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第4章:不気味な生物(ぶきみなせいぶつ)

試験の前夜――。

ニクスとトーマスは、中央連合の郊外に広がる旧文明の廃墟地区を歩いていた。静まり返った街に、二人の足音だけが虚しく響く。

「……何か見えるか?」

トーマスの問いに、ライト付きの拳銃を構えたニクスが静かに首を横に振った。

「これで七カ所目です。『死の使徒』の潜伏先として疑わしい場所は、もうこれくらいしか残っていません」

トーマスは苛立ちを隠せず、顔を乱暴に撫でると、足元に転がっていた空き缶を蹴り飛ばした。

「……時間の無駄だったな。そもそも『死の使徒』なんて連中、実在しねえんじゃねえかと思えてきたぜ」

「……本当にそうなら、どれほど良かったか」

「あいつらは救いようのない馬鹿だ。『死のメッセージを広めることこそが、平和を成し遂げる唯一の道だ』なんて本気で信じてやがる」

「それでも、彼らが積み上げてきた死は決して馬鹿げたものではありません」

ニクスが鋭い口調で言い返した。

「彼らはメッセージのために殺人を犯し続けている。彼らさえいなければ、あの無実の人たちは今も生きていたはずです」

「人間ってのは、すべてから身を守ることはできないんだよ、ニクス。だからこそ、俺たちメタヒューマンの『ヒーロー』が救ってやるのさ。……その見返りに、二週間ごとに給料をもらうってわけだ」

その時、近くの廃ビルから聞こえてきた奇妙な物音が、二人の会話を遮った。

ニクスは猫のような耳を動かして注意深く音を拾うと、一点を指差した。トーマスが頷く。彼はテレポート能力を使い、一瞬で建物の入り口の真横へと移動した。

近づくにつれ、その音はより鮮明に、不気味に響き始める。それは――何かが液体の中で「ゴボゴボ」と泡立つような音だった。

「……あの音、何?」

ニクスが囁き、足音を殺して忍び寄る。

「……間違いなく、ろくなもんじゃないな」

トーマスは入り口を塞いでいた鉄骨を音もなくテレポートでどかし、重い扉を開け放った。

そこに広がっていた光景に、ニクスは猛烈な吐き気を催した。

充満する死体の腐敗臭。鋭い嗅覚を持つ彼女にとって、それは致死量に近い悪臭だった。彼女はたまらず外へ飛び出し、その場に膝をついて激しく嘔吐した。

トーマスは懐中電灯を照らしながら、じっと観察した。それは肉と羽でできた人型の塊で、息をしているようだった。近づくと、その生き物は目を覚まし、耳をつんざくような鳴き声を上げた。その姿が明らかになった――人間の皮膚と乱れた羽を持つ鳥類の生き物だった。その目は夜のように黒く、暗い嘴の奥には人間の歯がずらりと並んでいた。


「くそっ!」トーマスは驚いてつまずきながら叫んだ。


その生物は扉に視線を向け、ニックスに向かって襲いかかった。トーマスは即座に反応した。立ち上がると、仲間が襲われるわずか数秒前に、怪物の背中に触れた。瞬きをする間に、彼はその生物の胴体をその場からテレポートさせ、残りの身体から切り離した。


ニクスは胸に手を当て、引き裂かれそうになった衝撃から息を整えた。彼女は床に横たわる無残な残骸を見つめた。


「な…何だったの?」


「俺にわかる顔か?」トーマスは、まだアドレナリン全開のまま答えた。


月明かりの淡く薄暗い光の下、切り刻まれた生物の残骸が、恐ろしいほど鮮明に浮かび上がった。トーマスは近づき、その恐怖を観察しようとしゃがみ込んだ。その生物の皮膚は、人間の組織と鳥類の組織がグロテスクに混ざり合ったもので、太く脈打つ静脈が、まるで肉から逃げ出そうとするかのように表面から浮き出していた。


開いた傷口からは、濃く深紅の血が流れ出ていた。建物の影の中では、その血は黒くさえ見えた。背中に生えているわずかな羽は太く硬く、黄色く悪臭を放つ脂の膜に覆われていた。不釣り合いに長く伸びたその腕は、羽をむしられた鶏の翼を思わせる硬直した姿勢を保ち、先端には、鉤爪のような黒い爪を持つ、変形した指がわずか二本しかついていなかった。


「気持ち悪いな」トーマスは、純粋な嫌悪感を露わにした表情でそう呟きながら、パチンという音を立ててラテックス手袋をはめた。


「どうするつもりだ?」とニクスが尋ねた。彼は依然として鼻を押さえ、その生物から漂う腐敗臭――腐った肉と鉄が混ざったような臭い――に耐えようとしていた。


「科学班に持って行く。第11班のあの知ったかぶり連中なら、これが一体何なのかきっと分かるだろう。」


トーマスは強化された収容バッグを取り出し、整然としたが嫌悪感に満ちた動きで、標本の切断された部位をその中に入れ始めた。


突然、ニクスは耳を澄ませた。廃墟となった建物の上の階から、骨が砕けるような乾いた軋み音が聞こえてきた。しかし、分厚いコンクリートの壁のせいで、正確な発生源を特定することはできなかった。トーマスは、相棒の警戒した表情に気づいた。


「大丈夫か?」と彼は尋ねた。


「上で何か音がしたわ」とニクスは、自分の直感を確信して答えた。「確認してくる」


「先に行ってくれ。これを終わらせたら、すぐに君のところへテレポートする」

ニクスは建物の中に入った。コンクリートの壁は緑がかったカビや苔に覆われており、床のひび割れからは野生植物が芽吹いていて、まるで自然がこの建造物を取り戻そうとしているかのようだった。彼女は懐中電灯の光だけを頼りに進むと、足元で腐った木材がきしむ音がした。


階段に足を踏み入れると、そこはまるで巨大な衝撃を受けたかのように激しく損壊しており、一段は完全に粉砕されていた。その瓦礫の真ん中に、先ほどの生物のものと同じ、太くて銀色に輝く羽が一本落ちている。ニクスはそれを拾い上げ、さらに上階へと歩を進めた。

上の階に到達すると、ほぼ同じ姿をした別の個体に出くわした。だが、こちらは腕が異様に短く、背中にはハリネズミのような棘が逆立っている。

ニクスは慎重に近づき、その生物が完全に事切れていることを確認した。顎は引きちぎられ、首の後ろへと激しくねじり上げられている。砕けた肋骨が内側から腹部を突き破り、まだ新鮮な血を滴らせる肉片の間から、白々とした骨が突き出していた。

その間、通りではトーマスがサンプル入りの袋を車のトランクに放り込んでいた。ドアを閉めた次の瞬間、彼は上階へとテレポートする。死体のそばにしゃがみ込んでいるニクスを見て、彼は嘲るような口調で声をかけた。

「おや、お前一人で片付けたのか?」

だが、その時。トーマスの目が、致命的な動きを捉えた。

ニクスのすぐ後ろ、半開きになったドアの隙間から、細く、骨ばり、不釣り合いなほど長く伸びた手が現れたのだ。乾いた血の跡を帯びたその手が、相棒の首元へと音もなく伸びる。

「なんてこった……!」

トーマスは叫んだ。

躊躇することなく、彼は二人の間の空間へテレポートし、その血まみれの手がニクスに届く直前、愛用の杖でその腕を鋭く叩きつけた。

トーマスはニクスの方を振り返り、即座に彼女を車へテレポートさせようとした。だが、その化け物は彼よりも速かった。細長い指が超自然的な力で彼を捉え、壁へと激しく叩きつけたのだ。

純粋な本能で、トーマスは衝突の直前にテレポートを敢行し、コンクリートに骨を砕かれる惨劇を免れた。

視覚的な衝撃から立ち直ったニクスは、しっかりと銃口を向けた。懐中電灯の光が闇を切り裂き、その存在の姿を浮かび上がらせる。

他の怪物たちとは異なり、この存在はグロテスクでも動物的でもなかった。その容貌は、不気味なほどに人間らしかった。

赤いTシャツと、彼には滑稽なほど小さすぎる、擦り切れたズボンを身に着けている。手足のバランスは狂っており、脚は長く、腕は細く膝までしか届かない。だが、その皮膚の下には、筋張った引き締まった筋肉が透けて見えた。手首には、汚れと経年劣化で黄ばんだ医療用包帯が巻かれている。

しかし、最も恐ろしいのはその顔だった。

口はなく、鼻は小さく、瞳孔は乳白色のまま、眼球の他の部分と区別がつかない。その目は、汚れて乱れた緑色の髪の下にある、無表情な二つの大理石の球のように見えた。

ニクスは、その生物が直射光を浴びてもまばたきさえしないことに、芯からの恐怖を覚えた。その空虚でじっと見つめる視線の前では、彼女は自らが小さく、圧倒されたように感じた。

その存在が彼女に襲いかかる前に、トーマスが再び姿を現した。彼女の肩をつかむと、二人は瞬く間にその場から掻き消えた。

ニクスは車の横にドスンと着地したが、トーマスが彼女だけを連れてきたのではないと気づき、恐怖の叫びを上げた。

もう一匹の生物の死体から切り落とされた手足が、彼女の足元に転がっていたのだ。ニクスは、まるでキュウリに驚いた猫のように背中を反らせて必死に飛び退き、ようやく落ち着きを取り戻した。

トーマスは完全な静寂の中、その化け物の背後に音もなく姿を現した。怪物は空気中の見えない痕跡を追うかのように、不規則な痙攣けいれんを繰り返している。気配を悟られていないことを確信し、トーマスは体重を感じさせない慎重さで一歩を踏み出した。

だがその瞬間、怪物は物理法則を無視した角度で胴体を捻り、細長い指で凄まじい一撃を繰り出した。

「ッ……!」

鋭い衝撃。生存本能が叫びを上げ、貫かれる直前に下の階へとテレポートしたが、無傷では済まなかった。着地したトーマスはよろめき、脇腹を強く押さえた。焼けるような鋭い激痛が走る。

「くそっ……」

歯を食いしばりながら、男は毒づいた。

「間違いねえ……こいつは、相当な『厄介者』だ」

傷口に触れると、内部から嫌な軋み音が聞こえた。一撃で肋骨にひびが入ったのだ。

ドォン! と轟音が響く。

怪物は一撃で建物の構造をブチ抜き、コンクリートを粉砕しながら下の階へと落下してきた。

降り注ぐ瓦礫をいなし、トーマスは即座に怪物の背後へ転移。鞘からタクティカルナイフを抜き放つ。怪物が軸を中心に回転した瞬間、彼は致命的な精度でその刃を相手の額、そのど真ん中へと突き立てた。

荒い息をつきながら、アドレナリンが血管を駆け巡るのを感じる。トーマスは頭蓋を貫かれ、混乱してよろめく怪物を見つめていた。だが、彼はそこで不気味な光景を目にする。傷口から噴き出していた深紅の血が、不自然な速さで止まっていく。

怪物がバランスを取り戻したかと思うと、その顔面の筋肉が激しく波打ち、額に刺さったナイフを「吐き出した」のだ。金属音を立てて転がるナイフ。額の穴は数秒で塞がり、傷跡すら残らなかった。

「……冗談だろ」

トーマスは疲弊した声で呟いた。

怪物が爪を振りかざし、その異様に長い指でトーマスの喉元を掴みにかかる。反対側へ転移して逃れたが、息つく暇もない。上から振り下ろされる追撃を、愛用の杖で受け止めざるを得なかった。かつて彼を支えていた木製の杖は、枯れ枝のように真っ二つに折れた。トーマスは無用の長物となった破片を、忌々しげに放り捨てた。

だが、彼はまだ諦めない。怪物の顔面に渾身の拳を叩き込み、一瞬の隙を作る。相手が瞬きをした刹那、トーマスはその腕を力強く掴み、二メートル先へテレポートした。転移の勢いを利用し、怪物の腕を根元から引きちぎったのだ。

「手強い相手だな……。杖のことは気にするな。もう使わないことには慣れてきてたからよ……」

しかし、トーマスの言葉はそこで止まった。

彼が掴んでいた腕が粒子のように消え始め、同時に怪物の肩からは、骨が軋み肉が裂ける不快な音を立てて、新しい腕が突き出してきたのだ。

「いや……二度とごめんだ。ここをおさらばするぞ」

瞬く間に、彼は自分の車の運転席へと転移し、轟音と共にエンジンを始動させた。血の気が引き、肩で息をする彼を見て、ニクスが驚愕して尋ねる。

「……どうしたの? 標本は?」

「消えたよ」

トーマスはアクセルを全力で踏み込みながら答えた。

「あの野郎、一瞬で腕を再生しやがった。もぎ取った方の腕は、ただ消え去っただけだ」

「……じゃあ、これからどうするの?」

「とりあえず、基地に戻る。こんなもん、俺たちだけで抱えきれる問題じゃねえ」

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