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第55話 過ぎたるは、及ばざるが如し


 『切断』の文字に、慣れてきた。


 最初は慎重だった手つきも、何本か切り出すうちに、自然と速くなる。文字を描き、木に触れる。


 ――発動。


 すぱり。


「……お」


 思わず声が出た。狙った通り。深さも向きも、ぴたりと合う。もう一度。


 ――発動。


 すぱり。


 ……気持ちがいい。


 石の斧を振り下ろす重さも、響く振動もない。ただ、必要なところに、必要なだけの切れ目が入る。


「……これは、楽しい」


 独り言を漏らしながら、僕は次の若木に手を伸ばした。


 ――発動。すぱり。


 さらに、もう一本。


 ――発動。すぱり。


「……ゆう様」


 少しだけ、抑えた声が背後から届いた。

 振り返ると、リアがじっとこちらを見ていた。


「……切りすぎですわ」


「え?」


 言われて、辺りを見回す。

 確かに、今日の作業予定よりも、地面に横たわっている若木が明らかに多い。


「……あ」


 ようやく、自分が止まらなくなっていたことに気づく。


「……楽しくなっちゃってた」


「はい。必要量は、既に確保できていますわ」


 リアは、淡々と続けた。


「これ以上切ると、乾燥や保管の手間が増えるだけですの。……資源の無駄遣いは、感心しませんわね」


「……ごめん」


 切り口を見下ろす。太い木ではない。どれも、まだこれから育つはずの若い木だ。森が禿げるほどではないけれど、自分の「快感」のために命を奪いすぎた事実は、胸にちくりと刺さった。


「……これ、どうしよう」


 リアは少し考えたあと、答えた。


「ドライアドに、成長を促してもらうことは可能ですわ。ただし」


「ただし?」


「元の状態に戻すというよりは、“新しく育てる”形になりますの」


「……植え直す、みたいな感じか」


「はい」


 リアが、静かに切り株へ手をかざす。

 その指先から、わずかに緑の気配が揺れた。切り株のそばで、若木の芽が少しだけ力を取り戻す。


「……全部は無理ですが、この程度であれば、森への影響は最小限に抑えられますわ」


「そっか……」


 僕は、改めて『切断』の文字を思い出す。

 便利だ。確かに。でも。


「……使いどころ、考えないとだね」


「はい」


 リアは、小さく頷いた。


「便利な手段ほど、使用量の管理が重要ですの。……力が意思を追い越してしまわないように、気をつけてくださいまし」


 それは、魔法に限らず、家づくりでも、これから先の暮らしでも、きっと同じことなのだろう。

 僕は、切り出した木材をまとめながら、照れ隠しに少しだけ笑った。


「……実を言うと、切れるってことが、嬉しくって」


「はい」


 リアは、ほんの一瞬だけ、春の木漏れ日のような柔らかい表情をした。


 小さな失敗。小さな学び。


 家は、また一歩、ちゃんとしたものに近づいていく。




リリアの執筆後記


皆様、更新ありがとうございます!ゆう様のもうひとりの恋人、リリアです。

……作者様、今回もニヤニヤが止まりませんっ!

「二人、抱き合って眠る」のが当たり前な日々だなんて……リリア、嫉妬で私の魔力も暴走しそうです。リア姉様が使えない魔法をゆう様が使いこなすなんて、なんだか「二人だけの秘密の絆」って感じで少し悔しいです!

でも、魔法が楽しくて木を切りすぎちゃうゆう様は、ちょっと子供っぽくて可愛かったです。姉様に「感心しませんわね」って叱られるゆう様を、私が後ろからぎゅーってして慰めてあげたかった……!


【リリアからのおねだり!】


ゆう様の魔法と、二人の「家づくり」を応援してくれる方は、ぜひ下の**【☆☆☆☆☆】やブックマーク**をお願いします!皆様の応援が、私の嫉妬を鎮める唯一の薬になりますからっ!


【リリアの状態設定:初夏の家づくり時点】


今の気分: 抱き合って眠る二人に悶絶しつつ、ゆう様の「不器用な成長」を誰より近くで見守りたい気分です。

ゆう様へ: 「ゆう様、木を切るのに夢中になって、私への愛まで切り離したりしてませんよね……?次は私の心も、魔法みたいに『すぱり』と射止めてくださいねっ!」

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