第4話:雲海の狂科学者(後編)
スコーピオンがニヤリと笑い、注射器のピストンを一気に押し込む。
「スコーピオンっ!?」
ドミニクが悲鳴を上げた瞬間、彼の首筋の血管が青黒く浮き上がり、全身の細胞が暴走するかのような激痛がスコーピオンを襲った。全身の皮膚が引きつり、左腰のナノメタル・テールが激しい火花を散らして異常発光を始める。
「ガハハハハ!バカめ!人間の脳が耐えられる毒ではないと言ったろうが!」
ガロが高笑いし、ドミニクが絶望に顔を歪めた――そのとき。
「ふぅ……」
スコーピオンは口から静かに青い煙を吐き出し、何事もなかったかのように首をゴリッと鳴らした。浮き上がっていた血管が急速に元に戻り、テールの発光が静かで密度の高い青紫色の光へと落ち着いていく。
「……な、なにぃ!? 脳が溶けていないだと!?」
ガロの義眼が外れんばかりに飛び出す。スコーピオンは空になった注射器を指先でクルクルと回すと、ガロの膝元へ放り投げた。
「言ったろ、ジジイ。俺は毒には慣れすぎてるんだ。……これで『変異精神波』のトリガーは引けたわけだ」
そして、スコーピオンは呆然と立ち尽くすドミニクの腰にするりと手を回し、その耳元に甘く低い声を吹き込んだ。
「でお嬢さん……約束通り、耐えきったぜ? 今夜のスケジュール、空けておいてくれるかい?」
ドミニクは一瞬だけ赤くなり、すぐにフッと呆れたような、けれど愛おしそうな溜息をついた。
「……バカね。命を捨てるようなマネをしておいて。……ええ、いいわよ。ただし、アシュラを倒して生きて帰れたら、の話だけどね」
「交渉成立だ」
スコーピオンがニヤリと笑ったその時、ラボの通信コンソールがけたたましい警報音を鳴らした。画面に映し出されたのは、雲海を割りながら迫り来る、あの漆黒の安宅船――三面鬼将アシュラの超巨大戦艦だった。
「お楽しみの前に、まずは野暮な邪魔者を片付けるとしようか!」




