第4話:雲海の狂科学者(前編)
亡霊の蠢く鉱山
酸性の黄色い雲海がどこまでも広がる惑星ゴースト・マイン。
岩肌にへばりつくように建つ旧時代の自動採掘プラント――Dr.ガロの隠れ家「雲上ラボ」へ、タランチュラが静かに着陸した。
「ウッ……ひどい視界とにおいね。フィルターを通しても酸の匂いが鼻をつくわ」
ドミニクが胸元を押さえながら眉をひそめる。
「まあ、偏屈なジジイが引きこもるにはおあつらえ向きの場所さ。……シエル、留守番は頼んだぜ」
「了解。怪しい反応があれば、いつでもこのプラントごと吹き飛ばしてあげるわ」
シエルがコクピットから可愛らしくウインクしてみせる。スコーピオンはニヤリと笑い、ドミニクの腰をそっと抱き寄せてタランチュラを後にした。
狂気の診察室
怪しげな蒸気と機械油の匂いが充満するラボの最奥。
無数のモニターとサイバネティクスパーツの山の中に、車椅子に乗った痩せた老人がいた。義眼のレンズを無気味に伸縮させ、ニタリと歪んだ笑みを浮かべている。
「ハッ! 誰かと思えば、死んだはずの毒蛇……いや、サソリの坊主か。それに銀河警察の小娘まで連れて、何の用だ?」
「お前さんの作った芸術品……アシュラの『三面システム』の買い取り交渉に来たのさ、Dr.ガロ」
スコーピオンは煙草に火をつけ、紫煙を吐き出しながら老人の前に歩み出た。
「あの『笑の面』は出来が良すぎる。俺の毒針をまったく受け付けてくれなくてね。裏口の鍵を教えてもらおうか」
「ガハハハハ! ワシの最高傑作を破りたいだと!?」
ガロはダミ声で高笑いすると、車椅子の肘掛けを叩いた。
「教えるわけがなかろう! あれはワシの最高のアートだ! ……だが、どうしてもというなら、ワシの『ゲーム』に付き合ってもらおうか」
ガロが手を叩くと、天井から液体で満たされたカプセルと、恐ろしい形状のインジェクター(注射器)が降りてきた。
命を賭けたテスト
「あのアシュラの『笑の面』が波形を解析して位相を反転させるまでの時間は、正確には0.03秒。そのコンマゼロ数秒の隙間に、波形が変わる『変異精神波』を撃ち込むしかない」
ガロは不吉な赤色に光る薬品を提示した。
「これはワシが開発した神経拡張薬『ヴェノム・ブースター』だ。これを脳内に直接打ち込めば、お前のテールの波形は0.01秒単位で不規則に変化する。だが……適合しなければ、お前の脳ミソは3秒でドロドロのスープに変わるぞ?」
ドミニクが青ざめて叫ぶ。
「危険すぎるわ! そんな出鱈目な薬、人間に耐えられるはずがない!」
「ハハッ、だから『テスト』なのさ。死んだらそれまでの男だったということだ」
ガロが嘲笑う中、スコーピオンは無言でカプセルへ近づくと、ガロの手から注射器をひょいと奪い取った。
「スコーピオン、やめて!」
「なあにお嬢さん……俺の体は昔から、毒にはめっぽう強く出来ていてね」
スコーピオンはニヤリと笑うと、躊躇することなく自らの首筋へ、その猛毒の注射器を突き立てた――!




