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CROSS ROAD【ディール急襲】編 ~姫とやさぐれ傭兵団~ 【1】  作者: カリン
第1部 エピローグ & Episode.0
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Episode.0「 ゆめのいし 」   【最終話】

 詰め所の手すりに置かれた"それ"を、目の高さまで摘みあげ、ためつ眇めつ、じっくり眺める。

 透明度といい、曲面といい、いつもより(・・・・・)若干美しくはあるようだが──。


 門衛はしばし、じぃ……っと穴のあくほど凝視して、背後の回収棚へと押しやった。

 棚に置かれた翠石のカケラは、丸い面をわずかに残して割っ欠けている。


  "回収窓口" の立て札が、初夏の日ざしを浴びていた。

 クレスト領邸、北門にある検問所は、今日も鄙びて、のどやかだ。

 門衛は頬杖であくびをすると、回収記録簿にペンをほうりこみ、事務机から腰をあげた。


 棚の下に立てかけた専用トレーを取りあげて、三段の棚に居並んだ翠石のカケラを移していく。

 しばらく持ち場を離れる旨、同僚の立ち番に声をかけ、脇戸をあけて歩み出る。


 制服の肩に、初夏の日ざしが降りそそいだ。

 暑くもなく、寒くもなし。北方の夏は過ごしやすい。緑豊かな邸内は、今日も麗らかな日ざしに満ちている。

 道なりの左に「第一政務棟」 右の外壁沿いには「使用人宿舎」 これらの間を通り抜けると、ちょっとした裏庭が右手に見える。その向こうは「厨房棟」、更に向こうに「通用門」、更に足を進めれば、領邸前に配された小奇麗な詰め所が現れる。


 こみあげるあくびを噛み殺し、門衛は領邸母屋に足を向けた。

 静謐をたたえた豪壮な屋敷の、そのどこかにいるはずの当主付きの老執事の元に、これらを運ぶのが役目である。

 今しがた釣り人がもちこんだのは「夢の石」と呼ばれる代物だ。


 そう、夢の(・・)石。

 その名が如実に示す通り "人の世の望み、ことごとく叶えます" という、なんとも豪気な代物である。


 曰く、賊の奇襲に遭遇した小さな村の長老が、秘蔵の石で、絶体絶命の危地を脱した云々。

 更に曰く 、敵の渦中に取り残された陥落寸前の敗残部隊が、突じょ現れた少年の石により、辛くも窮地を救われた云々──。


 胡散臭い事例のご多分に漏れず、この手の逸話は、数えあげればきりがない。

 とはいえ、問題なのは、そうしたおとぎ話の中身ではない。


 この付近の河原から多く出土されるこのカケラは、領土を治める為政者にとって頭痛の種に他ならない。なにせこの厄介な石は、持ち主の願望をことごとく叶えてしまう(・・・・・・)というのだから。心やさしい善人であろうが、天下国家の転覆をもくろむ残忍非道な悪人であろうが。


 看過しえぬ事態を受けて、当該地を治めるクレスト領家は、夢の石の回収に乗り出した。

 そうした外見を持つ石を、ことごとく没収しようというのだ。


 協力者には謝礼を出す旨、公告し、ここ北門検問所には、専用の回収窓口も設置された。

 だが、それを聞いた領民が、是幸いと日々持ちこむその数たるや、


 満員御礼、大盛況──!


 になるのは、火を見るより明らかなのであった。


 透き通った緑のカケラなど、河原にいけば転がっている。

 それが金に変わるなら、なんとかして探し出し、持ちこんでやろうと思うのが人情というもの。

 迷惑なのは、回収窓口が設置された北門の門衛たちである。


「そこで(暇そうに)立ってるだけなら、ついでに、これもやっといてくんない?」 的この手の窓口業務など、面倒至極な雑用以外の何者でもない。事実、畑違いもいいところ。ぶっちゃけ、やってらんねえ、てな話である。仕事を勝手に増やされたところで、給料が増える訳でもないんだし。


 そう、北の端っこの鄙びた田舎じゃ事件も起きないもんだから、上の連中も暇に飽かして、こんな訳のわからない傍迷惑な業務(イベント)を思いつく──。


 むろん、表立っては言えないが。


「あほらし。どうせ又、真っ赤な偽物なんだろうによ~」


 裏道を母屋に向かいつつ、門衛はいつものように一人ごちた。

 そう、これらは全部、偽物だ。

 本物が一つでも混じっていれば、今頃こんな所を歩いてはいない。宿舎に取って返して荷物をまとめ、とうにどこぞへ消え失せている。もちろん、大金持ちに変身して。


 年季がかった北の詰め所が、豪勢な屋敷に突如化けたりしないのは、持ちこまれた石ころ全てが偽物であるが故(・・・・・・・)なのだ。


 だって、誰が願掛けせずにおれるだろう。石を窓口で受けとる度に。運搬の順番がくる度に。ある時は切実に。ある時は投げやりに。


 ── 夢の石よ、夢の石。俺を金持ちにしておくれ!


 いや、そもそも、そんなお宝を手中にしながら、それを領家にさし出して、二束三文に代える阿呆が、どこの世界にいるというのだ。

 望めば、願いが叶うのに?

 どんな豪勢な金持ちにでも成り代わることができるのに? 

 そう、石に願をかけさえすれば、


 ── 世界はたちどころに塗り変わる(・・・・・)


 北方特有の高木から、うららかな日ざしが降っていた。

 風はゆるやかに吹きわたり、高い梢が風にざわめく。


 澄んだ夏空を仰ぎやり、凝った肩をこきこきまわして、門衛は、くわあっ、とあくびした。

 のんびり歩く制服の肩に、裏庭の木漏れ日がちらついた。

 大小様々いびつな形のカケラたちが、きらきら緑に輝いている。

 

 見向きもされないトレーの隅で。

 

 


    【 第二部一章に続きます! 】


 




 

お読みいただき、ありがとうございます。

面白かったと思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひお願いします。

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かりん


 

 

 


最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。よろしければ、ご感想など頂けると嬉しいです。

第2部(全5章)も引き続き投稿しておりますので、お付き合い頂ければ!

また、サイトの方のテキストは、既に完結しております。覗いてやって下さると嬉しいです。


ぺちゃくちゃお喋りな玉の輿姫と(どーしても姫に振りまわされる)やさぐれ傭兵団隊長以下一同、皆さまのご来訪を心よりお待ち申しあげております。


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