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HARUMAREA  作者: 火束 大
第二章 『双璧の姫君』
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第27話 『暴走』


「ハァッ・・・・・・ハァッ・・・・・・終わっ・・・・・・たぁ」


 ハルマレアと同時に白髪の男を殴った後、目を閉じている白髪の男が動かない事を確認したユレスは荒い息を吐きつつ馬乗りを止め、立ち上がる。

 拳が痛い。たくさん殴ったせいだ。


「あてらの勝利だな。と言っても、あてはほとんど何もしてないが」


 ジンジンとした痛みを感じる中、その声の方に顔を向けると、肩をすくめるハルマレアがこちらを見ていた。


「いや、レアの援護助かったよ。・・・・・・さて、この男を起こし、」


 それは、突然だった。



 ドクンッッ!!!!! と、心臓が痛い程に大きく鳴った。



「————?」


「? ユレス? どうした?」


 力が抜けたように両膝を地面に着けたユレスは、両手で自分の心臓がある所に触れる。触れた事でさらに実感してしまう。

 ——体が熱い。


 熱い!!!


「(まる、で・・・・・・レアから、〝(くらい)〟を受け継いだ時のよう、な・・・・・・!?)」


 直後。


 ドクン! ドクン! ドクン! ドクン! ドクン! ドクン! ドクン! ドクン! ドクン!


 心臓の鼓動が、やかましく脈打ち始めた・・・・・・!


「か、ぁ・・・・・・ぁあぁあ!? ァァァァァァァァアアアアアアアア!!!!!!」


「ユレス!!?」


 ハルマレアに答える余裕なんて無い。まるで自分という器から早く出たがっているように魔力が激しく体中を循環し、暴れているのだ。


「——! ————!!」


 もはやハルマレアの声も聞こえない。

 息苦しさの中、白に染まる脳裏に浮かぶのは——、



              











              


              『こ』



              『ろ』



              『せ』














「——ァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!」


 意識が、混濁する。

 絶叫するユレスを支配しているのはひたすらに熱だ。ドロドロとした熱が体中に溜まっているのだ。

 危機本能。

 出たがっている魔力をこのまま抑え込んでいたら死ぬという確信。

 もう————。


「———————————————」


 ふわり、と白髪の男の両肩に突き刺さっていた二本の漆黒の槍が独りでに浮き、ピタリと空中で止まる。

 そして——。


 リィン。

 リィン。

 リィン。

 リィン。

 リィン。

 リィン。

 リィン。

 リィン。リィン。リィ・・・・・・と、何重にも重なった鐘の音があたりに一斉に響く。


「ユレ、ス・・・・・・」


 ——息を呑むハルマレア。


「・・・・・・・・・・」


 ——うっすらと目を開ける、白髪の男。


「・・・・・・・・・・」


 ——いまだに目覚めないドハドル。


 その三人の頭上にあるのは——計五十四本、ユレスが使わなかった『鐘死天槍(ゾネルアード)』の全てが、空高く現れていた・・・・・・。


「まずい・・・・・・」


 その『鐘死天槍(ゾネルアード)』を見上げながらハルマレアはそっと呟く。まさにテルスタ村の繰り返しだ。邪神魔法が完全に暴走している。

 魔王の魔力が、ユレスを吞み込もうとしている・・・・・・!


「(止め、)」


 思案する暇も無い。

 ヒュッ、と全ての漆黒の槍が、この場にいる命を摘もうと襲いかかってくる——。


「————!!!」


 逃げる、否、それは許されない、とハルマレアは後ろではなく、前、ユレスの元へ駆け出す。

 彼にチカラを与えた責任。その責任がハルマレアを前へと突き動かしていく。

 そうして、漆黒の槍は、


「・・・・・・ろ」


 倒れている白髪の男とドハドルの心臓がある部分に向かい、


「き・・・・・・ぇ・・・・・・」


 後ろからハルマレアの首と心臓を——、



「消えろォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!」



 ビタリ! と、独りでに動いていた全ての漆黒の槍が、完全に止まった。

 白髪の男とドハドルを襲おうとした漆黒の槍の穂先が微かに彼らの体に触れている。もうほんの少し深ければ、命を奪える距離だ。

 そして——出現した全ての漆黒の槍が一瞬で、空気に溶けるように消えていった・・・・・・。


「ぜー・・・・・・ぜー・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」


「ユレス・・・・・・」


 再び絶叫を上げたユレスの前で足を止めるハルマレア。荒い呼吸を繰り返す彼を見て理解する。

 吞み込まれる刹那、その刹那で彼は——自分を取り戻したのだ。

 そっと、ハルマレアは両膝を落とし、


「よく・・・・・・帰ってきた」


「・・・・・・君を・・・・・・傷つける真似は・・・・・・しないと、決めたから・・・・・・」


 ニコリ、となんとか笑顔を形成しながら言う。彼女を不安にさせたくない。

 だが、


「・・・・・・随分と、疲弊しきってんなァ・・・・・・同族くんよ」


 背中から伸びた影が、全てをぶち壊した。


「貴様・・・・・・」


 ハルマレアの声に鋭さが籠もっていく。背中を向けているユレスだが、振り返らずとも分かる。

 後ろにいるのは、気を失っていたはずの——白髪の男だ。


「く・・・・・・そ・・・・・・」


 強い疲労感を感じながらゆっくりと振り返ると、両肩から漆黒の槍が突き刺さっていた部分から血を流している白髪の男が無表情でこちらを見下ろしている。この男にはまだ立つ気力があったのか。

 非常にまずい、とユレスは歯噛みしつつこの状況の打開案を思索していく。もう邪神魔法は使えない。『吸黒魔雲』は使えるが、この男は魔法を使えないから無意味だ。

 もはや立つのも限界。このままではやられる・・・・・・!


「・・・・・・一つ、お前さんに訊きたい事がある」


「・・・・・・?」


 攻撃されると思案し、身構えていたが、白髪の男が振るったのは拳や蹴りではなく、言葉だった。

 そして、白髪の男はこう口を継いだ。


「お前さんの名前、なんて言うんだ? ハルマレアの口から度々出てたが覚える気が無くて記憶に残ってねえんだ。今度はしっかりと覚えるからよ、教えてくれねえか」


「わ、私の名前を・・・・・・知って・・・・・・どうするつもりだ・・・・・・?」


「気に入ったからよ。それとも自分だけ教えるのは不公平ってか? なら俺の名前を教えてやる・・・・・・俺はシェルスト。シェルスト・ラクムールだ。さあ、俺は名乗ったぜ。お前さんは?」


「・・・・・・・・・・」


 今は言葉を交わした方がいい、と判断したユレスは、


「ユレス・バレハラード」


 ——自分の名を、隠す事なくハッキリと名乗った。


「ユレスか。しっかり覚えたぜ・・・・・・また会おうや、ユレス。ハルマレア」


「「!?」」


 それだけ言った白髪の男——シェルストがこちらに背中を向けて去ろうとする事にユレスとハルマレアは戸惑いを覚えつつ、彼の背中に視線を注ぐ。ユレスにとどめを刺す好機なはずなのに。やはり奴も限界という事だろうか。

 まだウストリーア族やイムソウについて詳しく訊いていない。捕らえるべきだが・・・・・・。


「くっ・・・・・・ぅ・・・・・・」


 体が、言う事を聞いてくれない。


「(い、いしき、が・・・・・・)」


 迫って来る地面、否、自分が迫っているのだ。そして勝手に閉じられていく視界。

 もう、限界だ。


「ユレス! おいユレスっ」


 明滅する意識で最後に思案したのは——彼女であった。


「(言い過ぎてしまったな・・・・・・すまない・・・・・・ラゥル)」




     ⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨




「・・・・・・両腕が上手く動かねぇ」


 走り回っている兵士の目をかいくぐり、座り込んでいる者や倒れている者を横切りながら、シェルストは鬱陶しげに呟く。両肩を刺された部分からの血はようやく止まったが、まだ大分痛みがジクジクと響いている。治すのに時間がかかりそうだ。

 意識がある人間達はシェルストに目を向けない。誰も彼もが、自分の事で精一杯だからだろう。


「ふぅ・・・・・・」


 無事侵入した穴まで辿り着き、一息ついたシェルストは振り返り——エマーゼがいるであろう城の方へと視線を飛ばす。彼女は復讐を果たしているのだろうか。


「・・・・・・潮時、だな。それにエマーゼよりも面白い奴らを見つけられたしな。フフ・・・・・・」


 エマーゼとはここでお別れだ。彼女が生きようが死のうがもうどうでもいい。

 結構楽しませてもらったな、と薄く笑みを浮かべながらシェルストは、穴をくぐりテレブール王国から出て行く。

 彼の脳裏を占めているのは、ユレスとハルマレアのみだ。


「フフフ・・・・・・」


 先程戦ったドハドルやエマーゼの存在は、もう彼の中から消えていた。




     ⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨




 信じられない。


「・・・・・・・・・・」


 異常事態が起きている事は知っているはずなのに、なぜ。


「ッ・・・・・・」


 なぜ——。


「(何でまだここにいるの・・・・・・!!?)」


 空虚を写していた目を見開いて、ミーゼは前方にある玉座に腰を下ろしている二人——両親であるこの国の王、レラフール・テレブールと王妃であるメシュクハーマ・テレブールに視線を張り付かせる。

 誰もいないと思案していたのに、よりにもよって両親がいるなどと理外過ぎて思考が追い付かない。


「んー、ここまで来てなんだけれど、正直いるとは思わなかったわ。この玉座の間を破壊してから改めて探そうと決めてたのに。まぁ、探す手間が省けて助かるわね」


 そう呟いたエマーゼは右手で自分の長い髪を払いつつ、前——二人に近づいて行く。慌ててミーゼも彼女の背中を追随し、


「ふむ」


 そうして——、


「——おかえり、ミーゼ」


「心配したのよ、ミーゼ」


「・・・・・・父様(とうさま)母様(かあさま)


 こんな状況なのに、いつものように出迎えてくれた二人にミーゼの口が震える。

 なぜここにいるかなどと、糾弾出来るはずがない。

 俯くミーゼ。そのミーゼを横目で見ているエマーゼはレラフールとメシュクハーマに視線を戻し、


「さて、殺す前に色々と質問をしてみようかしら」


「質問か。いいだろう。俺達もお前に話がある」


「ふぅん・・・・・・それじゃあ、ま・ず・は」


 右手の人差し指を自分に向けたエマーゼは、


「私が誰か、分かる?」


「ああ、勿論だ」


 頷いたレラフールは、顔を上げたミーゼに一度視線を飛ばす。

 真実をミーゼに話す時が来たのだ。

 彼女にとって、過酷な真実を。


「お前は——」


 そして、こう告げたのだった。



「お前は、エマーゼ・シュノレース。シュノレース王国第一王女で・・・・・・()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



「・・・・・・正解♡」


 ミーゼの隣にいるエマーゼは、口が裂けるのではと思案する程口の端を大きく吊り上げている。

 そして、ミーゼは——、


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」




ここまでお読み下さりありがとうございます。

最近短編を出したので、良かったら時間が空いている時にでも一読を。文字数は7000ちょいです。

『夕暮れとこの先のセカイ』

    ↓

https://ncode.syosetu.com/n4305hc/



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