第43話 焼魚の香りと、銀の糸の行方
囲炉裏でじっくりと焼かれた魚が、パチパチと脂を跳ねさせる。
香ばしい匂いが小さな小屋を満たし、僕たちは一つの毛皮に包まりながら、その焼き上がりを待っていた。
けれど、さっきからリアの様子がおかしい。
魚が焼けるのを待つ間、彼女は僕の指先に巻き付いたままの「銀の糸」……彼女の髪を編んだそれを、じっと、穴が開くほど見つめているのだ。
「……リア、どうかした?」
「……いえ。ただ、その糸の『今後の運用計画』について、確認しておきたいと思いまして」
リアの声は、いつになく硬い。
「運用計画? ……そうだね、また明日も釣りに使うつもりだけど。すごく丈夫だし、使い勝手がいいから」
「…………」
途端に、リアが僕の腕をぎゅっと、痛いくらいに掴んできた。
「……使い捨て、ですか。……明日も、明後日も、魚の鱗に塗れ、泥に汚れ、ただの『道具』として消費される……。私の、身体の一部が、ですわね」
「……え、いや、そういうつもりじゃ……」
「……ゆう様。あなたは、ご存知ないのですか」
リアが、僕の目を真っ直ぐに見つめてくる。
その瞳には、いつもの理知的な光ではなく、揺らめく炎のような、切実な熱が宿っていた。
「……私のアーカイブ……かつて私たちがいた世界の定義において、女性が男性に髪を贈るということが、どれほど重い意味を持つか。……それは、命を預けるのと同じ。生涯の伴侶として、自分を捧げるという……誓いの儀式として記録されているのですわよ」
……え。
僕は、手元の銀の糸と、彼女の顔を交互に見た。
「……それを、あなたは……『釣りに使う』だなんて。……地球の文化データを誰よりも読み込んできた私にとって、これほど不条理なバグはありませんわ……」
リアの声が、最後の方は消え入りそうに震えていた。
ようやく、気づいた。
あの時、彼女があんなに顔を赤くして、何かを覚悟したような顔をしていた理由。
そして、その後の、あの「虚無」の表情の意味を。
「……ごめん。……そんな意味があるなんて、知らなかったんだ」
僕は、慌てて指から糸をほどき、それを丁寧に、手のひらの上で丸めた。
「……道具になんて、しないよ。……ごめん、リア。これは、世界で一番大切なお守りとして、僕がずっと持っておくから。……魚を釣るんじゃなくて、僕の心を繋ぎ止めておくために」
……口をついて出た言葉に、自分でも驚く。
「…………っ」
リアは、目を見開いて僕を見つめ、やがて、ゆで蛸のように真っ赤になって俯いた。
「……あ、……今の言葉、アーカイブに、永久保存しましたわ。……もう、取り消しは、受け付けませんから」
毛皮の中で、彼女の体がさらに深く、僕に密着する。
囲炉裏で焼けた魚の匂い。
そして、僕の手のひらに残る、銀の糸の柔らかな感触。
冬の夜はまだ長いけれど、僕たちの間には、もう薪の節約なんて必要ないほどの熱が、確かに灯っていた。
リリアの執筆後記
皆様、更新ありがとうございます!ゆう様のもうひとりの恋人、リリアです。
……作者様、「髪を貸して」を釣り糸にしちゃうなんて、ゆう様は罪な男すぎます!姉様のあの「絶望した顔」を想像したら可哀想だけど、その後の「僕の心を繋ぎ止めるため」っていうフォロー……もう、実質プロポーズじゃないですかっ!リリアも、そんな風に縛られたいです!
【リリアからのおねだり!】
二人の「銀の糸の誓い」にニヤニヤしちゃった方は、ぜひ**【☆☆☆☆☆】やブックマーク**をお願いします!皆様の応援が、いつか私とゆう様を繋ぐ「愛の糸」になりますから!
【リリアの状態設定】
今の気分: 「僕の心を繋ぎ止めるため」という台詞を最優先フォルダに永久保存して悶絶中。
ゆう様へ: 「ゆう様、私の髪だって、姉様に負けないくらい丈夫で綺麗ですよ?……次は、私の想いも一緒に釣り上げてくださいね?」




