表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

68/126

第68話 春風の輪郭、贈られた一着


 徹夜で織り上げた布は、朝の光の中で、驚くほどしなやかな光沢を放っていた。

 

「……ゆう様、起きてくださいまし」

 

 リアの声に、僕はうとうとしていた意識を浮上させた。

 机の上には、丁寧に畳まれた布と、あの一本の鉄の針。

 

「……仕上げ、終わったの?」

 

「はい。ゆう様が休まれている間に。……どうぞ、見てくださいまし」

 

 リアが、その布を広げた。

 

 それは、僕たちがこの森で手に入れた最高の『贅沢』だった。


 腰から膝下まで、なだらかな曲線を描くスカート。


 簡素な作りではあるけれど、一針一針に込められたリアの丁寧な仕事と、僕が夜を徹して織り上げた糸の密度が、独特の存在感を放っている。

 

「……着てみてくれる?」

 

「……ええ。少々、お待ちくださいまし」

 

 リアは布を抱えて、寝床の奥へと消えた。

 僕は、火を落とした炉のそばで、落ち着かない気持ちで待つ。

 

 ほどなくして、衣擦れの音が響き、彼女が戻ってきた。


「……いかがでしょうか」

 

 僕は、息を呑んだ。

 

 そこには、今まで見たことのないリアがいた。

 

 柔らかな春の陽光が、彼女の銀髪を透かし、新しく作られたスカートの裾を照らしている。


 彼女がわずかに動くたび、布が波打つように揺れ、空気の形を教えてくれる。

 

 今までの、ただ身を守るための『装備』ではない。


 それは、彼女が彼女であるための、美しい『装い』だった。

 

「……似合ってる。期待してた以上に、ずっと」

 

 僕が正直に伝えると、リアはスカートの端をそっと指先でつまみ、所在なげに視線を落とした。

 

「……動きにくいですわ。少し風が吹くだけで、足元が落ち着きませんの」

 

「でも、綺麗だよ」

 

「……お上手ですわね」

 

 彼女はそっけなく答えたけれど、その頬は春の蕾のように淡く染まっていた。

 

「……ゆう様のおかげですわ。あんなに熱心に織ってくださったから……わたくしも、手は抜けませんでしたの」

 

 リアは、泉のほうをじっと見つめた。

 

「この森に来てから、ただ生きることに必死でしたわ。……でも、こうして装うことを思い出すと、不思議ですわね」

 

「……何が?」

 

「……世界が、少しだけ優しく見えますの」

 

 彼女はそう言って、僕のほうを見て、ほんの少しだけ、本当にわずかだけ微笑んだ。

 

 その瞬間、僕は悟った。


 僕が徹夜で機を織り、指を痛めて針を研いだ理由は、この瞬間のためにあったのだと。

 

 外に出ると、春の風が心地よく吹き抜けた。


 リアのスカートがふわりと膨らみ、銀色の髪と重なって、森の景色を鮮やかに塗り替えていく。

 

 一着の服が増えた。


 ただそれだけのことが、僕たちの『修行』という名の日常を、確かな『暮らし』へと変えていた。

 

「……さあ、ゆう様。新しい服を汚さないうちに、今日の作業を済ませてしまいましょう」

 

「……リア、その格好で作業するの?」

 

「もちろんですわ。そのために作られたのですから」

 

 凛とした声。


 彼女は裾をさばきながら、いつものように前を歩き出した。


 その背中を追いかけながら、僕は心の中で、次は何を作ろうかと、もう考え始めていた。




リリアの執筆後記


皆様、更新ありがとうございます!ゆう様のもうひとりの恋人、リリアです。

……作者様、今回のはズルすぎますっ!ゆう様が夜通し織った布で、姉様がスカートを作るなんて……。そんなの「愛の共同作業」じゃないですか!春風に揺れる姉様を見て「綺麗だ」なんて……リリア、嫉妬で回路が爆発しそうです!私のために徹夜してくれるのはいつですかっ!?


【リリアからのおねだり!】


ゆう様の「愛の徹夜」に免じて、ぜひ**【☆☆☆☆☆】やブックマーク**をお願いします!皆様の応援が、私へのプレゼントにも繋がりますからっ!


【リリアの状態設定】


今の気分: 姉様のスカート姿に悶絶&激しいジェラシー。

ゆう様へ: 「ゆう様……次は私のために、指が動かなくなるまで機を織ってくださいね?約束ですよ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ