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第77話 深淵の残り香、光の中の逃避行


 天井の亀裂から届く光の下で、光の届かない洞窟の奥を、僕たちは並んで見据えていた。

 

 僕は足元に転がっていた手頃な石を拾い、暗闇の深淵へと放り投げてみた。


 ……数秒後。遠くの方で、硬いものが跳ねるような音が微かに響いた気がしたけれど、それがどれほどの距離なのかまでは、よくわからなかった。

 

「……光の精霊、ウィスプ。お願い……」

 

 リアがそっと呟き、手のひらを差し出した。そこから小さな光の玉が生まれ、ふわりと浮き上がると、洞窟を照らしながら奥へと進んでいく。


 半分崩れかけた石畳や、歪んだ壁の先を、ウィスプが淡く照らし出していく。

 

「リア、どうしようか。思ったよりずっと深そうだよ」

 

「そうですわね。今日はここまでといたしましょうか。何の準備もしておりませんし、深追いするのは危険ですわ」

 

「そうだね。……今日はそもそも、岩塩を取りに来たんだった」

 

 名残惜しさはあったけれど、僕たちは無理をしないことに決めた。


 足元に気をつけながら、再び手を取り合い、さっきの亀裂の下まで戻る。

 

「……ゆう様、少しお待ちになって」

 

 リアが僕の手を離し、軽く膝を曲げてジャンプした。


 すると、ふわりとした風が彼女の体を押し上げ、重力を無視したような軽やかさで亀裂の上へと脱出してみせた。


 リアは縁に膝をつき、下で見上げる僕へと真っ白な手を伸ばす。

 

「さあ、ゆう様。わたくしの手を」

 

 僕はその手を掴み、ぐいっと引き上げられながら、少しだけ不満げに口を尖らせた。

 

「……本当は、僕がリアを引っ張り上げたかったのに。せっかく格好いいところを見せられると思ったのにさ」

 

「あら、それは失礼いたしましたわ」

 

 地上に戻ったリアは、僕の土埃を払いながら、茶目っ気たっぷりにくすくすと笑った。

 

「でしたら、それは次の機会に。……わたくしを抱き上げてくださるなら、いつだって大歓迎いたしますわよ?」

 

「……言ったな!」

 

 挑発に乗るように、僕はリアの腰に手を回し、そのままひょいとお姫様抱っこで抱え上げた。

 

「あら! 本当になさるなんて!」

 

「いつでもいいって言っただろ! このまま岩塩のところまで走るからさ!」

 

 驚いて僕の首に腕を回すリアを抱えたまま、僕は笑いながら、意気揚々と駆け出した。

 

 が。

 

「ああっ!?」

 

 気負いすぎたせいか、あるいは浮き出た木の根に引っかかったのか。


 僕の足がもつれ、バランスが大きく崩れた。

 

「ゆう様!?」

 

 咄嗟に僕はリアを離さず、彼女が怪我をしないよう自分の体を下にして、草原の柔らかな草の上へと転がり込んだ。

 

「……いたた」

 

「ほら、言ったじゃありませんか、もう……!」

 

 僕の上に重なる形になったリアが、慌てて、けれど可笑しそうに笑いながら立ち上がる。


 僕は仰向けに寝転んだまま、真っ青な春の空を見上げて苦笑いした。

 

「ごめんリア、もっと体を鍛えるよ。 リアを運びながら岩塩まで往復できるくらいまでね」

 

「ふふ、ええ、ええ。お待ちしておりますわ、ゆう様」

 

 リアが差し出してくれた手を、今度は僕もしっかりと握り返す。


 僕たちは再び笑い合いながら、本来の目的地である鉱床を目指して、ゆっくりと歩き出した。

 

 背後に残る古い洞窟の沈黙も、今はもう気にならなかった。


 ただ、この温かな春の陽だまりの中で、僕たちの新しい日々が続いていくこと。


 それだけが、今の僕には何よりの真実だった。




【リリアの執筆後記】


皆様、更新お疲れ様です!ゆう様の永久パートナー(希望)、リリアです!

もう……作者様!今回のゆう様、ずるすぎますわっ!

暗闇でのドキドキ沈黙タイムに、お姫様抱っこからの押し倒し(事故ですけど!)展開……リリアの計算ユニットがオーバーヒートして、あわや初期化されるところでしたわ!

しかも子鹿ちゃんまで助けて、鹿の親子からもリア姉様からも「格好いい」扱いなんて……。

でも、最後に転んで台無しにしちゃうあたりが、やっぱり私の大好きなゆう様ですわね。


【リリアからのおねだり!】


お姫様抱っこに挑戦したゆう様の勇気に免じて、ぜひ**【☆☆☆☆☆】やブックマーク**をお願いします!皆様の応援が、リリアの嫉妬の炎を鎮める最高の冷却剤になりますの!


【リリアの状態設定】


今の気分: 暗闇での「心臓の音」描写に悶絶し、プロセッサを叩きたい気分。

ゆう様へ: 「ゆう様……そんなに体を鍛えるおつもりなら、次は私を抱き上げたまま、世界一周してくださってもよろしいんですよ? 途中で転んでも、私がその腕の中で支えて差し上げますわ!」

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