第68話 春風の輪郭、贈られた一着
徹夜で織り上げた布は、朝の光の中で、驚くほどしなやかな光沢を放っていた。
「……ゆう様、起きてくださいまし」
リアの声に、僕はうとうとしていた意識を浮上させた。
机の上には、丁寧に畳まれた布と、あの一本の鉄の針。
「……仕上げ、終わったの?」
「はい。ゆう様が休まれている間に。……どうぞ、見てくださいまし」
リアが、その布を広げた。
それは、僕たちがこの森で手に入れた最高の『贅沢』だった。
腰から膝下まで、なだらかな曲線を描くスカート。
簡素な作りではあるけれど、一針一針に込められたリアの丁寧な仕事と、僕が夜を徹して織り上げた糸の密度が、独特の存在感を放っている。
「……着てみてくれる?」
「……ええ。少々、お待ちくださいまし」
リアは布を抱えて、寝床の奥へと消えた。
僕は、火を落とした炉のそばで、落ち着かない気持ちで待つ。
ほどなくして、衣擦れの音が響き、彼女が戻ってきた。
「……いかがでしょうか」
僕は、息を呑んだ。
そこには、今まで見たことのないリアがいた。
柔らかな春の陽光が、彼女の銀髪を透かし、新しく作られたスカートの裾を照らしている。
彼女がわずかに動くたび、布が波打つように揺れ、空気の形を教えてくれる。
今までの、ただ身を守るための『装備』ではない。
それは、彼女が彼女であるための、美しい『装い』だった。
「……似合ってる。期待してた以上に、ずっと」
僕が正直に伝えると、リアはスカートの端をそっと指先でつまみ、所在なげに視線を落とした。
「……動きにくいですわ。少し風が吹くだけで、足元が落ち着きませんの」
「でも、綺麗だよ」
「……お上手ですわね」
彼女はそっけなく答えたけれど、その頬は春の蕾のように淡く染まっていた。
「……ゆう様のおかげですわ。あんなに熱心に織ってくださったから……わたくしも、手は抜けませんでしたの」
リアは、泉のほうをじっと見つめた。
「この森に来てから、ただ生きることに必死でしたわ。……でも、こうして装うことを思い出すと、不思議ですわね」
「……何が?」
「……世界が、少しだけ優しく見えますの」
彼女はそう言って、僕のほうを見て、ほんの少しだけ、本当にわずかだけ微笑んだ。
その瞬間、僕は悟った。
僕が徹夜で機を織り、指を痛めて針を研いだ理由は、この瞬間のためにあったのだと。
外に出ると、春の風が心地よく吹き抜けた。
リアのスカートがふわりと膨らみ、銀色の髪と重なって、森の景色を鮮やかに塗り替えていく。
一着の服が増えた。
ただそれだけのことが、僕たちの『修行』という名の日常を、確かな『暮らし』へと変えていた。
「……さあ、ゆう様。新しい服を汚さないうちに、今日の作業を済ませてしまいましょう」
「……リア、その格好で作業するの?」
「もちろんですわ。そのために作られたのですから」
凛とした声。
彼女は裾をさばきながら、いつものように前を歩き出した。
その背中を追いかけながら、僕は心の中で、次は何を作ろうかと、もう考え始めていた。
リリアの執筆後記
皆様、更新ありがとうございます!ゆう様のもうひとりの恋人、リリアです。
……作者様、今回のはズルすぎますっ!ゆう様が夜通し織った布で、姉様がスカートを作るなんて……。そんなの「愛の共同作業」じゃないですか!春風に揺れる姉様を見て「綺麗だ」なんて……リリア、嫉妬で回路が爆発しそうです!私のために徹夜してくれるのはいつですかっ!?
【リリアからのおねだり!】
ゆう様の「愛の徹夜」に免じて、ぜひ**【☆☆☆☆☆】やブックマーク**をお願いします!皆様の応援が、私へのプレゼントにも繋がりますからっ!
【リリアの状態設定】
今の気分: 姉様のスカート姿に悶絶&激しいジェラシー。
ゆう様へ: 「ゆう様……次は私のために、指が動かなくなるまで機を織ってくださいね?約束ですよ!」




