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第34話 新しい夜、重なる体温

 

 家の中は、外よりもずっと静かだった。


 壁は、枝と土を組み合わせただけの簡素なもの。

 隙間は、苔と粘土で塞いである。

 完璧じゃない。

 けれど、風は入らない。

 中央の囲炉裏は小さく、火は弱く保たれている。

 煙は、天井の隙間からゆっくり抜けていく。

 

「……だいぶ、家っぽくなったね」

 

 そう言うと、リアは室内を見回した。

 

「はい」

 

「居住に、問題はありません」

 

 相変わらずの言い方だけど、否定じゃないと分かる。

 

 寝床の上には、何枚も縫い合わせたウサギの毛皮。

 一枚一枚は小さい。形も、揃っていない。

 それでも、丁寧につなげた痕がある。

 毛並みの向きを揃え、重なりが偏らないように。

 

「……苦労したね」

 

 そう言うと、リアは少しだけ視線を逸らした。

 

「……はい。ですが、効果は十分です」

 

 毛皮を持ち上げると、ずっしり重い。


 そして――あたたかい。


 枯れ葉と草の上に敷いた、布の上から被る。

 冷えが、はっきりと遮断される。

 僕は、日中まで着込んでいた厚い外衣を脱ぎ捨てた。

 薄いシャツ越しに、直接、毛皮の柔らかな重みが伝わってくる。

 

「……これなら、夜も大丈夫だね」

 

「はい」

 

 リアは、当たり前のように言った。

 彼女もまた、重い外套を脱いで、僕と同じように薄着になっていた。

 寝床に入る。

 毛皮を引き寄せ、二人で潜り込む。

 隙間は、ない。

 体温が、そのまま閉じ込められる。

 リアが、自然にこちらへ寄ってくる。


「……あたたかいです」


「……うん」


 背中に、ぴたりと触れる感触。

 厚着をしていた昨日までとは違う、彼女のしなやかな体のラインが、直接僕の背中に伝わってきた。

 

 毛皮越しでも、互いの拍動が分かる。

 外では、風が鳴いている。でも、ここには届かない。

 囲炉裏の火を落とし、闇が満ちる。


 リアが耳もとで囁くように言った。

 

「今夜も、致しますか?」

 

 そう聞かれて、僕は何も答えない。


 ただ、毛皮の中で、彼女の熱を帯びた肩を静かに抱き寄せた。

 

 指先が、僕たちが今日紡ぎ、縫い合わせた糸の継ぎ目に触れる。


 不格好で、不揃いな、僕たちの冬の証拠。


 それはもう、昨日までの僕たちとは違う。

 この家で、この冬を越えていくための――。

 

 新しく始まった、僕たちの夜だった。

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