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HARUMAREA  作者: 火束 大
第二章 『双璧の姫君』
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第26話 『十八本』


『——私も、やはり剣ですねっ』


 ドハドルとの会話で、何の武器が好きという話になった事がある。

 その時は彼は剣と答え、自分も剣と答えたが・・・・・・、


「ァァアアアッッ!!!」


 脳裏に湧き上がったのは、この漆黒の槍だった。


「フフッ!」


 白髪の男の右肩を狙って突き出す漆黒の槍。殺すつもりはないため狙うのは首や心臓以外だ。しかしこの突きを白髪の男は、笑いつつ軽やかに横にそれてかわす。

 ユレスの目線が白髪の男を追う。自分の槍捌きで倒せるとは最初から思っていない。自分の持つ槍はあくまで注意を引くのが目的。

 本命は——これだ。

 ゆら・・・・・・と空気から染み出したように、白髪の男の両肩の上の方に漆黒の槍が二本発現した。その二本の穂先は勿論下である。

 そして、漆黒の槍は今発現している三本だけではない。この王国で暴れていた死体達を全部吸収完了をしていると、流れる魔力が伝えてくれる。その数は七十二。

 現在三本発現したため残り六十九本、漆黒の槍が使えるのだ。


「(いけ・・・・・・!)」


 そう念じるのと同時、偶然か、気付いたのか、白髪の男の首がふいに空を向いた。


「ッ」


 さすがに彼も驚いたようだ。浮かべていた笑みが一瞬で消え、すぐさま回避しようと足を浮かし始める。


 直後、その交錯は一瞬だった。


 ズダンッ! ズダンッ! と地面に突き刺さる二本の漆黒の槍。そして顔をしかめる白髪の男。リィンッ! と強い鐘の音があたりに響き渡る。

 結果から言えば回避したと分かるが、顔をしかめていると窺える通り、二本の漆黒の槍の穂先は僅かに白髪の男の両肩を捉えた。二本の赤い筋がユレスの視界に飛び込んで来る。

 無論、これで終わりではない。


「!」


 白髪の男の首が再び上へと動く。いつの間にか、新たな漆黒の槍が空中に浮いていたのだ。

 ヒュッ、と真下、白髪の男を狙って動く漆黒の槍。しかしこの槍は白髪の男のバク転によって完全に避けられる、が。


「————」


 繰り返すように、頭上に一本の漆黒の槍が浮いていた。


「厄介だなッ!」


 ズダンッ! ズダンッ! ズダンッ! ズダンッ! ズダンッ!


 と、白髪の男が連続でバク転で回避すると同時に漆黒の槍が頭上から襲いかかっていく。その数は五本。これで残りは六十三本だ。

 ダッ、と駆け出したユレスの左隣り、右隣りに二本ずつ、合計四本の漆黒の槍が現れた。

 ・・・・・・チラリと、走りながら地面に突き刺さったままの八本の漆黒の槍をユレスは盗み見る。

 いつもなら勝手に動いて、相手を絶命させるまで止まらなかった漆黒の槍がただの武器のように佇んでいる。制御出来ているという事だろうか。

 視線を正面に戻すのと同時に四本の漆黒の槍を放つ。四本は白髪の男を囲むように飛び出ていき迫っていく。これでもらったか、とユレスの脳裏に決着の未来が浮かびかける。


 だが、そのユレスの未来は見事に裏切られた。


 白髪の男は無造作に目の前にある突き刺さったままの漆黒の槍を掴み引っこ抜くと、そのまま駆け出しザクッ、と漆黒の槍を地面に突き刺すと同時に、漆黒の槍の石突部分に片手を添えたまま体を大きく舞い上がらせたのだ。

 迫り来る四本の漆黒の槍の上の位置に着いた白髪の男は、体を捻りつつ四本の内の一本を手に取ると、


「ッ!!?」


 ブンッ! とユレス目掛けて投擲して来た。


「うッ」


 ズダンッ、とユレスのほぼ目の前の地面に突き刺さる漆黒の槍。走っていた足が無理やり止められて硬直してしまう。

 そして音も無く地面に着地した白髪の男が、ユレスの硬直が解ける前に一息に近づいた。


「よぉ、接近戦は得意か?」


 白髪の男がそう言った直後——ドズゥ!! とユレスの腹に衝撃が走った。


「うぶ・・・・・・!?」


 拳だ。白髪の男の左拳がユレスの腹にめり込んでいるのだ。

 顔を痛みと吐き気でしかめつつ、持っている漆黒の槍を振るおうとするが・・・・・・この近距離ではまるで槍が使えない。


「くそッ」


 それでもなんとか使おうと槍を半回転させ、横殴りで白髪の男の側頭部を打とうと試みるが、その攻撃すら白髪の男は読み、一気に体を低く沈ませてかわす。

 瞬間。

 ドズッッ!!! と地面に左手を着けた白髪の男の右足の蹴りが、ユレスの腹に再び痛みと衝撃を与えた。


「~~~~~~~~ッッ!!!」


 地面に背中を打った直後に派手に地面を転がるユレス。腹に二度も強烈な攻撃をもらったからか、立ち上がろうにも立ち上がれない。

 そんな隙を、白髪の男が逃すはずもなかった。


「おぶッッ!!?」


 顔を上げた瞬間に——ゴッ!! と白髪の男の蹴りによって顎が打ち上げられた。

 一瞬、意識が飛んでしまったユレスがうつ伏せから仰向けへと体勢が変わり、夕空を見上げる形になったユレスの顔の真上に白髪の男の右足裏が割り込んで来る。

 ふらつく意識の中、まずいと横に転がろうとした直後、


「おっとぉ」


 ブォ!! と火球が一直線にユレスの視界を駆け抜けていった。

 ハルマレアの援護だ。軽やかにかわした白髪の男だが、ユレスの顔を踏み潰そうとした攻撃は断念せざるを得ない。

 彼女に感謝しつつ意識がハッキリしたユレスは起き上がり——手元から持っていた漆黒の槍が無い事に気付く。顎に蹴りを食らった瞬間に無意識に手放してしまったのか。

 すぐそばの地面に左手を当てていくが、感触が地面の平地しか伝わらない事に疑問を覚え顔を地面に向けると・・・・・・あるはずの漆黒の槍が無い。


 ハッとし、急いで目線を周囲に走らせたユレス。持っていた一本だけではなく、地面に刺さっていたはずの十二本の漆黒の槍も消え失せていたのだ。

 消えた原因、それは間違いなく顎に蹴りをもらった時だ——。

 そう確信しつつ完全に立ち上がり、視線を白髪の男に戻す。彼は襲い掛かる火球をかわしながら向かってくるハルマレアを微笑みながら見ている。


「(消えようが問題ない! あと五十九本使えるんだからな!)」


 だが、単純に漆黒の槍を出して放ったり、振るったりしてもこの男には通じない。

 もっと思索を重ねて戦わねば・・・・・・。


「————!」


 思考し、ダッ、と白髪の男に肉薄していく。そのユレスを白髪の男は視線だけを動かして捉える。


「へぇ、恐れずに来るか・・・・・・」


 目の前のこの男は——強い。

 戦闘技能、身体能力・・・・・・そのどれもが自分よりも圧倒的だ。


 だが、関係ない。


 必ず勝つ。必ず倒す。


 必ず————!!


「ふんッ!」


 ある程度の距離を保ったところでハルマレアが止まり、両手を白髪の男に突き出して赤熱魔法、比較的大きな火球を生み出して直線に飛ばす。

 大きくなったとしても所詮は直線の火球。かわすのは造作も無い。

 後ろに飛んで避けた白髪の男とユレスの間を抜ける火球。一瞬、ユレスの姿が視界から失せる。

 そう、一瞬だ。

 火球が過ぎ去って一瞬後、ユレスの姿が消えていた。


「ッ」


 代わりに、地面に転がっている漆黒の槍。

 バッ、と顔を上に向けると——漆黒の槍の穂先を下にしながら、白髪の男に元に落下してくるユレスがいた。

 そして、また後ろに下がる白髪の男の前にユレスは着地。ザクッ! と穂先が地面に深く突き刺さる。


「派手な再登場じゃねえか?」


 答えず、ユレスは両手を槍から離し、右手に新たな漆黒の槍を生み出す。これで残り五十六本。


「せァッ!!」


 間を置かず体ごと突きを白髪の男の左肩に繰り出す。当然のように半身になってかわす白髪の男。

 ——そろそろ、反撃だ。

 持っている漆黒の槍を投げ捨て、振りかぶりつつ握りしめた右手、右拳を振るっていく。


「ハ。かわすなって方が難しい殴打だな」


 何度目かの後ろに下がる行為。回避するなら後ろに飛ぶのが一番。もはや癖だ。

 ・・・・・・だが。


「ッ?」


 ガッ、と背中に何かが当たり、後ろに下がれない。

 感触的には、細い棒状・・・・・・。


「まさか・・・・・・」


 首だけを振り返り、邪魔した何かを視認する。

 それは——つい先刻、ユレスが突き刺した漆黒の槍の一本だった。


「(こいつ、まさかこういう展開をねら、)」


 首を戻した直後。



「まずは・・・・・・一撃目だッッ!!!」



 ゴガッ!!!!! と、ユレスの右拳が——白髪の男の顔の正面を捉えた。


「づぅッ!?」


 痛みに顔を歪める白髪の男。初めて人を殴った感触と合わせて一瞬ひるむも、


「でやァ!!」


 振り切り——ゴッ!! と次は左拳を白髪の男の右頬に叩き込む。

 止まるワケにも、躊躇するワケにもいかない。

 戦うと決めたのだ。

 必ず倒すと決めたのだ!


「ァァァァァァァァアアアアアアアア!!!!!!!!」


 ゴッ! ドゴッ! ゴッ! ゴッ! ゴッ! ドガッ! ドゴッ!!!


 と、白髪の男の顔にとにかく左右の両拳を連続で叩きこんでいく。

 滅茶苦茶。

 もう見える視界も感情も、全てが滅茶苦茶だ。

 思案するのは一心に、早く終わってくれ、だ。


「ちょ」


「ッ?」


 しかし、


「調子こいてんじゃねえぞクソカス野郎ォ!!!!!!」


 ドゴッ!!! と、為すがままだった白髪の男の右拳がユレスの額を打ち付けた。


「~~~~~ッッッ!!?!?」


 首が勢いよく後ろに曲がり、後方にたたらを踏むユレス。まさに屈強な精神。殴られながらも、否、殴られ続けられたからこそ、この男の反骨心が燃え盛ったのだ。

 離れたユレスとの距離を詰め、ブンッ、と右の蹴り足を上げる白髪の男。狙うはユレスの左わき腹、その後は同じようにしこたま殴ってやる。

 ——殴って、やるはずだった。



「あてがいるのを忘れるなこのうつけ者がァ!!!」



 ボグゥッッッ!!!!!! と、いつの間にか後ろに来ていたハルマレアの左足が、白髪の男の股間を躊躇なく蹴り上げた。


「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!?!?!!?」


 声にならない悲鳴を出しながらうずくまる白髪の男。こればかりは耐えられない。どうやったって痛みに耐える以外何も出来ない。


「!!!」


 頭をブンブンと左右に振り、ブれる視界を戻したユレスは左手に漆黒の槍を発現させる。


「(これで終わりにする——!!)」


 駆け出しつつ掴んだ漆黒の槍を反転させ、石突の部分を白髪の男に向ける。奴はまだうずくまったままだ。


「おおァ!!」


 近づいた瞬間に白髪の男の胸板に思い切り石突で突く。避け切れるはずもなく、白髪の男は簡単に仰向けに倒れ伏した。

 そして。

 ズンッ! とユレスはさらに漆黒の槍を反転させ、穂先を白髪の男の右肩に突き刺し、地面に縫い付けて固定した。


「ぐッ!!?」


「(まだだ——!!)」


 さらにユレスは右手を上げ、その手中に新たな漆黒の槍を発現させ——ズンッ!! と今度は左肩に突き刺し、地面に縫い付ける。


「これで・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・もう・・・・・・動けないだろう・・・・・・」


「てめェ・・・・・・やってくれんじゃねえか・・・・・・」


 そこから馬乗りになり、完全に両手両足を使えなくしたユレスはゆっくりと右拳を上げていく。

 そんな時だった。


「ユレスよ。殴るならあてにもやらせろ。こいつには随分とむかっ腹が立っておるのでな」


 白髪の男の頭の先に来たハルマレアが、そう言って小さな左手を拳にしていく。

 その彼女の姿にポカンとしつつユレスは、フッと軽く笑い、


「じゃあ、一緒に」


「うむ。一緒にだ」


 そして、


「いいぜ・・・・・・認めてやるよ。()()は、お前さんらの勝ちだ・・・・・・」



「「ッ!!!」」



 ゴッッッ!!!!! とハルマレアの左拳が白髪の男の顔の上半分を、ユレスの右拳が下半分を殴り当てた——。




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