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HARUMAREA  作者: 火束 大
第二章 『双璧の姫君』
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第28話 『本性』


 父の口から出た、理解不能な言葉。

 自分が亡国と化しているシュノレース王国の第二王女で、そして。


「クスクス・・・・・・」


 不気味な笑いをしている隣のこの害悪としか呼べない女が、自分の姉。


「(嘘でしょ・・・・・・?)」


 嘘とは思案しつつも、ミーゼの脳裏には勝手に筋道を立てるように繋がりが展開していく。

 まず目立つ髪色だ。自分は青髪なのに、両親はどちらも青髪ではない。昔は少し気になった時期もあったが、所詮は髪色。大して気にする程でもない、といつの間にか気にしなくなったが。

 チラリと、ミーゼはエマーゼの頭、髪色に視線を送る。

 エマーゼの髪色は、青色だ。


「ッ・・・・・・」


 そして、名前。

 ミーゼとエマーゼ。

 似ている・・・・・・。


「(う、ぅう・・・・・・)」


 さらには、シュノレース王国の城に入った時の既視感。

 認めたくない、と必死に抗うも、これまでの全てが・・・・・・父の言葉に説得力を持たせていく。

 ——もし父の言葉が真実なら、父と母は肉親ではないという事。

 なぜ、自分はこの王国にいるのだ。

 一体どこから、狂い始まったのか。


「ミーゼのこの様子を見る限り、やっぱり黙ってたのね。シュノレース王国の事やミーゼの出生を。ま、再会した時に分かっていたけれど」


 硬直し、混乱するミーゼを見ながら言うエマーゼ。レラフールもそんな彼女を口を固く結んで見やる。

 当然の反応だ。しかし予想していたとはいえ、辛いものは辛い。

 辛いが、ここまで来てしまったのだ。話さないワケにはいかない。


「ミーゼには・・・・・・ただ普通に生きて欲しかったのだ。普通に日々を過ごし、王女としての生き方を学びつつ、たまには王女の身分から抜け出して友達と遊ぶ・・・・・・そんな何気ない日常をな」


「その普通の日々が、シュノレース王国では過ごせないと?」


「エマーゼ、お前は知っているのか? 自分の両親が何を見過ごし、何を無かった事にしてきたかを」


「・・・・・・あなたが言っているのは、もしかしてあれかしら」


 頭を軽く左右に振りつつ、エマーゼはこう口にした。

 何がおかしいのだろう、と疑問を持つように。



「兵士達が定期的に民の女性を呼び出して、暴力と性を潤ってた件かしら?」



「は・・・・・・?」


 何回疑問を持てばいいのだ、と見開いた目のミーゼはエマーゼに視線を遠慮なくぶつける。

 レラフールは、ため息を吐き出しつつ「そうか・・・・・・」と呟き、


「お前も知っていて、見過ごしていたのだな」


「両親に教わってたからね。兵士のやる気を上げるに必要な事だって。人を一番酔わせるのは、暴力と性。それに勝る快楽はこの世に無いって、ね」


「私達は知らなかった・・・・・・同盟を結んだお前達がそんな畜生のようなふざけた事をやっていたなどと。だが、あの日、貴様らは国内だけにとどまらず・・・・・・!!」


「・・・・・・あぁ、そっちの国の女性をやってしまった日かしら。偶然だったらしいわよ? そそる美人を兵士の一人が見つけて、その後は・・・・・・ふふ」


 意味ありげに笑うエマーゼ。その態度は愉快一色だ。

 先天的な性格なのか、それとも両親によって歪められたのか。どちらにしても、まともではない。

 直後。

 ガタッ! と音が鳴った後、


「やはり狂ってます・・・・・・! シュノレース夫妻もそうでしたが、あなたも彼らと同じ程に狂ってるッ!!」


 わなわなと怒りに震える声で言ったのは、玉座から一気に立ち上がったメシュクハーマだ。

 黙って聞いていたが、もうこれ以上は耐えられない。


「これはこれは・・・・・・お久しぶりでございますメシュクハーマ様。相変わらずキンキンとやかましくて耳障りなお方ですね。お言葉ですが、()()()()()ですよ? いい加減辞めたらどうです?」


 最初から視界に入ってただろうに、まるで今気づいたかのように振る舞うエマーゼにメシュクハーマの眉が大きく中心に寄る。

 さらに怒りを増したメシュクハーマは彼女を睨みつつ、


「黙りなさいっ。あなた方がそんな輩だから私達はあの日決めたのです! 同盟など破棄も破棄。これ以上の犠牲者は出させてなるものかと!!」


「それで私達の国に攻めてきて、元々いた国民を捕らえて他の国に放逐し、兵士全員を殺して父と母を殺して、あげくには・・・・・・私の妹を・・・・・・」


「その時のミーゼはまだ物心もない幼い子供。無垢な子供だったのです。放置など出来るはずがない。それに、あなたの元にミーゼがいたままと考えると・・・・・・ミーゼも、あなた方のようになってしまっていたでしょう。確実に、きっとっ」


「酷いですね。その時は私も子供だったのですよ? 純真無垢とは思わなかったのですか?」


「自分で言ったでしょう・・・・・・! 兵士の行いを黙って見過ごしていたと! それに目を見てすぐに理解しましたよ。この子はもう・・・・・・取返しがつかないと」


「・・・・・・ぷっ」


 突然、だった。

 右手を口元に当てたエマーゼはこらえきれないとばかりに吹くと、


「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!」


 狂笑。

 両手を自分の腹に当て、くの字に体を曲げた彼女はひたすらに笑い始めた。憚る事無く、ずっと・・・・・・。

 そうして、しばらくの間。


「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・う、げほっ! げほっ! うぅ・・・・・・」


 声が枯れかける程笑ったエマーゼは姿勢を戻すと、


「・・・・・・あの時は、私に力は無かった。だからミーゼを見捨ててしまった。見捨てて、逃げた」


 見捨てられた。普通なら怒り、悲観な感情を抱くかもしれないが、ミーゼの抱いた感情は・・・・・・安堵、だった。

 この女の元にいたら、一体自分はどうなっていたことか。

 ここまでの話を聞いて、ミーゼは確信する。

 狂い始まったのは、生まれてから。シュノレース王国に生を受けたその日からなのだ。

 だが、自分は救われた。

 自分にとっての、〝両親〟によって。


「けれど、今は違う」


 力強く言い放つ彼女は、自分の長い青髪を片手で払うと、


「私は強くなった。あの男に出会い、血のにじむような努力を今日まで続けて、我慢して・・・・・・全ては、復讐の為に。ミーゼの為にと。そして今、ついに念願が叶う時が来た・・・・・・」


「・・・・・・止めろ、とは言わぬ。理由はどうあれ俺達はシュノレース王国を滅ぼしたのだからな。する覚悟も、される覚悟もとうに昔に済ませてある」


「物分かりがいいわね」


「しかし、だからと言って無抵抗を貫くつもりもない。復讐に憑かれたお前を・・・・・・ここで救ってやろう」


「クス・・・・・・言葉を選び間違えてるのではなくて? 殺す、でしょ?」


 ざわざわとした寒気が、ミーゼの背中から広がっていく。

 ゆらりと、両手を自然体にするエマーゼ。

 目を細める、レラフール。

 静まる場。ポツリと、エマーゼは口を開いた。


「ミーゼ・・・・・・ここから離れなさい・・・・・・」


 ゾクリ、と悪寒を感じながらミーゼが一歩、彼女から離れた直後だった。


「アハッ——!」


 ピキッ!! と空気が凍る音が響き、エマーゼの左側に先が鋭い氷柱(つらら)が出現すると同時、その氷柱はすぐさま高速で標的——レラフールへと飛んでいく。

 速い。今までの氷柱の速度ではない。これまでは本気ではなかったのか、とミーゼは慌てて父の方に顔を向けると、


「父様!!!」


 父は腰すら上げていない。避ける動作すらしていない。明らかに反応出来ていない——!?

 そう、思案したミーゼだったが、


「——遅いですね」


 ギィン! と甲高い音が耳朶を打った。


「————」


 驚愕の表情を浮かべるミーゼの視線の先には、


「・・・・・・クスクス。やかましいだけな女は辞めて、()()()()()()()()()()()。今のは勿論挨拶。この程度で殺れるとは露とも思ってないわ。私、あなたの事は大嫌いだけれど、その実力は買ってるどころか憧れてた時期もあったぐらいよ・・・・・・『氷双剣(ひょうそうけん)のメシュクハーマ』様?」


「母様・・・・・・!?」


 いつの間にか両手に氷——青氷水魔法で作ったのだろう——の剣を二振り持ったメシュクハーマが、レラフールの前に立っていた。

 彼女の足元には、真っ二つになっている氷柱が転がっている。


「私達の国を滅ぼした以降、実戦から引いたと思っていたのだけれど・・・・・・全然色褪せてないわね。流石と言ったところかしら?」


「この程度で褒められても嬉しくもありませんね。ではあなた」


「ああ。俺もやりたい所だが、お前の足を引っ張る結果になりそうだ」


「ええ。ですからそこで見ていてくださいな。氷の花を、あの娘に手向けるところを、ね」


「手向けるのは私の方だけどね——!!!!」


 獰猛な笑みを浮かべながら、ダッ! と駆け出すエマーゼに対し、メシュクハーマは一度二振りの氷の剣を交差するように重ねた後、バッ、と一気に下ろす。

 そして、


「行きます——!!」


 砲弾のように、向かってくるエマーゼに肉薄していった——。




     ⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨




 ——かつて、今よりも『怪魔(ダクストル)』が活発だった三十年前、フグマハット歴1189年。シャミノル真月。

 誰も彼もが『怪魔(ダクストル)』に手を焼いている時代に、一人の卓越した女がいた。

 その女はたった一人で何体もの『怪魔(ダクストル)』を葬り、当時の『怪肆魔将(かいしましょう)』の一人であるラクジードという男を討った事から人々に絶賛され、彼女の持つ目立つ武器を讃える名でこう呼ばれ始めた——。

 二振りの氷の刃を舞いのように扱い戦う麗人、『氷双剣のメシュクハーマ』、と。


「——ふッ」


 肉薄するやいなや、メシュクハーマは右の一振りの切っ先で向かって来たエマーゼの顔目掛けて突きを放つ。

 その突きをエマーゼは顔をそらすだけで回避し、開手した右手を構える・・・・・・が。

 ブンッ! と左の一振りが横薙ぎに、エマーゼの首を切断しようと迫って来ている。無論その動きに躊躇はない。この女は、シュノレース王国に攻めに来た時一人で何人もの兵士を殺した女なのだ。人を殺す事に関しては自分と同じく慣れきっている。

 迫り来る横薙ぎをエマーゼは、青氷水魔法で発現する氷で防ごうかと思考しかけるが——脳裏によぎるのは、先程真っ二つにされた氷柱だ。


「(回避に専念した方が良さそうね)」


 仮に氷の盾を発現しても、勢いを止められる事なく真っ二つにされるのがオチだろう。

 氷で作っているはずなのに、並みの剣以上の切れ味がある二振りの氷の剣。

 凄まじい才能に練度だ。青氷水魔法の使い手としてメシュクハーマは、エマーゼよりも相当上で間違いない。

 だが、とエマーゼは薄く微笑みつつ頭を下げて横薙ぎをかわし、


「(それでも、私の方が強い・・・・・・!)」


 侮っているわけではない。認めているからこそ、冷静に分析しているのだ。

 開手したままの右手をバッ、とメシュクハーマの腹の前に突き出し——青氷水魔法を発現。形成すると同時に腹を突き破る算段だ。

 ピキキ!! と一瞬で形成される氷柱。

 そして。


 一瞬で、回転しつつ避けたメシュクハーマ。


「————」


 横薙ぎを避けてから僅かの時も空けていない。故に反応などまず出来ないはずの一瞬を、このメシュクハーマは掴んだという事・・・・・・。

 過去の幾度もの戦闘経験が、思考よりも早く体を動かしたのか。


「ホント、流石ね・・・・・・!」


 回転しながらメシュクハーマは両手を上下にし、二振り同時の横薙ぎで斬ってこようとしてくる。このまま動かなければ、全身が三等分の肉塊が転がる事になるだろう。

 では後ろに下がるか?

 否、あの白髪の男——シェルストなら好んで、というか癖で下がるかもしれないが、ここは——前に出るべきだ。

 そう思考する直後にエマーゼは飛びつくように体を伸ばし、無理やりメシュクハーマの正面に割り込む。

 ガッ、とメシュクハーマの両腕がエマーゼの左腕とぶつかり合い、二振りの剣を振りきる前に勢いが殺されてしまう。

 結果、エマーゼは回避に成功し、メシュクハーマの間合いにも入った。


「私が魔法だけの女と思ってる? だとしたらお生憎様ね。格闘はあの男に叩き込まれて結構得意なのよ——!!」


 グォッ! と空いている右手を拳にし、顎を狙っての突き上げを繰り出していく。だがメシュクハーマは顔を後ろにそらすだけでその突き上げを易々と避ける。

 無論、これは回避される前提で放った攻撃。


「ハッ!」


 突き上げた拳の勢いを殺さずにそのまま——真下へと落とす肘の攻撃。これはどうだ、とエマーゼが凝視する中、能面のままメシュクハーマは大きく後ろに飛んで距離を取る選択をしてきた。


「そうなるわよね・・・・・・!」


 メシュクハーマが飛ぶと同時にエマーゼも前のめりに飛ぶ。お互い空中、ピッタリ重なるようにしているため、メシュクハーマの両腕は上下のまま戻せないままだ。


「これなら避けようがないでしょう!!」


 ガッ! と右手でメシュクハーマの両頬を挟む。あとは青氷水魔法で氷柱を発現し、口から首裏まで貫通させて終了だ。


「死ね————!!」


 興奮しつつ魔力を練り氷柱を発現——、


「————え」


 ——するはずだったのに。


 ピキピキピキピキピキ!! と、右手が一瞬で凍りつき始めたのだ・・・・・・!


「ッ!!?!?」


 このままではまずい——!

 今すぐメシュクハーマから離れなければ、全身が凍り付く。

 バカな、と青ざめつつ寝転がるように横に強引に回転するエマーゼ。凍り付いているのは右手だけ。メシュクハーマの顔は当然凍っていないため、彼女の顔とくっついている所為で離れられないという展開は無くて不幸中の幸いだ。

 そして、


「くっ!」


 ドサッ! と床に倒れ込むエマーゼはすぐさま起き上がり、自分の右手を確認する。

 手首の先から右手が、完全に凍っている。


「・・・・・・まったく割れる気配がない」


 言わずもがな、エマーゼは青氷水魔法の使い手だ。

 故に氷や水に対して耐性が高いはず。特に自分の体が凍り付くなどありえないのだが。


「まさか、これ程とは・・・・・・」


 自分の予想以上に、メシュクハーマは青氷水魔法の使い手として高みにいるようだ。

 納得し、立ち上がると、メシュクハーマはすでに二振りの氷の剣を構えながら立っていた。

 彼女は失笑した後、


「お馬鹿ですね。自分の青氷水魔法に自信を持っているから、私に触れても凍り付かないと思ったのでしょう? 浅はかな。上には上がいると知りなさい」


「・・・・・・クスクス。何度も言うけれど、流石ねメシュクハーマ様。そのお言葉甘んじて受けるわ。でもね、上には上がいるって言葉、それはメシュクハーマ様にも言えてよ?」


「私よりも弱いあなたが、それを言うのですか」


「あなたよりも強い私が、よ」


「どの口で・・・・・・!!」


 床を蹴り、エマーゼとの距離を詰めていくメシュクハーマ。強がりだけは一人前な女だ、と剣が届く距離になった瞬間に、右の一振りで袈裟に斬ろうと振るっていく。

 その一撃を、微笑んだままエマーゼは見つめたままだ。

 そして——、


「————」


 ほぼ能面だったメシュクハーマの表情が、この戦闘で初めて・・・・・・顔色が驚愕へと変わった——。




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