↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/40

県本部にて

――――――


オルナント県、ジオスタ。

県行政の中心であり、古くからの交通の要衝でもあるこの町は平野部に有る少し低い窪地に位置している。


そして今、この町では三日前の夜に行われた流星祭の時間帯に発生した国境近くの森林火災とそれ以上に領主の屋敷が何者かによって爆破された事件の噂で持ち切りになっていた。


曰く、昔から恨まれていた奴によって殺された。

曰く、流星祭を祝った時の失火だ。

曰く、流星が落っこちてきた。


等々、様々な噂が広がっていた。

それらは根も葉もないモノから意外に真実に近づいているモノまで千種万別だったが。

人々の耳目を集めるような今回の事件はあっという間に町を超えて話題となっていた。


そしてその町の中心近くに建てられている憲兵県本部では領主以下屋敷にいた者全員が殺された大事件として上から下まで大騒ぎになっていた。


既に県の枠組みを超えて、シンニツ省単位で話が広がっており、県本部には上の方から一刻も早く事件を解決し犯人を捕縛するように、と強い訓令が出されていた。


何としても省の方から人員を派遣されては敵わんというプライドやその他もろもろの駆け引きの下。

県本部の威信をかけた最高レベルの捜査本部が設置され、オルナント県での過去最大規模の事件に取り組んでいた。


そして、その大騒ぎになっている建物の中でも静かなある個室で二人は向き合っていた。

一人はその憲兵本部付けのピンを左胸に光らせており、もう一人はまだ10歳ぐらいの子供だった。


「――と言う事は、君は何も見なかったんだね?」

「はい」

「詰め所に来るまでずっと墓地に居たと?」

「はい、そうです」


ジッと目の前の子供を見つめる、とび色の眼。

その持ち主のカールス・バンダッテは夕暮れが部屋に明かりを投げかける中、目の前の眼帯をした少年から調書を取っていた。


「そうか……ありがとう。 これで終わりだ」


目の前の少年に礼を言うカールスはパタリと調書を閉じ込み、少年を外へと促した。


失礼しましたとぺこりと頭を下げ部屋を出て行く少年。

カールスはメガネを外し、ふうとため息をついた。


「一体何が起こっていたというんだ?」


そう呟く彼の担当は今回の領主館襲撃事件では無く、国境付近での森林火災。

正確に言うと森林で発生した人間種の村々が何者かによって襲われた事件の担当だった。


彼自身は優秀な人材ではあったが、県本部内のバランスゲームによってその能力を存分に生かせる立場にはついておらず、二軍扱いとされていた。


そして今回の領主館襲撃事件とほぼ同日に発生したこともあり、県本部としては人員をこちらの事件にまで割く余裕がなく、いわば脱落組と化しているカールス・バンダッテが所属する課に回されていた。


また、人間種の村々が襲われ村民が惨殺されようともエルフ種にとってはそこまで重要度が高い問題ではなかったとも言えるだろう。


そして彼は今しがた、部屋を出て行った少年が建物を出て行くのを3階の窓から見下ろしていた。


「ほらよ、もってきてやったぞ」

「おお、すまん」


キイと空いたドアからふわりとコーヒーの香りが流れて来る。

振り返ると同僚がカップを両手に持って部屋に入ってきていた。


1休憩する二人。

長い溜息が二人の口から出て来ていた。


「どうだ? 何かわかったか?」

「いや、何にも」

「そうかぁ……」


ズズズとコーヒーをすする二人。眼下では先程の少年が憲兵本部の宿舎に入っていくのが丁度見えていた。


「何か知って居ると思うんだけどなあ」

「そうだろうな」


同僚の言葉に同意するカールス。

緊張した表情でこちらをじっと見つめるあのオッドアイは確かに何かを知って居る。


そう確信している二人だったが、中々その少年が口を開かないことには事件は解決には進まないのだった。


それに今回の事件の生き残りとして他に後二人、少年の兄と少女がいるが何一つ解決へと結びつく証言をえることができないでいた。


「まあ、とは言っても無理して口を割らせるわけにもいかんしなぁ、いくら人間種とは言っても」

「そうだな」


その言葉に頷く同僚は邪魔したなと部屋から再び退散していった。


正直な所、カールスは例え劣等種と蔑まれる人間種とはいえ、少年に同情していた。

自分の目の前で親兄弟を殺されたというのはまだ10歳の子供にとって余りにも重すぎるとカールスは心をかなり痛めていた。


そして、目の前の少年がそり乱すことなく丁寧な口調で話していてもそれが精一杯平静を装っている態度であるというのが余りにも分かってしまい、いたたまれない気分にもなっていた。


その上、オッドアイという更に差別を受けて来たであろう目の前の少年にきつい態度を取ろうなんて感情など終ぞ持ち合わせていなかった。


それは何もカールスだけではなくこの課に共通する感情だった。

人間種は劣等種であるという事実が割り切れずにいると云う事がこの課にいる理由なのかもしれなかったが。


だが突然親兄弟を失い、頼る当てもないまだ幼い三人が庁舎で一時的に保護されているのもまた彼らの手回しのおかげでもあった。





評価、ご感想お待ちしています!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。