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第3章:僕の精一杯(ぼくのせいいっぱい)

道場に到着してから数日が経過した。カルヴィンは木刀を構え、チェンと対峙していた。

彼はかろうじて一撃をかわすことに成功したものの、続く電光石火の突き二発が、彼を地面に這わせるには十分だった。ジファンがそこで試合を中断させた。

「そこまでだ。今日の稽古はここまでにしよう」

チェンは冷ややかな表情を崩さず、短く頷いた。

「承知いたしました。……それでは、私は自分の鍛錬に参ります」

「待て、チェン。君から見て、カルヴィンはどう思うか聞かせてくれ」

チェンは横目でカルヴィンを一瞥してから、ジファンに視線を定めた。

「意志は強いようですが、力が伴っていません。今の彼では、その意志も無意味です。率直に申し上げれば、実力のある敵と戦わせれば、数秒と持たずに命を落とすでしょう」

その容赦ない言葉にカルヴィンは俯いたが、ジファンは微かに微笑んだ。

「よし。そうならないように、僕が鍛え上げてみせるさ」

チェンはそれ以上何も言わず、静かにその場を去っていった。

ジファンはカルヴィンの方を向いた。

「……今の、聞こえたか?」

「はい……。師範は本当に、そんなに僕を信じてくれているんですか?」

カルヴィンは俯いたまま、消え入りそうな声で尋ねた。

「君を信じているわけじゃない。僕が信じているのは、自分自身だ。師として君を必ず育て上げるという、僕自身の覚悟を信じている。……だがそのためには、君も自分自身を信じなければならないんだ」

カルヴィンは顔を上げた。脳裏に、あの禅庭園で感じた心地よいそよ風が蘇る。噴水の音、夕暮れの静けさ――あの時の感覚が、彼の奥底に眠る力を呼び起こしていく。

「……僕なら、できると思います」

「それを俺に言うな、カルヴィン。自分自身に、魂に言い聞かせろ」

ジファンは力強くカルヴィンを指差した。その自信と決意に満ちた笑顔に、カルヴィンは深い憧れを抱いた。それこそが、自分がいつか辿り着きたいと願っていた理想の姿だった。

迷いは消えた。カルヴィンは腹の底から、断固とした声で叫んだ。

「僕は、もっと強くなる! 自分が納得できるまで、持てる力のすべてを……精一杯、出し切ってみせる!」

それから、半年間に及ぶ過酷な月日が流れた。

カルヴィンはチェンとの手合わせで一度も勝つことはできなかったが、決して後ろを振り向かなかった。筋肉がつき、剣の扱いや身のこなし、そして何より自らの「力」の制御を学んだ。今の彼は、正確な一撃を放ち、チェンの猛攻を凌ぎ、羨むほどの持久力を備えていた。

WDASの入隊試験を一週間後に控え、カルヴィンは彼女との最後の対決に臨んでいた。汗まみれで息は絶え絶えだったが、剣を高く掲げ、防御の姿勢を崩さずに相手を凝視し続けている。

対するチェンは攻勢を維持し、呼吸も乱さぬまま、隙を伺っていた。

一瞬の瞬き。彼女が前方に躍り出る。カルヴィンは正面からの衝撃をブロックしようとしたが、それが「囮」であることに直前で気づいた。彼女は電光石火の動きで、既に彼の背後を取っていた。

(しまっ……! 完全に誘われた……落ち着けカルヴィン、速く、もっと速く……!)

カルヴィンは反射的に体を捻り、間一髪でチェンの追撃を弾き返した。

チェンは驚きに目を見開き、大きく後方へ飛び退いて距離を取った。

「……今のを合わせるなんて、予想外ね」

カルヴィンは再び守りの構えを取り、彼女と向き合う。

「信じてくれ、僕だって驚いてる」

「身体能力の成長スピードだけは認めてあげるわ」

「……それは、ありがとうって言うべきかな?」

チェンは嘲笑うような笑みを浮かべた。

「褒めてるわけじゃない。メタヒューマンならそれくらいの身体強化は当然よ。でも、そんなもので私に勝てると思わないことね。私は非メタヒューマン(ただの人間)だけど、それでも貴方の上に立っている。……さあ、どうするの、カルヴィン・マドックス?」

カルヴィンの意識が一瞬揺らいだ。チェンはその隙を見逃さず、数ミリ秒の間に新たな連撃を繰り出す。彼は辛うじて防ぐものの、衝撃の強さに後退を余儀なくされた。反撃を試みるが、放つ斬撃のすべてが、チェンの木刀によって片手で軽々といなされていく。

ジファンは固唾を呑んでその攻防を見守っていた。

チェンはカルヴィンの攻撃を弾くと、正確無比な一撃を彼の前腕に叩き込んだ。その衝撃で、カルヴィンの腕は一瞬にして痺れ、麻痺する。

カルヴィンは片膝をつき、木刀が乾いた音を立てて床を転がった。チェンがとどめの一撃を振り下ろすが、彼は動く方の腕で必死にそれを受け止める。そして、横にだらりと垂れ下がった感覚のない腕の痛みを無視し、ゆっくりと立ち上がった。

「『どうする』だって……? 質問がおかしいよ。僕がこの半年、どんな修行をしてきたか知ってるだろ。何度だって、何度だって……何度でも、また挑むだけだ! 覚えておいてくれ、僕は必ず君に勝つ、チェン・ユエチン。今日じゃないかもしれない、明日でも、その次でもないかもしれない……。でも、この言葉だけは忘れないでくれ。僕は、絶対に君を越えると約束する」

チェンは不敵に笑ったが、その瞳には確かな敬意が宿っていた。

「……期待してるわ」

彼女は剣を納め、ジファンの方へ向き直った。

「準備は整ったわ、ジファン」

ジファンは満足げに微笑み、親指を立てた。

「完璧だ! 今夜は最高のご馳走で祝いをしようじゃないか」

突然の稽古終了に、カルヴィンは困惑して尋ねた。

「え……? もう、終わりなの?」

チェンはいつになく穏やかな表情で彼を見た。

「貴方が言ったのよ。今日や明日ではなくても、いつか私を倒すと。貴方の『闘志』は十分に伝わったわ。……貴方に負けるその日を、楽しみに待っている」

カルヴィンは荒い息を整えながら、晴れやかな笑顔を見せた。

「……そんなに長くは待たせないよ」

「いい気にならないで。私はまだ本気を出していないんだから。それに言ったでしょ、私は非メタヒューマンだけど……少なくとも、『最強の人間』になるつもりよ」

チェンが道場の奥へと去っていくと、ジファンがカルヴィンの背中を力強く叩いた。

「よくやった、カルヴィン!」

「痛っ! ……全身ボロボロですよ」

そう文句を言いながらも、カルヴィンの顔から笑みが消えることはなかった。

一方、第12部隊の基地では――。

トーマスは自室のオフィスで、湯気の立つコーヒーカップを手に、退屈を紛らわすように椅子をくるくると回していた。

「……ったく、今日は暇すぎるな。試験まであと少しか。応援にでも行こうかな。俺が直々に激励してやれば、あの子も実力以上の力が出せるかもしれないし……いや、逆に緊張してガチガチになるかもな」

彼は深くため息をついた。

「面倒くせえな……。黙って信頼してやるのが、大人の男ってやつなんだろうが」

その時、ドアを叩くノックの音が響いた。

「入れ!」

入ってきたのは、どこか猫を彷彿とさせる風貌の少女だった。夜の闇を溶かしたような漆黒の髪に、鋭く光る琥珀色の瞳。彼女は被っていたキャップのつばを直すと、落ち着いた口調で告げた。

「失礼します」

「ああ、ニクスか」

彼女の名は、ニクス・ヴァレリウス。第12部隊に所属する、常に礼儀正しく、慎重な隊員だ。彼女は机の上に一冊のファイルを置いた。トーマスはコーヒーカップを置き、報告書を受け取ると、指を舐めてページをめくり始めた。ニクスはその様子をじっと見つめている。

「……よく読んでください」

「何だ、これは?」

「読めばすぐに分かります」

「文字を追うのは俺のスタイルじゃないんだがな」

「ネクタイを真っ直ぐに締めたり、髭を整えたりするのも、あなたのスタイルではないでしょうけど……。進言します。これは、『死の使徒』の信奉者が中央連合セントラル・ユニオン内に潜入しているという証拠です」

その言葉を聞いた瞬間、トーマスは椅子に深く腰掛け、先ほどまでの余裕をすべて失った。

「……クソが」

ニクスは静かに頷いた。

「現時点では、不可解な殺人事件が4件。それともう1件、疑わしいケースがあります。後者については遺体が発見されていないため、中央部隊の捜査官たちも、まだ彼らの仕業かどうか断定できていません」

「この件、他に誰が知っている?」

「殺人事件自体は、誰もが知っています。今の世の中、死者が一人出るだけでも大騒ぎになりますから。ですが、『死の使徒』が関与している可能性に気づいているのは、私たち二人と……あとは一部の法医学者だけです」

トーマスは苛立ちを隠せず、自らの髪を乱暴にかきむしった。

「……慎重に進めるぞ。犯人が『死の使徒』の一味ではない可能性も、まだゼロじゃない」

「了解。法医学者たちとは私から話をつけておきます。……あなたは、どうしますか?」

トーマスは席から立ち上がり、ネクタイを直そうとしたが、その手つきは不器用で、見た目は相変わらず最悪だった。

「月島を探してくる。この一件が、試験に支障をきたすわけにはいかないからな」

トーマスはテレポートの閃光と共にその場を去った。彼の手にあったファイルが床に落ちる。ニクスは小さくため息をつくと、屈んでその書類を拾い上げた。

その夜、カルヴィン、ジファン、チェンの三人は夕食を終えた。カルヴィンは満足げに深く息をついた。

「夕食、すごく美味しかったよ。ありがとう、ジファン」

師匠は穏やかな笑みを浮かべた。

「どういたしまして。明日の試験を控えているんだ、これくらいの持て成しは当然のことさ」

だが、カルヴィンはそこで困惑した表情を浮かべた。

「待って……明日? 試験は四日後だと思ってたけど」

「それは第2段階、つまり最終試験のことだ。明日は登録と第1段階の選別がある」

「第1段階……? それって何をするの?」

「簡単だよ。登録用紙に記入し、君が採用に値する人物かどうかを評価する適性試験を受けるんだ」

失敗するかもしれないという不安が、カルヴィンの胸をよぎった。

「試験か……。正直、準備ができているか自信がないな」

「大丈夫だよ、カルヴィン。君はここで心身ともに鍛え上げてきた。すべては計画通りだ」

チェンがテーブルから立ち上がり、去り際に慎重な口調で尋ねた。

「……明日の試験は、第0部隊の管轄で行われるのですね?」

ジファンは頷いた。

「そうだ。あそこは空気が澄んでいて、すべてが完璧な調和で整っている。僕も好きな場所だよ」

「それなら、早めに準備をして向かいます」

チェンは一礼して、その場を離れた。

まだ少し緊張の抜けないカルヴィンは、皿を片付けながら呟いた。

「チェンはいつも真面目すぎるくらいだけど、実はかなり穏やかな人なんだね。あの禅庭園で感じた安らぎを思い出させるよ」

「あの落ち着きは、彼女の故郷から受け継いだ修養によるものだ。だが、心の中は君と同じ、多感な一人の少女だよ」

「チェンの、故郷……?」

「ああ。小さな村だった。そこで彼女は、お守り(護符)を作ることができるという、極めて独特な才能を身につけたんだ」

「あのお守りが、彼女の力の源なんだね」

「その通りだ。彼女の故郷は、古くから神秘主義と深く結びついていた」

「その村には、何が起きたの?」

ジファンはため息をつき、数秒間沈黙した。いつもの穏やかな笑顔は消え、それが彼にとってどれほど辛い話題であるかは明白だった。

「『死の使徒』によって滅ぼされたんだ……。チェンだけが唯一の生き残りだった。虐殺の翌日、僕が彼女を見つけた。まだ幼い子供だったよ。彼女が経験した惨劇を思うと今でも胸が痛むが、彼女は強く立ち上がった。その可能性を見出した僕は、彼女を孤児院に預けるに忍びなく、弟子にすることに決めたんだ。……それは、僕の人生で最良の決断だったよ」

「そんなこと、全く知らなかった……。そんな、ことが……」

真夜中、セントラルの街路には激しい雨が降り注いでいた。

青い髪をした、気品漂う男が傘を差して歩いている。痩身で、その目は常に閉じられているかのように見え、その表情からは底知れぬ安らぎが漂っていた。

突然、彼は背後に気配を感じた。振り返ると、街灯に背をもたれかけるトーマスの姿があった。

「……やっと見つけたぞ、月島」

トーマスはいつものように、気さくな――だがどこか切迫した口調で声をかけた。

第12部隊の隊長、月島レイ。彼はWDAS随一の捜査官であり、組織を支える柱の一人だ。彼は部下を不思議そうに見つめた。

「トーマス・ブルーフォード。何かあったのか? 私の不在の間は、君に副隊長として部隊を任せていたはずだが」

「実は……『死の使徒』の信奉者が、連合内に潜入している可能性が高い」

月島は思案するように顎に手を当てた。

「なるほど。協力したいところだが、私は試験の審査員を務めている身だ。スケジュールが詰まっている。試験が終わり次第、状況を把握しよう」

「隊長、俺が試験の代役を務めれば、あなたは捜査に専念できる」

トーマスが食い気味に提案した。

「俺の階級なら資格は十分だ。それに、第1部隊入隊に最も近い『英雄』として、俺が審査に加わるのは組織にとっても有益なはずだ」

「残念ながら、それは却下せざるを得ないな」

月島は静かに首を振った。

「君がそれほどまでにカルヴィンを第12部隊に引き入れたいと考えているのなら、君を審査員にはできない。規則上、利害関係のある者が彼を選抜することは許されないからだ。それに……君なら、この程度の問題、一人で十分に対処できると思っていたよ」

トーマスは苛立ちを込めてため息をついたが、すぐに表情を立て直した。

「……了解した。あんたの言う通りだ、月島。俺一人で片付けてやるよ。それでも、進捗は報告させてもらう」

「頼むよ。ところで、私の傘に入らないか? ずぶ濡れじゃないか。二人なら入れる」

「いいや。濡れた髪も、いい男を演出するには悪くないからな」

月島が困惑した表情を浮かべるのを尻目に、トーマスは誇らしげな笑みを浮かべてテレポートで姿を消した。

ファイルが雨に濡れるのも構わずに。

「……シャツが透けて見苦しかったから言っただけなんだがね」

青い髪の男は、独り言のように静かに呟いた。

試験当日。カルヴィン、チェン、ジファンの三人は、威風堂々とした「ユニット・ゼロ」のオフィス前に立っていた。カルヴィンは周囲を見回し、その建物の圧倒的なスケールに息を呑んだ。

「あの……ユニット・ゼロって、具体的にはどんなことをしている部隊なんだ?」

チェンがいつもの冷静な口調で答える。

「ここは組織の指揮・管理部門。つまり、他の実戦部隊では対応できない運営業務のすべてを担っているわ。具体的には、経営戦略から物流の最適化まで……組織の心臓部ね」

ジファンが先頭に立ち、巨大なガラス扉を押し開けた。

「さあ、中に入ろうか」

内部は完璧なまでに整然としていた。カルヴィンの目を最も引いたのは、フォーマルなスーツに身を包んだ、数十人もの瓜二つの少女たちが、寸分の狂いもない連携で働いている姿だった。

カルヴィンは困惑し、目を擦った。

「……僕の目が狂ったのか、それとも全員同じ顔なのか?」

「技術的には、彼女たちは全員同一人物だよ」

ジファンが事も無げに答える。

「え? そんなことあり得るの?」

「彼女の名はサラ・クロノ。自己分裂の能力を持つメタヒューマンだ。彼女たちは一つの意識を共有している。だからこそ、この規模の業務を完璧なシンクロでこなせるのさ」

「なるほど……。とんでもない効率化だね」

そこへ、サラ・クロノの一人が近づいてきた。彼女はサングラスの位置を直すと、抑揚のないプロフェッショナルな口調で告げた。

「第2部隊副隊長、パク・ジファン。本日のご用件は?」

「私の弟子たちが試験の申し込みに来たんだ」

ジファンが落ち着いた口調で答える。二人の間に流れる空気が、一瞬で「仕事モード」に切り替わった。

「承知しました。なお、審査員である貴方は、第2部隊への志願者を選別することはできない規則ですが、異存はありませんね?」

「もちろんだ。……ところで、君は審査員としての仕事をしなくていいのか?」

「問題ありません。事務作業は予定通りに終わらせましたから」

「……どうせ、ろくにチェックもせずに片付けただけでしょう」

別のサラが横から冷たく言い放った。

「貴方たち二人、ついてきて。それからジファン、貴方はさっさと自分の書類仕事を終わらせなさい」

「わかったよ、わかった」

ジファンは降参するように両手を上げた。

「チェン、終わったらすぐに合流する。何かあれば連絡してくれ」

「了解。随時報告する」

ジファンが別室へ去り、カルヴィンとチェンはサラ・クロノの後に続いて試験室へと向かった。

扉を開けた瞬間、一喝の叫び声が静寂を切り裂いた。

「おい、てめえ! 何をじろじろ見てやがる!」

見れば、黄色いモヒカン頭の男が、虚ろな目をした金髪の少女に向かって怒鳴り散らしていた。少女は淡々とした声で返す。

「……あなたの髪型、かなり変わっていると思って」

「あぁん!? これは世界に一つだけの完璧なスタイルだ! お前みたいな変人に理解できるわけねえだろ!」

「モヒカンのデータなら見たことがあるけど、あなたのそれは……特に支離滅裂」

「何だと、コラぁ!?」

男が殴りかかろうとした瞬間、威厳のある声が場を制した。

「そこまでだ。席に着いてくれないか」

モヒカンの男は鼻を鳴らして拳を下ろし、乱暴に座った。少女も同様に席に着く。

「君たち二人にも同じことが言えるよ」

声の主が付け加え、カルヴィンとチェンを促した。二人は急いで隣り合わせに座る。

カルヴィンはチェンに小声で囁いた。

「志願者は……全部で11人のようだね」

チェンは周囲を鋭く観察し、即座に訂正した。

「いいえ、12人よ。暗い隅に誰かが隠れている」

カルヴィンが振り返ると、影の中に一人の男が潜んでいた。その男は、顔の四分の一を覆う異様なマスクを装着していた。

「……あの男、一体どんな印象を与えようとしてるんだ?」

カルヴィンは思わずそう呟いた。

「静粛に」

騒がしかった受験者たちを席に着かせた男が、厳かに命じた。

「皆さん、静かにしてよく聞いてください。自己紹介をさせていただきます。私はライアン・スティール。世界防衛先進協会(WDAS)第11部隊の副隊長です。我が部隊は科学技術の開発と革新を担っています。この試験は、皆さんが我が組織に適しているか評価するため、私自身が考案したものです」

ライアンは手元の書類を整え、話を続けた。

「選考は知力と体力の二部構成だ。本日は諸君の知的能力を測る筆記試験を行う。同時に、登録用紙にも記入してもらう。この用紙は審査員によって分析され、体力試験の合否を左右する重要な材料となる。……一文字たりとも疎かにしないことだ。些細なミス一つが、入隊の機会を永遠に失うことにつながるかもしれない」

「終了した者は、近くのサラ・クロノに提出してください。彼女が別室へ案内し、データベース用の写真撮影を行います。それでは……幸運を。開始してください」

カルヴィンは試験に取り掛かった。まず登録用紙を埋め、それから一問ずつ、慎重に設問と向き合っていった。問題は全部で120問。各部隊に関連した専門的な問いが並ぶ。チェンはとっくに終えて退出していたが、失敗への恐怖と緊張から、カルヴィンが部屋を出たのは最後の一人になった時だった。

「……終わりました」

彼は近くにいたサラ・クロノに歩み寄った。彼女はすべての項目が埋まっていることを確認し、事務的に告げた。

「こちらへ。マドックスさん」

二人は写真室に到着した。カメラとマナスキャナーを備えた別のサラが待機している。

「マークの上に立ってください」

近くの椅子に座っていたライアン・スティールが、カルヴィンの試験用紙をパラパラとめくりながら口を開いた。

「カルヴィン・マドックス……。君は誰よりも解答に時間がかかったようだが。試験は難しかったかね?」

「いえ、そういうわけじゃ……」

フラッシュを浴び、スキャンされながらカルヴィンは答えた。

「ただ、一つ一つの問題に対して、何が本当の正解なのか……じっくり考えたいと思っただけなんです」

「ふむ……実に興味深い」

ライアンは鼻を鳴らした。

「多くの者は直感で即答するが、君は立ち止まって熟考した。……戦場でも、それほど考える時間があればいいのだがな」

処理が終わり、カルヴィンは荷物をまとめて立ち去ろうとした。

「お時間をいただき、ありがとうございました。スティール副隊長」

「礼を言う必要はない。仕事だからな。私はこれをするために給料をもらっている」

カルヴィンは、大きな窓から外を眺めていたチェンのもとへ戻った。

「うわっ……もう日が暮れかけてる。待たせてごめん」

チェンは振り返ったが、その表情は相変わらず真剣そのものだった。

「気にしないで。私は一人でいるのが好きだから」

「……チームワークが求められる組織の試験を受ける人にしては、珍しい台詞だね」

その言葉に、チェンは微かに、本当に微かに微笑んだ。

「チームワークなんて柄じゃないけど。……戦うことでお金がもらえるのは、悪くない点ね」

「試験、受かると思う?」

「12人中、合格はわずか4人。……さっきの影にいた男と、虚ろな目の少女が気になるわね。でも、私は少なくとも3位以内には入る。……いえ、全員に勝つ自信があるわ」

「君ならできるって信じてるよ」

「……カルヴィン。これが、私たちの最後の共闘パートナーシップになるわね」

チェンの言葉は冷徹なほど現実的だった。

「試験では一人一人がライバル。もし二人とも合格しても、配属先は別々でしょう。……今が、別れを告げるのに相応しいタイミングだわ」

カルヴィンは、それが現実であることを理解した。けれど、悲しくはなかった。彼は静かに右手を差し出した。

「別れじゃないよ、チェン。いつだって『次』はある。それに、僕はまだ君に勝たなきゃいけないんだから」

チェンはその握手に応じた。その瞳には、心からの安らぎを湛えた微笑みが宿っていた。

「そうね。……私が死ぬ前に、勝っておいたほうがいいわよ」

「――間違いないね」

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