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第86.5話(番外編) 白銀のゆくえ

番外編のため、追加の1話となります。

20時にもう1話アップします。


 これは、ゆうとリアのお話の、ほんのちょっと未来の出来事。


  街道の果て、名もなき小さな町にある、さらに小さな宿屋。


 客の途絶えた昼下がりのカウンターで、看板娘の少女は掌の上にある「それ」を、うっとりと眺めていた。

 

「……本当に、綺麗」

 

 それは、服のボタンにしてはあまりにも透き通り、ほんのりと内側から銀色の光を放っている不思議なボタン。


 数日前、この宿に泊まった二人組の旅人。


 若いくせにどこか落ち着いた、それでいて少年の面影を残す格好いい男の子と、言葉を失うほどに美しい、銀髪のエルフの女の人。


 二人は一つの部屋を借り、仲睦まじく旅の計画のようなものを話し合っていた。


 少女のたくましい妄想の中では、すでに物語は完成している。

 

(……間違いないわ。あれはどこかの国の王子様が、種族の壁を超えた『禁断の恋』の果てに、お姫様を連れて国を飛び出してきたんだわ! 追手を逃れて、二人で世界の果てを目指しているのね……!)

 

 そんな尊いお方が泊まった部屋の隅に落ちていたのが、このボタンだった。


 きっと、愛の逃避行の最中に、激しい運命に猛まれて――あるいはもっと、甘い理由で取れてしまったものに違いない。

 

「あの二人がまた来るまで、私が大事に持っていてもいいわよね……?」

 

 少女が指先でそのボタンを撫でた、その時だった。

 

「…………?」

 

 視界の端で、何かが動いた。


 カウンターの影から、ひょこりと顔を出したのは、小さな小さな「人」の姿。

 

「……て、あれ? なんだろう……小さな、人? ……あれ!? あなた、物語に出てくる『家の妖精』さん!?」

 

 家事を手伝い、住人に幸運をもたらすと伝承に名高い、伝説の妖精。


 小さな人は、声を発することなく、けれど確かな意思を持って、こくりと無言で頷いた。

 

「あら! 私の宿に妖精さんが来てくれてたなんて! ……もしかして、精霊の魔法を使える素質が私にもあったのかしら? 大変、私の宿が大繁盛してしまうわ!」

 

 少女の期待通り――あるいは、ボタンに宿った「森の長」の加護のおかげか。

 

 それ以降、その小さな宿屋は不思議なほどにいつもピカピカに磨き上げられ、料理の味も格段に上がり、「幸運を呼ぶ宿」として、旅人の間でまたたく間に評判となった。

 

 少女は知らない。


 その妖精が、ボタンに残った魔力に惹かれて住み着いた小さな隣人であることを。

 

 そして、その「王子様」たちが今頃、どこか別の空の下で、新しいボタンをチクチクと縫い付けていることも。

 

 小さな宿屋の繁盛は、遠い日のサバイバルの、小さくて温かいお裾分けだった。

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