奇天烈な話
襲撃犯達がかけた火は収まることなく燃え広がり、森全体が業火に包まれつつあった。
そんな中、何とか森を抜けたウォーカー達は村の墓地がある高台へとたどり着いていた。
まだ寝ている女の子を砲手席に座らせたキリクは、砲塔のハッチから身を乗り出した。
ウォーカーはというと砲身に跨って足をぶらぶらと揺らしている。
「ウォーカー、これからどうする?」
ハッチに腰かけたキリクはそう言って天を仰いだ。
「……そうだねぇ……」
器用に砲身でクルクルと回るウォーカー。
キリクに背を向け、燃え盛る森の方を向いているウォーカーがどんな表情をしているかは分からなかった。
「とりあえず、大人に保護を求めるしかないな。俺たちだけじゃどうしようもない」
キリクとしては村で馬の扱い方を学んでいたお蔭で御者や馬小屋の番人等で食っていくこともできた。
ウォーカーに関しても、今年で10歳になったから働きに出ることは可能だ。家事手伝いや奉公人としての道もある。
ただ、問題は他の村で見つけた今は眠っている女の子だった。
流石にそのまま町において行くわけにもいかない。
知り合いや親族が居ればいいのだがその可能性はほぼないだろうというのがキリクの考えだった。
「……としたら、孤児院に行くしかないかな?」
「……そうだな」
既に二人とも、同じ境遇に立たされた生き残りであるこの娘が家族の様な物に感じていたのであった。
「まあ、取りあえずは町の憲兵の詰め所にでも行くしかないね」
「そうするか」
先程から淡々と事態を把握し、次取るべきことを考えているウォーカー。
そんな彼を見て、本当に自分の弟なのだろうかと?怪しい気持ちがキリクの中をさっとよぎった。
だって10歳だぞ?10歳の子供なら親を目の前で亡くしたら泣き叫んで、感情を表に出しても何らおかしくない。15歳の自分でさえ平静を保っていられるかギリギリのラインだというのに!
一体、何者なのかとキリクが口を開く前に背を向けたままウォーカーが話し始めた。
「ねえ、キリクお兄ちゃん」
「ん、どうした?」
「前世ってあると思う?」
余りにも場違いで唐突な質問に虚を突かれるキリク。
「え? 前世?」
「うん」
たとえぶっ飛んだ質問でもそれが弟からの質問なら真剣に考えるのが兄の務めだ。
そのように信条にしてきたキリクは真剣に考えていた。
「――分からんな。あるかもしれないし、無いかもしれない。現に俺は無いからな」
「そうかー」
「おう」
しばらく続く沈黙。
相変わらず砲塔の中では女の子がすやすやと眠っていた。
「実はさ、ぼくにはあるんだよね。それも相当しっかりと」
「そうなのか?」
「そうそう、ぼくが生きていたのは別の世界でさ、お兄ちゃんよりももう少し年上だったんだよ?」
奇天烈な話を展開するウォーカー。
キリクは話の虚実はともあれ最後まで聞こうと耳を傾けた。
「で、ある時死んでしまったんだ。そして、さっき魔法が使えるようになった時、記憶が蘇って来たんだ」
「……なるほどね。そう云う事だったのか」
沈黙の後、ぽつりとキリクからつぶやかれる言葉。
「信じてくれる?」
「そりゃもちろんさ。弟の言葉を信じない兄が何処にいる」
「ありがとう、キリクお兄ちゃん」
相手に安心感を持たせる様な自信を持ったキリクの声色。
実際の所、ウォーカーの精神が余りのショックで変調をきたしたという考えと、先程来の魔法を使えるようになっている事から本当だろうという考えの二つが半々の割合で頭を占めていた。
しかし、あえてそのような事をウォーカーに告げる必要性をキリクは感じていなかった。
それにありがとうと言って、恥ずかしそうにはにかむ笑顔は確かにウォーカーそのものだった。
「ってことは、その話し方とかもその記憶が、ってことか?」
「そうだね。どっちが良い? キリクお兄ちゃんって呼ばれるのと兄貴って呼ばれるのと」
ニヤリと笑うウォーカー。
確かに記憶は引き継がれたらしいが、どうやらそれだけでもなさそうだとキリクは感じていた。
あのボーっとしていた性格は実は本当の姿を隠していたからなのではないかとも。
「そうだな……兄貴がいいや。今の状態でお兄ちゃんって呼ばれても違和感が大きすぎるし」
「わかった。じゃそうするよ兄貴」
キリクとしては5つ下の弟がお兄ちゃんお兄ちゃんとくっついてくるのが可愛くて仕方がなかったが、どう考えても今のウォーカーはそうはならないと涙をのんでそう決断した。
「じゃ、行くか」
「うん」
そうして未だ砲手席ですやすやと眠る女の子を引き上げたキリク。
女の子を背負い直し、ウォーカーと共に町へと徒歩で向かって行く。
「そういや、今日は流星祭だったな」
「そうだったね」
キリクの言葉に空を見上げるウォーカー。
左右で異なるその瞳は数多の流星を写し込んでいた。
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