第5話:三面の落日
雲上の決闘場
猛烈な酸性雨と雷鳴が轟く雲海の上空。Dr.ガロのラボを破砕しながら迫る巨大戦艦の甲板に、漆黒の武将・アシュラが仁王立ちしていた。
スコーピオンはタランチュラのハッチから跳躍し、濡れた甲板へと着地する。背後ではシエルがタランチュラの全火力を構え、ドミニクが固唾をのんで見守っていた。
『無駄な足掻きを……スコーピオン。どのような悪あがきをしようと、我が「笑の面」の前にお前の波線など届くことはない』
アシュラの首が「ガチリ」と回転し、嘲笑う**「笑(SHO)」の面**が正面を向く。
「そうかい? なら、その自慢の仮面が本物かどうか、試してみようじゃないか!」
スコーピオンが腰のナノメタル・テールを解放する。首筋に注入された「ヴェノム・ブースター」が激しく脈打ち、テールの先端から放たれた光芒は、これまでの青から妖しく揺らめく「紫電」へと変貌していた。
0.03秒の隙間
「行けッ、スコーピオン・テール!!」
閃光とともに放たれた変異精神波ビームが、宇宙を切り裂いてアシュラへ迫る。
『フハハハ! 愚か者が――』
アシュラの「笑の面」が即座に波形を解析し、相殺力場を展開しようとした……その瞬間。
バヂチチッ!
「な……なに……!? 波形が……瞬時に変わっていくだと!?」
0.03秒の解析時間のただ中で、テールの波形が千変万化にシフトする。「笑の面」の相殺システムが過負荷を起こして火花を散らし、完全に相殺しきれなかった紫電のビームがアシュラの胸甲を激しく穿った!
『ヌオォォォッ!?』
「へっ……解析が追いつかねえだろ? これが狂気の処方箋だ!」
怒りと泣き面を穿つ
吹き飛んだアシュラだが、即座に首を回転させ、角を立てた**「怒(IKARI)」の面**を向けた。
『ぬかせぇぇ! 殺してやる、スコーピオン!!』
高熱の超振動刀を振りかざし、狂暴な連撃で襲いかかってくるアシュラ。スコーピオンはテールを鞭のように滑らせ、刀身を絡め取ると同時に、一気に間合いを詰めた。
「怒ったツラも怖くねえな!」
テールがアシュラの右肩を貫き、超振動刀が甲板へと落とされる。追い詰められたアシュラは悲鳴を上げながら、最後の手段として**「泣(NAKI)」の面**へと旋回させた。
『待て……頼むスコーピオン、助けてくれ! 哀しいことだ、かつての友を殺したくはない……!』
嘘の涙を流しながら、隠し暗器の毒針を放とうとするアシュラ。だが、スコーピオンの目には一切の迷いはなかった。
「命乞いの演技なら、俺の方が一枚上手でね」
スコーピオンは煙草を指で弾き飛ばすと、テールの先端をアシュラの三面兜の真ん中――駆動関節の「鍵穴」へ正確に突きたてた。
男の約束
ズドォォォォン―――!!
至近距離から叩き込まれた最大出力の変異精神波が、アシュラの内部から爆発を引き起こす。三つの仮面が木端微塵に砕け散り、黒煙を上げて巨大サイボーグが甲板へと倒れ伏した。
沈黙する戦艦の上で、スコーピオンはゆっくりと煙草に新しい火をつけた。
「ふぅ……これで車検代の貸しは帳消しだな」
タランチュラから駆け寄ってきたドミニクが、信じられないものを見る目で彼を見つめ、それからフッと柔らかく微笑んだ。
「本当に……倒しちゃったのね」
「当たり前だろ。男が美女と交わした約束を破るわけにはいかないからな」
スコーピオンはニヤリと笑うと、ドミニクの肩をそっと抱き寄せる。横から浮遊してきたシエルが、小悪魔的に首を傾げた。
「あらスコーピオン? 『一晩中付き合う』のはドミニクだけ? 私は仲間外れかしら?」
「おいおいシエル、俺の体力が持たないぜ」
広大な雲海を抜け、星空の下へと浮上していくタランチュラ。
伝説の海賊スコーピオンと、美しき相棒たちの果てしない宇宙の旅は、ここから再び始まっていくのだった。




