決意の時
****
確かにあの時、12時を告げる時計の鐘が鳴ったのが聞こえていた。
そしてその瞬間、まるで満水のダムが突然決壊したかのように頭の中に膨大な情報が一気に駆け巡っていた。
それは確実に崩壊し、廃人になりかけていたウォーカーの精神を叩き直し、瓦解を食い止めたのは間違いなかった。
そして同時に10年前の自分の決定をウォーカーは強く後悔していた。
せめて、10歳では無く、9歳にしていたら!
こんな事態は防げていたはずだったのに!
そのほとばしる激情はウォーカーの中で正しく変換されていた。
胸を突き刺され、テーブルに倒れ伏していたウォーカー。
あの時、頭の中の膨大な情報の奔流を急速に整理しつつ、ある言葉を思い出していた。
――どうか、人類を救っていただきたいのです。
頼まれた時は自分が死にたくないからと、軽い気持ちで考えていたウォーカー。
だが今、彼の瞳には大切だった二人のあの変わり果てた姿が映っていた。
そしてその瞬間、この人生を人類解放の為に捧げると誓っていた。
魔法を使えない劣等種?
冗談じゃない。
そんな物差しで差別されてたまるか。
魔法至上主義なんて糞くらえだ。
憎悪の炎はエルフ種にでだけではなく目の前に広がる現状に対して向けられた。
――でも、どうやって人類を救う?まさか人間種以外を全て滅ぼすなんて到底できない。
この力をもってしても一人では何もできない。
一番いいのは制度を創ることだ。
昔、黒人が差別を受けていたときのように。
だが、その為には権力を手に入れる必要がある。
――どうやって?
そうだ、軍人に成ろう。
この力を使って戦果を挙げ、どんどん地位を上げていくのだ。
幸いこの国は帝国で現代日本とは違う。君主制が続いている社会だ。
いずれ、権力を掌握し制度を変えよう。人間の自治区を創ってもいい。
《それまでは、たとえ土にまみれ泥をすすってでも耐え抜いてやる》
それは固く、固く、ウォーカーの胸に刻まれた決意となった。
なら、まずは自分が魔法人形だと云う事を知ったこいつらを消す必要がある。
どうやら、魔法人形が生物そっくりと言うのは本当らしい。
痛みはほとんどないが胸から溢れる液体は血みたいな色をしているし、崩れ落ち方も何ら不自然さを感じさせない。
第一、自分の瞳をじっと見ているこの二人が完全に安心しきっている所が何よりの証拠だ。
ギョロリと視線を移すウォーカー。
二人はがまだ生きていることに気が付いたのか、憲兵が頭に素早くナイフを突き刺してきた。
ズンと軽く響く程の衝撃を感じる。
だからと言って死ぬわけでない。
この魔法人形と言うのは体内の魔核が壊れない限り決して動きを止めることは無いのだ。
両手をつき、テーブルから体を起こすウォーカー。
ナイフは側頭部に刺さったままだ。
ゆっくりと立ち上がり、ことさら見せつけるように抜き取る。
どうやら胸の穴も塞がりつつあるようだ。
唖然とした表情のヴェルカンや、憲兵。そして家族や使用人ども。
それに、どうやら応援を要請された他の憲兵たちも駆けつけてきたようだ。
さ、一人残らず殺すか。
情報を漏らさせるわけにはイケないからね。
「そんな程度じゃ、自分は殺せませんよ?」
ウォーカーは薄く笑った。
評価、ご感想お待ちしています!




