第一章 第四話 質問攻め
「ほい、ビーカー持ってきて!」
「うん」
椅子から立ち上がって、実験用具が入っているカゴが置いてある棚に歩いて行った。前に入れたらしきものの跡が残ってる、ちょっと汚いビーカーもあるから極力綺麗なものを選んだ。透き通るガラスに、赤色でメモリが書かれてある。赤のメモリが差し色のようで、おしゃれだな。
「はい、ビーカー」
アヤメが教科書を読みながら、
「そこ置いといて」
と言った。
「わかった」
私は実験の合間に、チラチラと後ろの空を見た。今はなぜか、空を見ないと落ち着かない。
綺麗な青い空には、もこもことした雲が少しと、国旗と校旗がバッサバッサと風になびいている。あ、国旗のてっぺんにカラスが止まった。休んでいるのかな。そう思っていると、今度は羽を突き始めた。
あれは確か…羽繕いっていうんだっけ。あ、飛んでいっちゃった。いいなぁ、高いところから飛びたい時に飛び降りて滑空できるなんて。羨ましい。
「おーい!実験中だよ」
「あっ…ごめん」
アヤメがまた私に声をかけてくれた。
「今日は太陽があったかいね〜」
「うん、そう…だね」
アヤメには太陽が暖かい存在なんだ。いや、物理的だと思うけれど、暖かい存在ってことはいつもそばにいる存在ってことなのかな。
私とはちょっと違うのかな。太陽は確かに暖かいけど、本当の暖かさは私には届いていない気がする。
ただの感性の違いなのかな?
私は、試験管を見つめながら考えた。
「花撫さ、特技とかないの?花撫勉強もスポーツも苦手じゃん」
昴くんが片手で頬杖をついて花撫くんに聞いた。
「特技…?そういえばあんまないかも…」
花撫くんは、両手で頬杖をついて考えながら答えた。
「あ、貴方は…?」
花撫くんが手差しで聞いてきたのは、私だった。
「え、私?」
「う、うん…」
「私は…絵を描くことかな」
「そういえば、一学期の美術で賞を取ってたよね…す、すごいね」
「あ、ありがとう」
花撫くんはものすごく動揺していた。耳まで顔を赤らめて、額や頬には滝のように汗をかいていた。すると、机の下で「ゴタッ」と音がした。花撫くんの体も動いた。足で、隣の人…昴くんを蹴ったように見える。
すると、昴くんは口を開けた。
「ゆ、雪水さんは、特技とかあるの?趣味とかでもいいし」
緊張を隠すように、軽々しさを装ってアヤメに聞いた。
「えっ、私?!私の特技は、なんだろう、編み物かな?趣味はギター…」
「へぇ〜!編み物やってるんだ!あとギターやってるとか、超かっこいいじゃん!!」
昴くんが、机の向かい側から身を乗り出して、目を輝かせながらアヤメに言った。距離が近くなって、アヤメはとっさに横を向いて、
「あ、ありがとう…」
アヤメの挙動に、昴くんはハッとしたような顔で、自分の席に体を戻した。そして、照れながら、でも笑顔で「ごめん」と謝った。
実験が終わって、片付けが始まった。しっかり者のアヤメは、分担して片付けるものを決めた。
「昴くんは、洗ったビーカーを片付けてほしい!あと花撫くんたちは、試験管を二本ずつ片付けてくれる?」
「了解!」
と昴くんが返事をする。
「は、はい、分かりました…!」
と花撫くんがセーターの裾を掴みながら言う。そして、
「分かった」
と私は返事した。
試験管立てに立ててある四本の試験管に目をやった。右側二本、左側二本と片付けたほうが彼も分かりやすいだろうから。私は境界が分かるように右から二番目の試験管に手を伸ばした。私が試験管の縁に触れたその時、指先に、試験管のガラスじゃない、何かが触れた。見てみると、それは花撫くんの指だった。触れたことに気づくと花撫くんはすぐに手を引っ込めて、恥ずかしそうに私にこう言った。
「ごっ、ごめんなさい…!」
彼も試験管を片付けるよう言われていたのだから謝ることないのに。




