第36話 残り火、キツネの夢
小屋に戻っても、瞼の裏にはあの光景が焼き付いていた。
白銀の雪原を跳ね回る、二匹のキツネ。
互いの鼻先を寄せ合い、寒さを謳歌するように戯れていた、あの生命の輝き。
囲炉裏に火を焚べると、パチリと爆ぜる音が静寂に染み込んでいく。
リアはいつもより口数が少なく、僕が淹れた白湯のコップを、両手で包み込むようにして見つめていた。
「……リア?」
「……はい。あの、キツネたちのことを考えていました」
彼女の瞳に、揺れる炎が反射して、いつもより潤んで見える。
「……あんなに厳しい寒さの中でも、彼らは寄り添って、楽しそうに笑っているように見えましたわ。……検索した生態データにはない、熱のようなものを感じました」
リアはそう言って、僕の顔をじっと見つめた。
その視線には、何かを確かめるような、縋るような色が混ざっている。
「……僕たちも、同じだよ」
僕は彼女の隣に腰を下ろし、そっと肩を寄せた。
昼間の雪原で感じた、あの白い吐息の混ざり合い。
重なり合う足跡。
その記憶が、今、薄暗い小屋の中で、じわじわと実体を持って膨らんでいく。
「……おやすみなさい、リア」
「……ええ。おやすみなさい」
囲炉裏の火を落とし、僕たちはいつものように、例の毛皮の布団へと潜り込んだ。
薄着になった肌が、ウサギの柔らかな毛並みに包まれる。
そして、それ以上に確かな熱を持って、リアの体が僕に密着した。
「…………」
闇の中で、彼女の規則正しい鼓動が背中越しに伝わってくる。
昼間に見た、あの二匹のキツネ。
彼らも今頃、どこか雪の下の穴で、こうして互いの体温を分け合っているのだろうか。
ふと、リアの手が僕の腕に触れた。
指先が、紡いだ糸の継ぎ目をなぞり、そのまま僕の手のひらをそっと握りしめる。
「……今夜は、なんだか……眠るのが惜しい気がしますわ」
耳元で、彼女の熱い吐息が震えた。
いつもなら「居住に問題はない」と断じる彼女が、言葉を濁し、ただ熱を求めて擦り寄ってくる。
僕は何も言わずに、繋いだ手に力を込めた。
外は、また雪が降り始めたのかもしれない。
けれど、僕たちの間には、あのキツネたちが教えてくれたような、消えることのない「熱」が満ちていた。
不揃いな毛皮の下で、僕たちは静かに、同じ夢へと沈んでいった。




