第3話:情報屋のグラス(前編)
無法者のオアシス『ラスト・オーダー』
重金属の雨が降り注ぐ暗雲の星、スラム・ジュピター。
街の底深く、巨大な宇宙船の廃エンジンの内部に作られた地下酒場『ラスト・オーダー』の扉を、スコーピオンが押し開けた。
ネオンの光と怪しい煙草の煙、そして十数種の異星人たちの怒号が入り交じる店内。カウンターの奥では、右目がスコープになった厳めしい老サイボーグのマスターが、黙々とグラスを磨いている。
「……マスター、俺の好みを覚えてるか? 氷は二つ、バーボンはダブルだ」
マスターの手がぴたりと止まる。スコープのレンズがギチギチと音を立てて絞られ、スコーピオンの顔を捉えた。
「……へっ、墓の下から這い出てきたにしちゃ、ずいぶんと威勢のいい顔だな、スコーピオン。お前の訃報を聞いて流した俺の涙を返してもらおうか」
「涙なら後でたっぷり流させてやるさ。アシュラのことでな」
スコーピオンはカウンターの丸椅子に腰掛け、両脇にシエルとドミニクを侍らせた。二人の美女の登場に、店内の一角から不穏な口笛と口さがない噂話が立ち上る。
情報の代償
「アシュラ、だと……?」
マスターの表情が引き締まる。グラスをカウンターに置くと、声をひそめた。
「あの三面鬼将の『笑の面』を破る手掛かりを探してるんだろ。……無茶だ、スコーピオン。奴の面は古代の量子力場を使ってる。精神波の波形を一瞬で読み取り、完全な逆相で相殺するカラクリだ。理論上、どんなサイコエネルギーも通用しねえ」
「理論上、ね」
スコーピオンは出されたバーボンを一口含み、ニヤリと笑った。
「機械が波形を読み取るってことはだ……『読み取る前』か『切り替わる瞬間』に、コンマ0秒のタイムラグが存在するはずだろ?」
「勘が鋭いのは相変わらずだな」マスターは苦笑し、カウンターの下から古びたデータチップを取り出した。
「アシュラの鎧のシステム設計者……『Dr.ガロ』の潜伏先だ。ただし、タダとはいかねえ。お前のその自慢の『毒針』で、店内の『掃除』を手伝ってもらおうか」
暗闇の刺客たち
マスターの言葉が終わるより早く、酒場のあちこちで客に化けていた男たちが一斉に立ち上がった。胸元には「レヴィアサン」の紋章。
「スコーピオン! アシュラ様へのお土産にお前の首をもらっていくぞ!」
十数本のプラズマガンが一斉にスコーピオンへ向けられる。ドミニクが素早く腰のブラスターに手を伸ばすが、スコーピオンは動かない。
「やれやれ、せっかくのバーボンが薄まるじゃないか」
スコーピオンはバーボンのグラスを右手で持ったまま、左腰のベルト――ナノメタル・テールを解き放った。
「シエル、ドミニク、耳を塞いでな。……酒場の掃除は、俺の十八番だ!」




