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閨怨  作者: Ala-Maris
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大海原

続き

 それから5年後、私は客船で仕事をしていた。船の上で生活するので家がなくても良いし、資格さえ取ってしまえば学歴なんてものはいらない。給料もいい。何よりいろいろな港に行くので、行方不明の母を探せるのではないかと淡い期待を抱いていたからである。下船し、人が多そうな場所、住宅街、駅等いろいろな場所を探す。結局見つからずまた仕事をする。いつ見つかるのかもわからないまま船乗りとして働くこと約10年。乗船名簿を見ている時、母と同じ名前を見つけた。嬉しかった。当直が終わったあと、母と会えそうな場所を沢山探してみた。母が下船するまでの32時間位内に探し出さなければもう二度と会うことができないと思ったからである。探していたその時、一人の女性とすれ違った。懐かしい洗剤の匂いとあのカレーのにおいがした。母だと思った。緊張がほぐれた気がした。張り詰めていた気持ちが一気にほどけた。そんな気持ちはすれ違った女性も同じ気持ちだったに違いない。やはり、母親であった。母はどんな気持ちで生きてきていたのだろうか。果たして何をしていたのだろうか。私にはわからない。外の席で母と話すことにした。あの日、母は病院になど行っていなかった。恨んでいただろう父と会っていたのだ。幼い頃から母と父の関係はグダグダで、離婚は父の浮気が原因だと思っていたのだが浮気など存在していなかった。母は仕事上、子育てをしにくかった。些細なことで食い違いが増えた。その後塵が積もり、山となり離婚したそう。親権は母親に渡った。守るべきものを守れず守るものを失い、愛に飢えた父、いや、獣はとてつもなく強かった。誰が何を言っても話を聞くことはない。そして判決を下した裁判所で立てこもり事件を起こした。そんな獣を説得できるのは、愛を誓いあった母だけだったのだ。母の説得も虚しく、父は射殺された。母は心に深い傷を受け、わたしのことを忘れてしまった。精神科に入院していて、去年、退院したそうだ。自分を見つけたくて船に乗ったらしい。そんな話を聞いていた。海は広く、青く、こんな出来事などちっぽけだと言うように僕達を包みこんでいた。海は光っていた。明るかった。


続く

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