスだって他人事ではないのだ。
刺客はすでに、左右にいるのだから——!
「!? いつの間に!!? どうやって一瞬で私の左右に!?」
「お客様がお連れの方とキレちゃんとフーエンちゃんをずっと見ている時にですよー。ね? リフルちゃん」
「はい。その通りですユルフちゃん。お客様、全然こちらにお顔を向けないんですもん。ちょっと嫉妬しちゃいますなー・・・・・・なんて」
そう分かりやすく拗ねながらリフルと呼ばれた少女は、ユレスの左腕に抱きつつ右手の人差し指でぐりぐりとユレスのわき腹を押し始める。もはや馴れ馴れしいを余裕で超えている距離感だ。
「そうですよお客様っ。わうとリフルちゃんだって可愛いでしょう? よく見て下さいよわう達を。ほらほら~♡」
両手を広げ、ユレスの前に全身を見せつけるように立つユルフという少女。彼女の隣にユレスの左腕から離れたリフルが佇み、見比べられるように二人が並び立った。
まずユルフの容姿はというと、髪色は金色で頭の右側に髪を丸く結っており、そこから一房サラリと金色の髪が垂れている。
目じりはハッキリと開かれた目だ。活発さが窺える、間違いなく誰もが認める可愛さだ。
リフルの容姿はユルフと似ている。髪色は同じ金髪であり、リフルの場合は頭の左側に髪を丸く結っており、そこからユルフと同じように一房髪を垂らしている。
目じりはタレ目であり、こちらも間違いなく可愛い部類の顔だろう。
そして服装だが、これはどちらも同じふりふりとした、肩や太ももが露出している服装であり、この店共通の制服だと分かる服装である——が。
この二人だけは個性を主張したいのか、他の店員である女性達と違って装飾を着けているのだ。
それは肘から手まで覆っている長い手袋。ユルフは白一色で、リフルは黒一色という、二人で正反対の色の長い手袋、だ。
髪型といい、間違いなく意識して正反対にしていると見ていいだろう。
「目つきは違うが、結構似ている部分が多いな。失礼だけど君達は・・・・・・」
「ええ、わうとリフルちゃんは姉妹ですよ~。異父姉妹ですけどね。ね? リフルちゃん。ちなみにリフルちゃんが妹ちゃんで~」
「はい。ユルフちゃんはわうのお姉ちゃん様です。ですがお姉ちゃん様って言いづらいし面倒だからユルフちゃんって呼んでますなー」
「んー、そのめんどくさがってる所がホント可愛いですねぇリフルちゃん! ほぉらぎゅー! からの顎撫で頭撫での二点攻め!!」
「わうわうわうわうわうわうわうわう」
「・・・・・・・・・・」
なんか、変な姉妹だな、とユレスはユルフに頭と顎を撫でられるリフル、ユルフの二人を見つめる。もはや仕事を放棄している二人だ。こんな事をしていて店長などに目をつけられないのだろうか。
店長といえば、とドハドルの方を見てみると、
「ドハドルさぁん、これはどんな鉱石で出来ているか分かりますぅ?」
「これは・・・・・・ヌセメリク鉱石で出来た剣だな」
「キャー♡ すごいすごーい! 正解です! さすが武器屋を営んでいるお方ですね♪」
「いやぁ、それほどでもないぜ? ホントによぉ」
「・・・・・・・・・・」
すっかりと、先程の二人と仲良くなっているようだ。しかも自分が武器屋をやっている事まで話したらしい。
左腕と右腕にそれぞれ抱き着かれている今のドハドルは、まさに有頂天な事だろう。
今のドハドルをラゥルが見たらどうなるやら。
「(いつもの仲良く喧嘩には、ならなさそうだな)」
蔑む視線を父に浴びせるラゥルが脳裏に浮かぶ。
そして、その視線を自分にも浴びせる姿も想像して——ユレスはため息をつきつつ、祈る。
祈らざるを得ない。
どうか・・・・・・、
「(ラゥルがこの店に来ませんように・・・・・・!!)」




