第3話:情報屋のグラス(後編)
0.1秒の乱舞
「死ね、スコーピオン!」
一斉に引き金が引かれた瞬間、酒場内に閃光が走る。だが、放たれたプラズマ弾はスコーピオンの身体を1ミリも傷つけることはなかった。
彼の腰から伸びたナノメタル・テールが、目にも留まらぬ速度で空中を舞っていたからだ。
テールは自虐的なほど精密な弾道計算で射線をすべて弾き返し、天井のシャンデリアを打ち落として暗闇を作り出す。
「な、なんだこの動きは……!? 銃を構えてすらいないぞ!」
「手ぶらの男を撃つ時は、背後に気をつけることだな」
暗闇の中、テールの先端から放たれた青白い微小な精神波が、雷撃のように刺客たちの武器だけを正確に撃ち抜いていく。悲鳴と金属音が響き渡り、わずか数秒で十数人の刺客が床に転がった。
スコーピオンは右手で持ったグラスのバーボンを一口もこぼすことなく、静かに飲み干した。
「ふぅ……いい腹ごなしになった。マスター、ツケから掃除代を引いておいてくれ」
Dr.ガロの影
マスターはスコープの目を細め、呆れたように息を吐いた。
「相変わらず無茶苦茶な男だ。……約束のデータだ、持っていきな」
スコーピオンはマスターから受け取ったデータチップを指先で弄んだ。ホログラムで映し出されたのは、雲海に覆われた鉱山惑星「ゴースト・マイン」の座標と、怪しげな老科学者の顔写真。
「Dr.ガロ……アシュラの『三面システム』を作り上げた天才技師か」
ドミニクがホログラムのデータを覗き込みながら呟く。
「彼なら、アシュラの『笑の面』が波形を読み取るコンマ数秒のロジックや、装甲の構造的な隙間を知っているはずね」
「ただし気をつけろよ、スコーピオン」
マスターがグラスを拭きながら警告する。
「ガロは偏執的な偏屈ジジイだ。お前が伝説の海賊だろうが、気に入らなきゃ情報を吐く前に自分ごとラボを爆破するような奴だぜ」
次なる星へ
「ハハッ、偏屈なジジイなら慣れてるさ。俺の相棒も、負けず劣らず口うるさいからな」
「あら、誰のことかしら? 晩酌のバーボンを全部合成ストレートに変えてあげてもいいのよ?」
シエルが小悪魔的な笑みを浮かべてスコーピオンの耳元で囁く。スコーピオンは「そいつは勘弁してくれ」と両手を挙げておどけて見せた。
店を出て、降り注ぐ酸性雨の中に佇む愛艇タランチュラへと戻る三人。
「待っていなさい、アシュラ……」
ドミニクは胸元に隠した古代兵器のデータを固く握りしめた。
スコーピオンは煙草に火をつけ、紫煙の向こうに浮かぶ黒い雲海を見つめる。
「よし、シエル。船を出せ! 偏屈なドクターに、とびきりの手土産を持って会いに行こうじゃないか!」
激しいエンジン音と共に、タランチュラは無法都市の暗闇を切り裂き、雲海に眠る惑星ゴースト・マインへと向かって浮上を開始した。




