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HARUMAREA  作者: 火束 大
第二章 『双璧の姫君』
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第15話 『目指すは亡国』


「あちらの剣とこの剣・・・・・・見た目が同じに見えるが、値段はこいつの方が高いな? 何が違うんだ?」


「えっと・・・・・・耐久性の違いですね。使い方次第で変わるかもしれませんが」


「なるほど・・・・・・」


 翌日、二日目の仕事。

 ユレスはと言うと、戦士風の男に商品の説明を求められていた。

 まだ分からない部分は多々あるが、訊かれた事はドハドルに教えてもらった事だったから幸運だ。淀みなく答えられた。

 現に戦士風の男は、満足したように持っていた剣をそのまま精算場、ドハドルの元まで持っていった。


「ふぅ・・・・・・」


 武器の説明を初めてやってみたが、案外出来るモノだ。無論下手な事を言ってしまったらどうしよう、という不安はつきまとっているが。

 そうして、戦士風の男が買った剣と共に店を出て間もなく、


「おうユレス。すげぇじゃねえか。しっかりとお客を満足させてよ」


「いえ、ドハドルさんの教えのおかげですよ」


「ふっ。この分なら、閉店まで働いてもらうのもそう遠くねぇな。勿論金も上乗せでな」


「ありがとうございますっ。もっと頑張ります!」


『——誰も滅んだ理由を教えてくれない。うちのお父さんも例外じゃない』


「・・・・・・・・・・・」


「ユレス? どした? 俺の顔を見つめてよ」


「い、いえ・・・・・・」


 ふと想起したのは、昨日のラゥルの言葉。

 シュノレース王国がなぜ滅んだのか、やはりドハドルは知っているのだろうか。

 今はお客はいない。雑談も問題ないだろう。いっそ直に訊いてみるのもアリだ。

 しかし——何か、禁忌なモノに触れるようで非常に訊きづらいのだ。

 結局、尋ねるのを諦めた直後だった。

 ギィ、と正面の出入り口の扉が開いた。新しいお客が来たようだ。


「いらっしゃ、」


 慣れてきた営業用の笑顔で挨拶をしかけたが、


「お! おったおった。勤労精神を輝かせているなぁ、ユレス」


 まさかの小柄で長いポニーテールの女性——ハルマレアの登場で言葉が詰まってしまった。

 来るとは思わなかった——とはさすがに思わない。昨日、彼女に自分が働いているこの武器屋を教えたのだ。様子を見に来るぐらいはするだろう。

 しかし、教えた次の日に来るとは予想外だ。二、三日空けてから来るのだろうなと思案していたが。彼女の行動力を侮っていたようだ。


「さすが武器屋。色々面白い武器がたくさんあるな」


「・・・・・・ああ。そうだな」


「む? なんだその覇気の無さは。もしや、あてはここに来ない方が良かったか?」


「いや、そんな事はないさ。ただ驚いてね」


「それなら来た甲斐があるというものだな。だっはっは!」


「なんだユレス? その子は知り合いか?」


 ハルマレアと会話をしていると、いつの間に精算場から離れたのか、ドハドルがユレスの後ろに立っていた。

 ここでハッとしてユレスは肝を冷やす。今自分は労働中なのだ。いくら相手がハルマレアでも呑気に会話をしていいはずがない。

 だが、ドハドルの顔に怒りの色はない。彼はユレスの隣に並び立つと、


「妹さんか?」


「え、あ・・・・・・ええ、まあ。妹みたいな存在ですね」


 特に注意される事もなく、普通に問いを投げられた。その問いに答えつつホッとする。だからと言って会話に夢中になっていいワケではない。

 コホン、とユレスは改めるように咳払いし、


「レア、私の様子を見に来ただけならもう十分だろう。話したい事があるなら帰ってから聞くから・・・・・・」


「つれないなぁユレス。ま、これ以上なれの仕事を邪魔するのはあても心苦しいから、そろそろ退散するとしよう。だがその前に」


「?」


「そろそろ昼だろう? もう少しで仕事が終わるのではないか?」


「ああ。そうだが」


「では外で待つとしよう。どうせ帰るなら一緒がいいだろう?」


「・・・・・・・・・・・」


 ——困った事になった。


 確かに彼女の言う通りだ。自分はそろそろ仕事上がり。別々に帰る必要もない・・・・・・普段なら。

 今日に限って、仕事が終わった後はラゥルとミーゼと共にシュノレース王国に行くという約束があるのだ。つまり彼女と一緒に帰れない。

 どうするか、そう思索を始めようとした直後、


「なにも外で待つ必要はねえんじゃねえか? 俺の家で良ければ入って待つといい」


 思わぬ方から選択肢が飛んで来た。

 その彼にユレスは口を開こうとするが、ハルマレアの方が早かった。


「良いのか? あてとなれは初対面。知らない者を家に上げて」


「じゃあ今から知り合うか。俺はこの武器屋の店主のドハドルだ。お嬢ちゃんの名前は?」


「ハルマレアだが」


「ハルマレアな。よし、これでハルマレアと俺はもう知らない仲じゃないぜ。これなら家に上げても問題ないだろ?」


「・・・・・・フッ。フフ・・・・・・なるほど。ユレスよ、なれの上司は随分と面白い御仁だな?」


「面白いというか、優しいんだよ、ドハドルさんは」


 そう彼女に言いながら苦笑するユレス。強面の彼が見た目とは反対の性格だって事を彼女も理解しただろう。

 そして、ハルマレアは微笑みながらこう言った。


「では、お言葉に甘えるとしようか。お邪魔させていただく」


「おう、今はお客もいないからこっちから入っても問題ねぇ。ついてきてくれ」


 精算場、その後ろのドハドルの自宅に繋がっている扉に向かってドハドルとハルマレアが歩いて行く。

 さて、とユレスは腕を組み、


「ホントどうしよう・・・・・・」


 まったく解決していない問題——ハルマレアをどうするかについて思索を始めたのだった。




     ⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨




「ユレスー、もう上がっていいぞー」


「は、はい。お先失礼します・・・・・・」


 思索の結果は、何も思いつかなかった。

 どうするかまとまらないまま、ユレスはドハドルに頭を下げて彼の自宅へと入っていく。

 ——ここまで来たら正直に言うしかない。そう腹を決めて見やる強面の彼の自宅内、その前方。当然のように小柄な彼女は椅子に座ってくつろいでいた。そして扉の閉開音で気付いたのだろう。ユレスに背を向ける形で座っていた彼女はこちらに振り向き、


「おー、終わったかユレス。ではどこかで飯を食ってから、」


 ギィ、という再びの扉の閉開音が、彼女の言葉を遮った。

 その音はユレスの後ろ、店に繋がる方の扉から鳴ったものではない。もう一つの扉、裏口の方から鳴ったものだ。

 誰が入って来たか予想するまでもない。今が約束の時——彼女達が来る時刻なのだから。


「ユレスはいるかな——あ! 良かった。ちょうど終わった感じみたいだね」


「お邪魔しまぁす・・・・・・」


 入って来たのは無論、ラゥルとミーゼだ。ユレスを見つけて笑顔になるラゥル。しかしその視界はもう一人、ハルマレアも捉え、


「あれ、知らない子だな・・・・・・」


「子供・・・・・・?」


「随分可愛い少女達が来たな。ユレス、なれの知り合いか?」


 ——言おう、今すぐに。


 まずは紹介から始めた方がいいか、とユレスは、


「レア・・・・・・あの橙色の髪の人がドハドルさんの娘のラゥルで、青い髪の人がミーゼさんという方だ」


「ほう、あの御仁の娘か。確かにどことなく似ているな」


「え~何この子、めっちゃ可愛いんだけどっ。まさかユレス、キミの娘さん? なーんて」


 冗談交じりにそう呟きながらラゥルは白髪の彼に近づき、遠慮なく彼の左肩に左肘を乗せてくる。まるで昔から親しい関係のようだ。


 そんな二人を見るハルマレアの黄色い瞳が、大きく見開かれていた。


「この子はハルマレア。私にとっては・・・・・・妹みたいな存在だな」


「何妹みたいなって。幼馴染的な?」


「まぁ、そのようなものだな」


「ふ~ん、あ、ハルマレアちゃん。さっきユレスが紹介してくれたラゥル・キャミニシーだよ。ユレスとは恋人の関係でーす♪」


「「「!!?」」」


「って、なぜユレスも驚いているのだっ」


「い、いや・・・・・・」


 なぜそんな爆弾発言を言ったのか、ワケも分からずうろたえるユレス。いつ自分と彼女は恋人になったのだ。そんな関係に至った記憶は当然サッパリだ。

 そうして、噛みついてきそうなハルマレア、なんとか状況を改善しようとするユレス、ただ呆然とするミーゼを眺めているラゥルは、「あはっ」と吹きだして口を開いた。


「違う違う、ごめんね勘違いさせて。ハルマレアちゃんとの距離を詰めたくて冗談を言ったの。ちょっと悪質だったかな?」


「・・・・・・少なくとも、驚きはしたな」


 眉をひそめる彼女の視線はラゥルの顔ではなく、いまだに白髪の彼の左肩に乗せている彼女の左肘だ。ラゥルの冗談はあまり小柄な彼女にはよろしくなかったと見える。

 そんなハルマレアの剣呑さを感じ取ったのか、ラゥルは参ったように両手を上げ、


「で? なんでハルマレアちゃんはここにいるのかな?」


「ユレスの様子見且つ一緒に帰るためだ」


「一緒に帰る・・・・・・? ユレス、今日の事言ってないの?」


「・・・・・・ああ。まさかレアが今日店に来るとは思わなかったんでな」


「なんだ? 何を言っているんだなれら?」


 ユレスとラゥルの会話に置いてけぼりの小柄な彼女の眉が、さらにひそめられる。機嫌が完全に悪くなる前に話さなくては。


「実はこの後、この二人とでシュノレース王国って所に行くんだよ。黙ってて悪かった・・・・・・」


「シュノレース王国とは確か、このテレブール王国の同盟国だった国だな。危険な所だと聞いたが?」


「だからこそ燃えるってものでしょ! あたしはね、解き明かしたいんだよ。シュノレース王国の謎を・・・・・・!!」


 むんっ、と片腕を上げながらそう言ったラゥルに、ハルマレアは「ほお」と感心したように呟き、


「なるほど。それは面白そうだな・・・・・・あてもついていっていいか?」


 興味がそそられたのか、そう同行を申し出た。

 その小柄な彼女の言に僅かに驚いたラゥルは少しばかり間を置いて、ユレスの方に顔を向けて口を開いた。


「あたしはいいけど、ユレスはいいの? 危険なのは本当だろうし」


「・・・・・・・・・・」


 ハルマレアが小さな少女だと心配して、彼女はそう言ったのだろう。

 しかし実際は、ハルマレアはこの中で一番年上の女性だ。それに多少の危険は難なく乗り越えられる実力もある。

 ここで彼女の同行を拒否しても、いい事はない。むしろついてきてもらった方がいいかもしれない。

 答えは、決まりきっていた。


「・・・・・・問題ないだろう。レアも魔法が使えるんだ。それにいざって時は私が体を張って守る」


「そうだよね・・・・・・魔法があるんだもんね・・・・・・」


 気のせいか、否、気のせいではない。ユレスを見つめるラゥルの視線が明らかに鋭くなった。間違いなく『魔判紙』の件が理由だ。


 彼女はまだ疑っているのだ。ユレスが魔法を使えない事を。


 気になって仕方ないのだろう。ユレスが『魔判紙』で出した結果を。


 その彼女の視線に気付かない振りをしつつ、ユレスは心中で大きなため息を吐き出す。

 やはり、『魔判紙』を無視しとけばよかった。

 今回ユレスを連れて行くのも男手というだけではなく、試している可能性もある。一体どんな魔法を使うのだろうか、と。

 だが彼女の要望に応えるワケにはいかない。今自分が使える魔法は黒い雲——『吸黒魔雲』を出すではなく、おぞましい邪神魔法なのだ。

 下手打てば、ラゥルやミーゼ、ハルマレアすら殺してしまう。


「(気を付けないとな・・・・・・)」


 そう自分を戒めた直後、ラゥルは鷹揚に頷き、


「よし! ではここに、我が探検隊に新たな仲間——ハルマレアちゃんを加えるっ。拍手!」


「パチパチパチパチ・・・・・・」


「うむ。苦しゅうない。パチパチパチパチ・・・・・・」


 ミーゼが拍手し、なぜかハルマレア自身も拍手する中、ラゥルは両手を腰に当て、こう言った。


「じゃあ行こう・・・・・・シュノレース王国に!!」




     ⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨⇨




「——まさか、抜け穴があるとは思わなかったな」


「でしょ? これ知ってるのあたしらだけだと思うよ。あ、この抜け穴の事は秘密だかんね」


 人一人分通れる程の穴をくぐり抜け、姿勢を正すユレスにラゥルがそう釘を刺してくる。

 後ろを振り向き、自分が通った穴を見やるユレス。

 なぜこんな穴を通る事になったのか、それはテレブール王国の入り口、門番の任に着いている衛兵達に見られるのはまずいというラゥルの言があったからだ。


 なぜまずいのか無論訊いたのだが、彼女はただ嫌だからとしか答えなかった。

 何か隠しているような気はするが見当もつかない。気になったのは、ミーゼのラゥルに対しての穏やかな視線だが。

 そんな経緯を経てラゥルが案内したのは、テレブール王国城下町の方でもはずれの方、人気が無い所であり、隠されている抜け穴——今ユレスが通った穴というワケだ。

 ちなみにこの抜け穴は、ラゥルとミーゼが散策して見つけたものらしい。


「さて、全員外に出た事だし行こうか。ここからシュノレース王国まではそう遠くないよ」


 そう言ったラゥルを先頭にミーゼ、ハルマレアが続いて行く。最後尾はユレスだ。

 仕事の疲労感を全身に感じつつ、ユレスは祈るようにこう呟いた。


「平和なまま終わるといいんだが・・・・・・」




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