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EVE〜終末世界の整備兵〜  作者: 灰猫J
第一章 焦土と共に
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第3話 観測者の目

 アストラ・ヴィレルガンは、軽口を叩く女だった。


 無駄話が好きという意味ではない。むしろ、彼女はゼロ大隊の中でもかなり口数の少ない部類に入る。必要な報告は必要なだけ。判断は速く、感情は整理され、余計な衝突を避ける術を心得ている。だからこそ、ときおり口をついて出る皮肉やぼやきは、彼女なりの緩衝材のようなものだった。


 セラフィナの出力事故に対する愚痴も、その一つにすぎないはずだった。


 整備兵がまた三人潰れた。補充申請が面倒だ。書類が増える。誰がこんな仕事を好き好んでやるものか。そういう愚痴は、ゼロ大隊にいれば日常の範囲に収まる。戦場帰りのロクサーヌに通信を繋ぎ、副官として必要な確認を行い、ついでに少しだけ不満を漏らす。それだけのはずだった。


 だが、その通信の中で、ロクサーヌは明らかに一度、沈黙した。


 アストラはそれを聞き逃さなかった。


 ゼロ大隊の観測者であり、部隊の目である彼女にとって、沈黙は情報だった。声の揺れ、呼吸の間、返答までのわずかな空白。狙撃に必要なのは視力だけではない。目に映る前の変化を読む力だ。風の癖、地形の歪み、標的が動く予兆。アストラはその手の微細な違和感を拾うことに長けていた。そしてロクサーヌ・ヘルストームほど、普段の思考が言葉ににじみにくい女の変化は、逆にほんの僅かな乱れであっても際立つ。

 通信越しに彼女が口にしたのは、「新しい整備兵に少し心当たりがある」という、実に曖昧な一言だった。


 普通なら、そこで終わる。


 戦場には無数の兵士と整備兵と避難要員がいる。ロクサーヌがその中の誰かを見たところで、それが何になる。せいぜい偶然目についた、程度の話だ。実務上の優先順位でいえば、セラフィナの出力事故の後始末の方がはるかに重い。


 だがアストラは、その曖昧さを軽く扱わなかった。

 ロクサーヌが「わからない」と口にしたからだ。

 それは珍しい。あまりにも珍しい。ロクサーヌは、自分の中で答えが出ていないものをわざわざ外へ出す女ではない。言う時は、すでに撃つべきか、捨てるべきか、守るべきかを決めた後だ。そんな女が、自分でも説明のつかない違和感を、そのまま副官へ投げてきた。


 それだけで充分だった。

 アストラは直感した。

 あの「名前も知らない整備兵」は、ただの気まぐれでは終わらない。


 理由は説明できなかった。だが、観測者の勘がそう告げていた。ロクサーヌが何かを感じ取った相手。その存在は、うまく取り込めば、いずれゼロ大隊の運用に何らかの変化を持ち込む可能性が高い。良い変化か、悪い変化かはまだわからない。けれど、何も起きない相手ではないはず。


 ならば見つけるべきだ。

 観測とは、起きたことを記録するだけではない。起きる前の兆しを押さえ、未来の線を一つでも多く握ることだ。アストラは回線を切った直後、すぐに端末を開いた。


     *

 ゼロ大隊解析室は、基地中枢のさらに奥にあった。

 重厚な防壁に囲まれた半地下区画。外光は入らず、常時稼働する戦術演算機群の低い駆動音が空気そのものを震わせている。壁面全面を覆う投影パネルには、各防衛線都市のリアルタイム観測図、災骸出現予測、兵装稼働率、要員消耗率、補給線の維持状況が幾層にも重なって表示されていた。一般の兵士が入れば息苦しさを覚える種類の部屋だったが、アストラにとっては最も落ち着く場所の一つだった。


 彼女は認証キーを走らせ、第18防衛区の現地戦闘記録と要員データを同時に開く。

 条件は少ない。

 下級整備兵。20代後半前後。男性。戦闘発生時、西避難区画から市街戦移行線にかけて所在。派手な特徴なし。

 馬鹿げたほど広い条件だ。

 第18防衛区だけで、1万人以上の隊員が所属している。防衛兵、砲撃兵、機甲兵、航空支援、整備兵、輸送要員、通信士、衛生兵、避難誘導補助、民生協力員。そこから「下級整備兵」「20代後半」「現場にいた男」と絞っても、母数はまだ膨大だった。


 アストラは眉一つ動かさず、検索条件を切り替える。

 戦闘当日の認証タグ移動記録。負傷者一覧。現場監視カメラの画像解析。避難路誘導要員の一時配置変更。兵站区画から西第三避難路周辺に出た整備兵。さらに、戦闘終結後にロクサーヌの着地点周辺へ接近した人員。

 絞れそうで、絞れない。

 数百人単位まで削っても、なお決め手がない。

「……面倒」

 アストラは独り言のように呟いた。

 しかし、その声音に本気の苛立ちは混じっていない。むしろ彼女は少しずつ確信を強めていた。これだけ曖昧な痕跡しか残らない相手を、ロクサーヌがわざわざ気にしたのだ。ならば、いっそ現地へ行った方が早い。

 翌日、アストラは輸送機の手配を取った。


     *

 第18防衛区は、前日の戦闘痕がまだ生々しく残っていた。

 外縁防壁の一角は応急補修材で無理やり塞がれ、市街側の通りには焼けた舗装と瓦礫がまだ積み残されている。砲撃で砕けた建物の骨組みが黒く突き出し、道路脇には災骸残滓の除染剤が白く撒かれていた。勝った戦場の景色ではない。負けきらなかっただけの景色だ、とアストラは思う。


 司令部庁舎へ降り立つと、防衛区司令官がすぐに出迎えた。

 ラザルス・オオトリ大尉。50代前半。長く地方防衛区を渡り歩いてきた叩き上げの司令官で、上官に対する礼儀は完璧だが、ゼロ大隊に対してだけは微妙な距離感を崩さない男だった。歓迎というより緊張が先に立つ笑顔を浮かべ、アストラへ敬礼する。


「アストラ・ヴィレルガン少佐。まさか直々に来られるとは思いませんでした」


「私も、できれば来たくはなかったわ」


 アストラは平然と返した。


「ただ、人を探してるの。調査協力をお願いしたい」


 司令官は一瞬だけ目を瞬かせたものの、すぐに表情を引き締める。


「もちろんです。ゼロ大隊の要請なら全力で対応します」


 それは半分本音で、半分は警戒でもあった。ゼロ大隊が人を探す理由など、たいていろくでもない。引き抜きか、尋問か、運用試験か、あるいはもっと別の事情か。ラザルスにはわからない。だが詮索しないのが賢明だともわかっていた。


 アストラは簡潔に条件を伝えた。

 下級整備兵。男性。20代後半。戦闘当日、市街避難誘導補助に出ていた可能性が高い。ロクサーヌ着地地点の近傍にいた。


 ラザルスは即座に人員を動かした。記録班、整備局、避難運用班、監視解析室。だが、結果は芳しくない。

 整備兵だけで候補が多すぎる。

 「派手な特徴がない」という条件が、逆に致命的だった。顔認証も、戦場での煤や防塵マスク、姿勢の崩れで精度が落ちる。複数の候補映像を見ても、どれも似たような若い男たちに見えた。疲れた顔、油に汚れた作業服、現場で酷使される者特有の無精さ。記録上の人物像は、どれも凡庸の域を出ない。


 一日目が潰れた。

 二日目も進展はない。

 三日目には、さすがのラザルスも申し訳なさそうに言った。

「少佐、現場映像だけでは限界があります。戦闘時の再配置が多すぎて、紙記録と実際の所在が噛み合わない」


「でしょうね」


 アストラは短く答えた。苛立ちはしていない。むしろ、現地の混乱が普通だと思っている。戦場は整理された帳簿で動かない。記録とは、後から辛うじて貼り直したラベルにすぎない。

 問題は、そのラベルのどこにも、ロクサーヌが気にした青年が浮かび上がってこないことだった。


 四日目の夕刻、アストラはついに見切りをつけた。

 これ以上ここで記録を(さら)っても効率が悪い。いったんゼロ大隊の解析室へ戻り、全体データから別の切り口で洗い直した方がいい。ラザルスへ礼だけ告げ、輸送機へ向かう。今回の調査は不首尾。そう結論づけかけた、その時だった。


 輸送機の格納区画で、整備班の男たちが話しているのが耳に入った。


「……だから、あいつがいないと第三区画の冷却系、またズレるって」


「でもイーサンは今、西側の予備機見てるだろ」


「知ってる。けどあいつ、昨日も夜通しで補正入れてたぞ。あの精度、ほんと気味が悪いくらいだ」


 アストラの足が止まる。


 物陰越しに見えたのは、輸送機の脚部点検をしている2人の整備兵だった。片方は中年。もう一人は若いが、階級章からしてイーサン本人ではない。


「気味が悪いは言い過ぎだろ」


「いや、でもそうだろ。災骸反応の侵食癖まで先読みしてるみたいな調整するじゃねえか。あいつが触った兵装だけ、再生持ち相手の持久戦で妙に粘るんだよ」


「ハロルド、お前それ本人に言ったか?」


「言えるかよ。あいつ、褒めても『たまたまです』しか返さねえし」


 アストラはそこで完全に立ち止まった。


 イーサン。

 気味が悪いほどの精度。

 災骸反応の侵食癖を先読みしているような調整。


 まるで、散らばっていた欠片がいきなり一つの像を結び始めたようだった。

 アストラは歩み寄る。二人の整備兵がぎょっとしたように背筋を伸ばす。ハロルドと呼ばれた男の顔には見覚えがなかったが、それでも充分だった。

「今の話、もう一度聞かせて」

 静かな声だったが、拒否の余地はなかった。


     *

 アストラがゼロ大隊解析室へ戻ったのは、その日の深夜だった。

 輸送機格納区画で聞き出した情報は断片的だったが、決定打としては充分すぎた。イーサン・クローク。29歳。第18防衛区整備局所属、下級整備兵。士官学校卒業後、一貫して殲滅兵装整備に従事。戦果報告書に目立つ記載はなし。勲功章なし。表彰歴もごく平均的。上官評価は「実直」「協調性あり」「規律良好」「前へ出る性格ではない」。まるで教本の端に挟まれた薄い栞みたいな経歴だった。


 だがアストラは、その薄さの中に異物を見つける。

 調べれば調べるほど、不自然なのだ。


 整備記録に残る数値は地味だ。劇的な新技術の導入もない。規定を逸脱した改造もない。だが、彼が最終調整に関わった機体だけ、稼働安定性と継戦時間が統計上、明らかに上振れている。しかもその上振れ方が、単純な誤差ではない。災骸の再生速度、外殻硬度変化、熱侵食の傾向、戦闘中に生じる微細な共振癖――そうした「現場でしか出ない歪み」に対して、まるで先回りしているような調整が入っている。


 アストラは複数の兵装ログを重ねた。

 冷却循環圧の補正式がわずかに独特だ。通常整備兵なら教本どおりの安全域へ寄せる箇所を、イーサンはぎりぎり一歩だけ外している。その一歩が、災骸戦における持久性を異様に伸ばしていた。可動フレームの遊びも同じだ。普通なら均一化する誤差を、彼はむしろ「揺らぎ」として残している。その揺らぎが、災骸の打撃や再生衝撃で生じる変則振動を受け流していた。


「……何これ」


 アストラは思わず呟いた。

 感嘆が混じっていた。

 これは偶然で積み上がる領域ではない。理論だけでも足りない。現場経験だけでも届かない。災骸という存在の、あまりにも歪な本質を、感覚として理解していなければ辿り着けない精度だった。

 災骸は単なる巨大生物ではない。再生し、侵食し、表層の損壊を前提に戦い、兵装側の熱や振動にまで干渉してくる。つまり対災骸整備とは、機械だけを見ていては成立しない。相手の異常さを知らなければ、正しい整備に見えるものが戦場では裏目に出る。


 イーサン・クロークは、それを知っている。


 正式な研究論文を持たず、特別な表彰も受けず、ただ整備ログの隅で、誰にも気づかれないまま。

 アストラは次々にデータを開いた。C級兵装。B級補助兵装。現場改修記録。整備後の損耗率推移。第18防衛区における防衛線維持率。事故率。部隊の生残率。いずれも劇的な差ではない。しかし一定期間でならせば、結論は異様なほどはっきりしていた。


 イーサンが触れたラインだけ、落ちにくい。

 均衡が崩れにくい。

 戦線が一歩だけ長く保たれる。


 それは英雄的戦果ではない。むしろ目立たない。だが、防衛線というものは、その「一歩」で生き延びる。砲座があと三分保つ。冷却系がもう一回転耐える。可動フレームが最後の突撃で折れない。その積み重ねが、都市ひとつの存続を左右する。

 第18防衛区がここまで持ちこたえているのは、指揮官の手腕だけでも、装備更新だけでもない。

 イーサン・クロークという一整備兵の手が、陰で均衡を縫い止めているからだ。

 そう言っても、誇張ではなかった。

 アストラは背もたれに深く身を預け、天井を仰いだ。


「……ほんとに、見つけたのね」


 言葉はロクサーヌへ向けたものだった。

 あの女の直感はときどき、観測や理屈を追い越す。アストラはそれを知っている。戦場で、ロクサーヌは理性より少し先に「撃つべき場所」を感じ取ることがある。だから強い。だが今回のそれは、もっと静かな直感だった。戦場の喧騒の中で、一人の下級整備兵の本質を嗅ぎ取った。名前も知らず、経歴も知らず、ただ一度目が合っただけで。


 そして、その直感は正しかった。

 正しすぎるほどに。


 アストラは思わず笑いそうになった。呆れと感嘆が半々だった。ロクサーヌ・ヘルストームという女は、どうしてこう、肝心なところで獣みたいに鋭いのか。


 端末の画面には、イーサンの顔写真が映っている。

 平凡だった。

 本当に、驚くほど平凡だ。大勢の整備兵の中へ放り込めばすぐに埋もれる。精悍すぎるわけでもなく、威圧感もなく、いかにも前に立つ人間の顔ではない。経歴も空白が多い。生い立ちを辿ろうとしても、施設育ち、家族情報不明、後見記録なし。まるで過去そのものが薄く削られているような記録だった。

 GDFでの功績も凡庸。いや、凡庸に見えるよう処理されている、と言った方が近いかもしれない。目立つ項目が一つもない。そのくせ、数字の底だけが異様に強い。


 アストラは改めて整備ログへ目を戻した。

 神がかっている、と思った。

 そうとしか表現しようがない。整備とは本来、技術だ。知識と経験と手順の積み上げだ。だが時に、その先へ踏み込む者がいる。工具の一回転、圧の半目盛り、配線の束ね方、熱の逃がし方、その全てに理屈では掬いきれない「正しさ」を宿す者。戦場では、そういう人間がいるだけで兵器の機嫌が変わる。

 イーサンは、その類だった。

 しかも凡庸を装ったまま、その境地へ達している。

 災骸の本質を理解した者しか届けない精度。自分が何を見ているのか、本人がどこまで自覚しているのかすら怪しい。だが、だからこそ恐ろしい。天賦とは、本人が無自覚な時ほど純度が高い。

 アストラは、珍しく素直に感心した。


「もったいない、なんてもんじゃないわね……」


 こんな人材を第18防衛区の片隅に置いたままにしているのは、ほとんど損失だ。あの精度がゼロ大隊に入ればどうなる。ロクサーヌのフレーム、アストラの狙撃支援系、セラフィナの過剰出力兵装、アイリスの近接骨格、ノクティアの夜戦機構。癖の塊みたいなあの部隊の兵装群を、もしこの男が正確に扱えるなら――。


 戦力の質そのものが変わる。


 継戦能力が伸びるだけではない。ゼロ大隊の「壊れる前提」の運用が、初めて「持たせる」という方向へ触れるかもしれない。そんな可能性まで、アストラは見た。


 そして、その可能性に背筋がわずかに震えた。


 ロクサーヌが気に留めたのも、当然だったのかもしれない。あの女は兵器の悲鳴に敏い。自分自身が兵器だからだ。ならば、兵器を壊れる前に支える手の異様さにも、本能で気づくのだろう。


 アストラはすぐに申請文書を起案し始めた。

 相手は上層部だ。感覚や勘では通らない。必要なのは明文化された価値だった。イーサン・クロークをゼロ大隊専属整備要員として臨時配属申請。理由は、特殊兵装群の継戦能力維持、現場適応型精密調整技能の高度適性、複数兵装系統への横断対応能力、並びに第零機動殲滅大隊戦力維持計画への寄与。


 文章を組みながら、アストラは自分でも少し可笑しかった。

 数日前までは、補充申請が面倒だと愚痴っていたのに、今は自分から追加の人員要請を最優先で回そうとしている。しかもただの補充ではない。これは回収だ。埋もれていた天才を、ゼロ大隊の中枢へ引きずり上げるための書類だ。

 申請文の最後に、彼女は珍しく強い文言を入れた。


 「当該要員は、現行防衛区配備の枠内に留め置くには適性価値が高すぎる。速やかな異動審査を求める。」


 そこまで書いて、送信前に一度だけ画面を見返す。

 無駄のない文面だ。だがその裏にある感情を、アストラ自身は自覚していた。

 賞賛だった。

 純粋な賞賛。観測者として、これほど鮮やかな才能の潜伏を見つけた時の高揚。派手な武勲ではなく、数字の隙間にひそむ神業。誰にも気づかれず、誰にも評価されず、それでも防衛線の均衡を支えてきた静かな手腕。そんなものを前にして、心が動かないほどアストラは乾いていない。


「イーサン・クローク……」


 名前を口に出してみる。

 ありふれた響きだった。

 けれど今や、その平凡な名前の内側に、明らかに異常な精度が潜んでいることをアストラは知っている。


「あなた、自分が何をやってるのかわかってないでしょう」


 苦笑まじりに呟いて、送信キーを押した。

 データは上層部審査ラインへ流れていく。簡単に通るとは思っていない。ゼロ大隊への異動は、普通の人事ではない。戦力移管であり、資産再配置だ。だが、アストラは通すつもりだった。必要なら補足資料も、運用予測も、戦力上昇試算も出す。いくらでもやる。

 観測者は、見つけたものを見失わない。

 それが彼女の矜持だった。


 解析室の薄暗い光の中、アストラは端末を閉じた。

 ロクサーヌが感じ取った違和感。その正体は、予想以上だった。単なる下級整備兵ではない。兵器の内側に潜る眼を持つ男。ゼロ大隊が今まで持ちえなかった種類の「支え」になりうる存在。

 この男が来れば、何かが変わる。

 ロクサーヌが変わるのか。ゼロ大隊の運用が変わるのか。それとももっと別の、誰も予測していない何かが動き出すのか。それはまだ見えない。


 だが、少なくとも一つだけは確かだった。

 アストラ・ヴィレルガンは、観測者として久しぶりに胸が躍るのを感じていた。

 戦場に新しい星が昇る時、最初にそれを見つけるのは、たいてい空を見続けている者だ。

 そして今、彼女の目は、イーサン・クロークという名の、まだ誰にも知られていない光を、確かに捉えていた。

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