第8章:宿命のライバル
カルヴィンとラブガールは、硫黄の蒸気が立ち込め、マグマが不気味なオレンジ色の輝きを放つ火山台地を慎重に進んでいた。数メートル先を流れる溶岩の河を横目に、カルヴィンは額の汗を拭いながら尋ねた。
「……この環境、これで何度目の変化だ?」
ラブガールは即座に、外科医のような正確さで答えた。
「七回目。つまり、私たちを除けば生存者は残り三名――参加者は全部で五人だけということね」
「予想以上に遠くまで来ちまったな」
カルヴィンの声には、疲労と、それ以上の誇りが入り混じっていた。
「私たちの同盟が有益だと言ったでしょう?」
彼女の言葉に、カルヴィンは心からの微笑みを向けた。
「ああ……全くだ。君の言う通りだったよ」
行く手には、巨大な黒い岩壁が垂直にそびえ立ち、二人の進路を遮っていた。ラブガールは一瞬でその壁を分析し、提案する。
「私の推進装置を使えば、頂上まで運べるわ」
「よせ、エネルギーを無駄にするな」
カルヴィンは彼女を制した。
「……別のルートを探そう」
彼が踵を返そうとしたその時、冷徹な威厳を帯びた「聞き覚えのある声」が、二人をその場に釘付けにした。
「――どこへ行くつもりだ?」
背後に立ち込める、圧倒的なまでの威圧感。
二人が振り返ると、崖の頂上に**陳月清**が立っていた。
赤く染まった空を背負い、杖に寄りかかる彼女は、恐ろしいほどの静けさを纏っている。
「……本当に、ここにいたんだな」
カルヴィンが低く呟く。
「誰を待っていたの?」
彼女は軽く頷き、静かに問い返した。
ラブガールは即座に腕を掲げ、高みに立つ人影へ狙いを定めた。
「……お前の味方か?」
警戒を一切解かぬまま、彼女は隣の少年に問う。
「――いや、俺のライバルだ」
カルヴィンは言い放つと同時に剣を抜き放つ。その身には、深紅のエネルギーが脈動していた。
ラブガールが短く頷くと同時に、エネルギーの爆風が放たれた。崖の頂上が直撃を受け、濃い塵と火山灰が舞い上がる。だが、そこにチェンの姿はなかった。彼女は虚空へと身を躍らせ、流れるような動作で杖を地面に突き刺すと、落下の衝撃を完璧に殺して着地した。
彼女は二人の前に立ち、獲物を定めるように分析する。即座に放たれた護符に対し、カルヴィンは間一髪で反応。紅蓮の斬撃でそれを空中で一刀両断した。戦いが激化しようとしたその時、チェンは指を立て、一瞬の静止を促した。
「一つ、教えて」
チェンはラブガールに視線を向け、静かに問いかけた。
「なぜ、彼と手を組むことにしたの?」
「……かつて、私が慕っていた男性が言っていたわ。『他人を助ける善き人々を、助けるべきだ』と」
ラブガールは力強い声で答える。
「私はただ、その言葉を胸に刻んでいるだけよ」
カルヴィンは自分が「善き人」と評されたことに目を見開いたが、チェンはただ目を細め、その答えを咀嚼するように沈黙した。
「……なるほど。それなら、面白い戦いになりそうね」
刹那、チェンは瞬きする間に距離を詰め、カルヴィンの眼前へと現れた。
彼女の杖が、巨大な鉄槌のごとき勢いで彼の胸を打つ。衝撃でカルヴィンは溶岩の穴の縁まで吹き飛ばされた。彼が必死に立ち上がろうとする隙に、ラブガールが稲妻の連射を放つが、チェンは杖に展開した魔術の障壁でそれを冷淡に防ぎ切る。
流れるような演武のごとき動きでチェンは杖を振り回し、ラブガールに守勢を強いた。カルヴィンはその隙を突き、渾身のタックルを仕掛ける。しかし、チェンは彼の勢いを逆利用し、鮮やかなスープレックスで彼を岩だらけの地面に叩きつけた。
ラブガールの跳び蹴りも、彼女は優雅に身をかがめて回避。そのまま鋭い掌打を顔面に叩き込み、彼女を数メートル後退させた。
カルヴィンは朦朧とした意識の中で立ち上がった。視界の向こうでは、チェンがラブガールの攻撃を、まるで舞い踊るかのような優雅さ――あるいは侮蔑に近い余裕でかわし、破壊的な反撃を繰り出している。
(……ラブガールの火力は凄まじいが、チェンの高速戦闘には追いつけていない!)
味方に休息を与えるため、カルヴィンは大気を引き裂く巨大な紅の斬撃を放ち、チェンをラブガールから引き離した。
一瞬の隙も与えず剣を振り下ろすが、ここでチェンは驚愕の行動に出た。
両の手のひらで剣の刃を挟み込み、**「真剣白刃取り」**の構えで完全に封じ込めたのだ。
カルヴィンは必死に剣を引き抜こうとするが、その力は圧倒的だった。チェンは剣をテコのように使い、カルヴィンを力任せに押し出す。彼を「人間の盾」として利用し、ラブガールから放たれた強力な光線をそらさせたのだ。
剣の柄がカルヴィンの腹部にめり込み、彼は息を呑んだ。彼がよろめきながら後退する中、チェンは剣を無造作に放り投げ、反発の護符を発動させる。その衝撃波に弾き飛ばされたカルヴィンは、火山岩の壁へと激しく叩きつけられた。
チェンは即座にラブガールの方へと向き直った。手中の杖を猛烈な速さで投げつけ、少女の顔面を真っ向から捉える。杖が地面に落ちるよりも速く、チェンはすでに彼女の懐へと飛び込んでいた。空中で杖を奪い返すと、流れるような上段回し打ちを放ち、ラブガールの顎を正確に撃ち抜く。
衝撃を受けたラブガールは大きくよろめいたが、即座にその姿勢を立て直した。彼女は地を蹴って立ち上がり、全身のバネを活かした重いパンチを繰り出す。チェンはさらに上回る速度の連打で応戦したが、ラブガールの拳から伝わる圧力は明らかに異質だった。
一撃、また一撃と交差するたび、周囲の空気が物理的な振動となって震えた。
審判席では、シアランが満面の笑みを浮かべてスクリーンを見つめていた。
「素晴らしいわ……。激しい攻防の中、両者とも持てる全力を尽くしている。一方は圧倒的な速度を誇り、もう一方は驚異的な身体能力でそれに応えている。これほど見事な戦い、身震いするほどだわ!」
月島はその熱狂を遮るように、傍らのモニターを指さした。
「……あの少年はどうなったのかしら? あれほどの衝撃を受けて、まだ起き上がってこないけれど」
ミスター・フェイスレスは手にしたワイングラスをバーナビーに預けると、顎に手を当てて思案した。
「衝撃で気絶したのだろうか。スティール君、確認してもらえるかね?」
ライアンはメインスクリーンにカルヴィンのバイタルサインを表示させた。そこには黄色いシグナルが点滅している。
「参加者カルヴィン・マドックス、意識不明の状態です」
ライアンの報告に、アッシュブレイドが不思議そうに口を挟んだ。
「デジタル・シミュレーションの中で意識を失うなど、あり得るのか?」
ライアンは真剣な表情で頷く。
「我々は、現実を極限まで忠実に再現しています。仮想脳が一定以上の衝撃を受けると、ユーザーの安全を確保するためにシステムが強制的にシャットダウンするのです」
「信じられない!」
ミスター・フェイスレスは、仮想システムの複雑さに感嘆を隠せなかった。
「まさに新文明が生み出した科学の驚異だ。私のような完璧な存在でさえ、その中にいれば現実を疑ってしまうだろうね」
しかし、ジファンだけは、若き志願者の姿が映し出された画面から片時も目を離さなかった。
(カルヴィン……反応してくれ……)
その瞬間、ジファンはカルヴィンの人差し指が微かに、痙攣するように動いたのを捉えた。彼は平静を装ったが、その口元には期待に満ちた笑みが浮かんでいた。
二人の弟子が一体何を見せてくれるのか。師として、彼はその瞬間を心待ちにしていた。
カルヴィンはゆっくりと目を開けた。頭蓋骨を鋭い痛みが走り、震える手で額を押さえる。
「な……何が起きたんだ?」
硫黄の臭いが漂う空気の向こうで、ラブガールの放つピンクの閃光がチェンの杖と激突するのが見えた。記憶が一気に蘇る。
「そうか……チェンと戦っていたんだ。負けたのか? いや、まだ試練は終わっていない……」
ひび割れた岩に頭を預けると、疲労が重い石のように肩にのしかかる。
「もう限界だ……」
弱音が漏れかけたその時、仲間の言葉が脳裏をよぎった。
『善き人々を助けるべきだ』
彼女は迷いなくそう言った。自分が本当にそんな人間かは分からない。だが、彼女が自分を信じてくれているなら、その信頼に応えなければならない。彼女が自分を助けてくれたように。
鉄の意志を奮い立たせ、カルヴィンは剣を杖代わりに立ち上がった。体の隅々まで痛みが悲鳴を上げていたが、彼はそれを無視した。背筋を伸ばし、しっかりと足場を固めると、全力を込めて叫んだ。
「チェン・ユエチン!!!」
チェンは、カルヴィンから放たれる紅いエネルギーの圧力を肌で感じた。彼女は衝撃波の護符でラブガールを弾き飛ばして距離を作ると、くるりと踵を返し、かつての弟分を睨みつけた。
「……まだ立っていられるの、カルヴィン?」
「全身が痛いし、生まれて初めて気絶もしたよ。だから……少なくとも、頑張ってはいるだろ?」
彼は挑発的な笑みを浮かべて言い返した。
「なら、それを証明してみせなさい」
カルヴィンは爆発的な加速で突進し、チェンの胸元をかすめる鋭い突きを放つ。彼女は投げた杖を瞬時に手元に戻すと、カウンターで彼の肋骨を強打した。カルヴィンは歯を食いしばって痛みをねじ伏せ、剣を振るい続ける。チェンはそのペースに合わせ、正確無比な杖捌きで一撃一撃を封じていく。
その時、チェンは背後からラブガールが飛び上がり、捨て身の特攻を仕掛けようとしているのを察知した。超人的な反射神経で「跳躍」の護符を発動。上空へ逃れ、ラブガールをカルヴィンへと真っ向から激突させた。
あらかじめ発動させていた「軽降下」の護符により、チェンはゆっくりと舞い降りる。灰の雲の中に、打撲傷をさすりながら立ち上がる二人を見下ろして。
カルヴィンは地面に手を突き、再び立ち上がろうとした。その時、岩盤の下から泡立つような不気味な振動を感じ取る。一つの閃きが彼の頭をよぎり、彼はラブガールに向かって叫んだ。
「ラブガール! チェンの真下の地面を狙え!」
彼女は一切の躊躇なく、エネルギーの連射を放った。薄い火山岩の層が貫かれた瞬間、高圧の溶岩流が噴水のように吹き上がる。
空中で不意を突かれたチェンは、迫りくるマグマを回避するために「推進」の護符を使い、結果として優雅な降下を中断せざるを得なくなった。
彼女の体は地面に激しく叩きつけられた。
チェンが体勢を立て直すよりも速く、カルヴィンはそこにいた。
荒い息遣い、そして燃えるような眼差し。
彼は剣の刃を、チェンの首筋に真っ直ぐに突きつけた。
窮地に追い込まれながらも、チェンは微笑みを浮かべ、カルヴィンの決意に満ちた瞳をじっと見つめ返した。
「本当に強くなったわね……。もともと素質はあったけれど、今のあなたは意志の固さが以前とは違う」
「さっさと降参しろ」
カルヴィンは刃の圧力を緩めることなく言い返す。
「あんたの喉を切り裂きたくはないんだ」
チェンは静かに目を閉じ、絶対的な平静を保った。全身の筋肉を弛緩させ、リズミカルな呼吸を整えていく。彼女は仮想空間に満ちるマナの流れと、自らの血管を駆け巡る生命力を鮮明に感じ取っていた。
直後、電光石火の速さでチェンはカルヴィンの剣の刃を素手で掴み取った。鋼が肉を裂く痛みなど意に介さず、超人的な膂力でそれを押し返していく。
カルヴィンは一瞬呆然としたが、退くことはなかった。全力で押し返そうとするが、まるで抗いようのない濁流が向こう側から押し寄せてくるかのように、チェンの力は不可能に近い次元まで増大していく。カルヴィンの抵抗を真っ向から受け止めると、チェンは軽く身を沈め、両足で放った力強い蹴りで彼を空中へと吹き飛ばした。
数メートル後退したカルヴィンの体を、背後からラブガールが空中で受け止めた。
「……大丈夫?」
彼女に支えられ、カルヴィンは荒い息を吐きながら頷いた。
「ああ、ちょっと不意を突かれただけだ。……でも、大丈夫だ。やれる」
チェンは巧みな足さばきで地面の杖を拾い上げると、片手で力強く握りしめた。先ほどの荒々しい力の発露とは裏腹に、彼女の筋肉は驚くほどリラックスしているように見えた。
カルヴィンには理解し得ないことだったが、チェンが普通の人間でありながらメタヒューマンに匹敵する、あるいは凌駕する能力を発揮できる理由は、一族に代々受け継がれてきた古来の技法にあった。
彼女の護符は、単なる紙とインクの産物ではない。それは、空気中に漂う微細なマナをエネルギー源とする触媒なのだ。呼吸のたびに、チェンは環境エネルギーを体内に取り込み、それを自身の筋肉繊維へと送り込む。そうすることで、彼女は身体能力を桁外れなレベルまで高めていたのである。
裁判官室では、ミスター・フェイスレスが座席で背筋を伸ばしていた。その見えない顔に、突然の「悟り」の色が浮かぶ。
「……ようやく、合点がいったよ」
「何のことかしら?」
月島レイが腕を組み、不思議そうに尋ねた。
「あの少女だ……。彼女は、史上最強の人間と謳われた、**陳月山**の娘だ」
その言葉を待っていたかのように、ジ・ファンは満足げな微笑を浮かべた。
「ようやく気づきましたか」
「ハハハ! ますます面白くなってきたじゃないか!」
フェイスレスが歓喜の声を上げる。
「世界最強の男の血を引く娘が、運命のライバルを前にその真の実力を示そうとしている。これ以上の見世物があるかね!」
戦場では、カルヴィンが再びチェンへと躍りかかっていた。武器と武器が凄まじい勢いで激突する。赤く輝く魔力と強化木材がぶつかり合い、両者とも一ミリたりとも退く気配を見せない。
遠方からラブガールが自分を狙っているのを察知したチェンは、一気呵成にカルヴィンを突き放した。直後、「逸らし」の護符を展開し、迫りくるピンクの光弾を霧散させる。
カルヴィンは必死の横薙ぎを放つが、チェンは驚くべき滑らかさで身をかがめ、背後で杖を回転させて完璧な防御を見せた。そのまま流れるような運指で持ち手を替えると、カルヴィンの膝を強打し、彼をその場に跪かせる。
だが、カルヴィンは超人的な粘りで転倒を食い止め、下から上段への斬撃を繰り出した。銀色の刃が、チェンの強化木防具に激しく打ち付けられる。
もみ合いの中、チェンが護符を取り出そうとした。それを予期していたカルヴィンは、発動前にその紙片を力ずくで掴み取る。二人が護符を奪い合う中、空気を切り裂いてピンクの稲妻が走った。チェンは護符を手放し、カルヴィンを横へ押しやりながらラブガールの追撃を回避する。
一瞬の隙も与えず、チェンは少女へと真っ向から襲いかかった。執拗な攻撃を仕掛けるラブガールだったが、チェンの速度がそれを上回る。瞬時に懐へ潜り込み、腹部へ破壊的な一撃を叩き込んだ。乾いた衝撃音が、火山高原全体に木霊する。
チェンは容赦しなかった。一撃ごとに速度を増す連打。その技術と速さに圧倒され、ラブガールは攻撃の方向さえ把握できず、防戦一方に追い込まれる。
仲間の窮地を見たカルヴィンが、紅いエネルギーを帯びた石を投じた。チェンの背後で爆発が起こり、その衝撃波が二人を吹き飛ばす。ラブガールが立ち上がろうとした瞬間、チェンは彼女を地面に縫い止めるような蹴りを見舞い、その勢いのまま三枚の鋭利な護符を放った。
神秘的な刃が、カルヴィンの腕、脚、肩を容赦なく切り裂く。
苦悶の声を上げるカルヴィン。チェンは杖を手に取り、力強い足取りで彼へと歩み寄った。
「……さあ、チェン。早く終わらせてくれ」
カルヴィンが疲れ果てた声で呟く。
チェンは鋭い蹴りを放ったが、カルヴィンは両腕でそれを辛うじて防いだ。だが、直後に後頭部を襲った杖の一撃までは避けきれなかった。意識が朦朧とする中でカルヴィンは拳を振り上げたが、チェンは片手でそれを易々と阻むと、その隙を突いて少年の顔面に重い拳を叩き込んだ。
鼻から血を流しながらも、カルヴィンの眼差しは消えない炎のように燃えていた。彼はチェンの首元へ必死に手を伸ばす。チェンは即座に反応し、彼の腕に護符を貼り付けて動きを封じると、その隙に肋骨へ強烈な打撃を見舞った。カルヴィンは空いた手で二度目の追撃をかわし、執念で護符を引き剥がした。
チェンは後方へ跳び退いて距離を取ると、ボロボロになりながらも倒れようとしない少年を、敬意と憐れみが混じった眼差しで見つめた。彼の頑なさに眉をひそめる。傷を無視して立ち向かってくるその姿を見るのは、彼女にとって苦痛ですらあった。
「……今さら勝てるわけがないわ。無様な姿ね、立っているのがやっとでしょう」
カルヴィンは背中に手を回し、痛む背骨を押しつけるようにして固定した。
「諦められないんだ……今はまだ。俺は生まれてからずっと弱かったし、何度も諦めようとした。……でも今は、俺を信じてくれる人がいる。たとえ自分自身を信じきれなくても、彼らを失望させたくない。できる限りのことはするつもりだ」
その時、ラブガールが再び立ち上がり、エネルギー光線を放った。チェンは猫のような反射神経でその衝撃を護符に吸収し、反撃に転じようとする。だが、護符が爆発する直前、赤いエネルギー弾が空中でそれを迎撃し、相殺した。
チェンは目を見開き、人差し指から煙を上げているカルヴィンを凝視した。
「……どうしてそんなことが?」
カルヴィンは指先の煙を吹き消し、疲弊した笑みを浮かべた。
「この手袋がただの飾りだとでも思ってたのか? ジファン師匠と特訓していた時、全ての札を明かすわけにはいかないと思ってね。手袋を通してエネルギーを放出する方法を編み出したんだ。物理的な物体なら、力を導く媒体になる。……もっとも、剣とは違って限界が来れば壊れてしまう使い捨てだけどな。だから、一瞬も無駄にはできないんだ」
チェンはしばらく目を閉じ、再び開いたその瞳には絶大な敬意が宿っていた。
「驚かされたわ……認めざるを得ないわね」
「取引をしましょう」と、彼女はカルヴィンとラブガールの注意を惹きつけた。「私の手元には治癒の護符が二枚残っている。一枚をあなたに、もう一枚を私が使う。そうすれば対等な条件で戦えるわ。その代わり……あなたの相棒は介入禁止。正真正銘、一対一の勝負よ。どう?」
カルヴィンは不安げにラブガールを振り返った。
「彼女はどうなるんだ?」
「あなたの後に続くわ。残りは五人。彼女は最後の四人のうちの一人として残ることになる。そうすれば、より優秀な部隊に配属される可能性が高まるはずよ」
「……もし俺が勝ったら?」
「同じチャンスをあげるわ」
カルヴィンは沈黙し、状況を分析した。(どちらにせよ、ラブガールには有利な条件だ。断れば彼女はチェンに排除される。彼女も、俺も、二人とも通過する価値がある。……でも、俺だって勝ちたい……!)
短い沈黙の後、カルヴィンは決断を下した。
「……受け入れるよ。二人とも選ばれるよう、全力を尽くす」
チェンは微笑み、治癒の護符をカルヴィンへと投げた。彼女自身も護符を起動させ、固まった筋肉を解し始める。カルヴィンはラブガールに向き直った。
「俺を信じてくれ。勝って、この試練を突破してみせるから」
「……どうして、私のためにそこまでしてくれるの?」
彼女の無機質なはずの声に、読めない感情が混じる。
「君は、俺の友達だからさ」
その瞬間、ラブガールは胸の奥に奇妙な痛みを感じた。システムでは分類できない、未知の感覚。彼女にはこれまで、友達などいたことがなかったのだ。
「……頑張って、カルヴィン」
彼女は微かな声で囁いた。
カルヴィンはチェンに向き直り、決意を込めて指を鳴らした。
「よし。……やろうぜ」




